戦いのゴング
「近い。と言うより、段々と近付いてきている……?」
何の巡り合わせも無いそれぞれが出会うのは偶然とも呼ばぬ事象。
「へぇ、そいつはラッキーじゃねえか。」
一方が追い求め巡り合ったのならばそれは一方にとっては邂逅。一方にとっては理解に至らぬ。
「しかもおそらく真っ直ぐこっちに向かっているようですが……」
では、それぞれが互いを追い求める確執がそこに存在していたのならば……やがて巡り合うは必然にして宿命。
「真っ直ぐ……?ふーん……」
よってこの遭遇は予期された未来。
「まさか、向こうもこっちに気がついてるとか……そういう事は無いよな?」
だが、この世界で生きる者達にとってそのような事は重要では無い。
「まだ結構距離はありますし……それにもしそうだとしても狙われていると知っていたらむしろ反対方向に逃げるはず……」
その出来事によって世界が、自分がどう変わるか。
「……特に何も知らずに俺達に接近してきているのかはたまた……敢えてこちらに向かっているのか。」
……どう、生きるか。
「どっちにしたって、こっちにしてみりゃ美味しい話だ。いくら雑魚とは言えこんな魔物だらけの場所にいつまでも居たくはねえ。」
その考え方の違いこそが、空の上からただ漠然と世界を眺める者と今まさにこの世界に立って前を向いて生きる者の差異、隔たりに他ならない。
「とりあえずそいつらが来るまで……ここで油を売ってるとするか!!」
……
「おぉ、結構倒されてるね。」
段々とその人達の居る場所に近づいているのか、魔物の死骸があちらこちらに散らばっていた。
「あーあ……こんなにやられちゃって……」
「そういう割にはそこまでショックでも無さそうじゃねえか?」
「確かに……」
パリィくんも死骸を見て残念そうではあるけれど、そこまででは無い。
「やられちゃうのは仕方ない事さ。人と魔物が出会ったらどっちかは死ぬ。そういうもんだから。けど……あれなんだよ、あんまり倒され過ぎるのって良くないって言うか……」
「?どういう事だ?」
「……おいらも上手くは説明出来ないし、根拠があるわけじゃないんだけど、多分魔物が一気にバーッてやられるのって……色々良くない事が起こる気がするんだ。人にとっても……」
「私達にとっても……?」
……どういう事だろう。魔物なんていくら倒してもいいはず。それがどうして私達に不利益になると……
「ガロミオもそう言ってたんだよ。魔物が減り過ぎるのは良くない事だって……魔物が危機に陥れば陥る程、魔物はそれに対抗する為の力を求めてより強力になってしまうって……」
「……あ……」
……
「魔物を完全に討伐し尽くすという事は現実的に言って不可能だ。そして魔物達が強くなり、進化を遂げる為に必要なもの。それは自分達よりも強い者達との過酷な戦いだ。魔物は絶対数が減れば減る程に、生存するための術を覚え、そして凶悪になる。」
……
言っていた……ガロミオさん、前にそう言っていた。
あくまであれはガロミオさん自身の仮説でしか無いようだったが、もし……あの言葉が正解だったとしたら……?
「(……私達人間が魔物と戦うとするなら、絶対に自分と同等程度か、あるいは力の弱い魔物を狙う……それは当たり前だ。つまり全体の中でも下位の魔物の数は減少していく。けれど……力を持った上位の魔物達は無傷のまま……むしろその力を持った個体ばかりが全体を大きく占めていく事に……)」
……なんてこった。私はかつて日中夜問わず敵と戦い続けるなんて事をしていたが……私が倒せる程度の魔物を倒した事で逆効果だった可能性すらあるんだ……
「(……もしかして、もしかしてだけど……あんまりにも魔物の数が減り過ぎた事によって……オドが現れてしまった……?)」
そんな可能性すら……有り得る。
だとしたら、私がやるべきは魔物を倒す事では無く……今のこの状態を保ち続ける事?そうすればオドはやって来ない。何故なら自分達が窮地に追い込まれないから。
「(そんな……そんな事……)」
「シノ、顔色が悪いけど……大丈夫?」
「……え……?」
……自らの考え事に没頭していたせいで、現実逃避になっていたようだ。
「具合が悪いようなら……少しどこかで休みますか?」
「あれだったらその辺の陰で休んでけよ。おいらが居るから魔物に襲われる心配も無いしさ。」
……私は自分の体の感覚を取り戻す。
「……いえ。何でもありません。ちょっと……その、惚けていました。」
「惚けて……?」
「……はい。だから、大丈夫です。」
「「……」」
……分からない。今の私の考えが正しいかは、まだ、分からない。
この仮説を誰かに話して、もう少し考えてみよう。モルフィンさんや、ゴアステラさん達に……
「(……今は魔物の事より、さらわれたナナちゃん達の事を考えよう……)」
……私の頭で一度に複数の事なんて考えられない。そんな事すればどっちかが疎かになるどころかどっちもダメにしてしまいかねない……
ちゃんと目の前の事をしっかりこなすんだ。
「……ん?おい、あいつらじゃねえのか?」
……さぁ、切り替えて行こう。私。
「戦ってるねぇ。」
「しかも素手だな。」
3人の内2人が魔物を軽くあしらうように倒している。もう1人は……少し離れて笑みを浮かべながら……
「……」
……こっちを……いや?私を……見ている?
「……」
何かつぶやいたようだったが、私の距離からでは、聞こえなかった。
「おーい、お前らちょっと待てー!ストップだストップ!」
「「……」」
ジェイさんの呼びかけによって、3人は戦いを止め、こちらを見る。魔物達もパリィくんの指示があってか大人しく身を潜めて消えていく。
「戦ってるとこ悪いんだが、ちょっと話に付き合って貰っていいか?」
「話?何の話だ?」
「この森で何してるのかなーって話。冒険者なの?魔物退治の依頼か何か?」
「「……」」
黙ってしまった。と言うか、何だろうこの人達……なんだか変な感じがする……初対面の私達を見る目がどこかおかしい。この冷めたような目は……まるで、獲物を狙うかのような……
「魔物なんて、別にどうだっていい。ただここに狙ってる『もの』ってのがあったから来ただけだ。」
「もの?」
「ああ……そうとも。その……帽子のお前がな。」
「「っ……?!」」
「私……ですか……?」
その人が指差した先には……私しか居なかった。
「ふん、なるほど……どうやらお前……異世界人なんだってな。」
「……!」
その言葉に動揺する他なかった。
「その反応、間違いないらしい。」
「まあ俺の能力に間違いは無いですよ。目の前に居るからセンサーがビンビン反応してます……間違いなくそいつが異世界人ですよ。」
「シノさんを……異世界人を狙っている……?」
「まさか……てめえら……」
ナナちゃん達をさらった奴らの……一味……!!?
「悪いが一緒に来てもらおうか。ちなみに他の奴らも何か珍しい能力でも持ってたりするのか?だとしたらそいつらもサービスで連れて行ってやる。」
「あたかもそれが良い事のようにほざいてんじゃねえよ。」
「俺達にとっては大手柄に繋がる事だ。まぁ何にしても……そのまま大人しくついて来るはずもねえし……ちょっとばかり手荒な真似が必要だろうがな!!」
「……来ます……!」
男達は牙を剥きだしにして……飛び掛かって来る!!
狙いは……私ッ……!?
「……っ!」
武器を持って、身構える!
「うらあああッ!!!」
……だが、私と男達の間を阻む人が居た。
「……カッコつけた真似してると、痛い目見るぜ兄ちゃんよ?」
「シド様!!」
「そっちこそ……人の女に手を出そうとしやがってからに……容赦なくぶち殺すぞ……!」
ひ、人の女だって……(キャーキャー!!!)
か、カッコ良すぎて嬉しくなっちゃうけど……浮かれている場合じゃない!!敵の拳をシド様が剣で受けてくれた。だが向こうもそれでたじろぐ様子も無い。未だ不敵な態度を崩さない。
「この人数相手に良い気になってんじゃねえぞタコ、コラぁあ!!」
「数揃ってもデカいのは威勢と声だけだろうに……うぜぇなぁ……!」
ジェイさんも得意の拳を突き出して殴りかかるが……
「……ぬぉぉっ?!」
「てめえも拳が得意みたいだが……レベルの差を知れや!!」
なんと……真っ向から拳をぶつけて反撃してきた!
「ぬ……ぬぬぬ……ぉおお!!!」
「……」
怒声を上げながら力を込めるジェイさんだが……向こうはいたって涼しい顔で受けている……傍目から見ると、こちらが不利な様子に見えてしまう。
「に、兄ちゃんのパワーと互角?!」
「だ、誰が……互角なもんかよ……ふるぁあああああ!!!」
「!!……ちっ……!!」
更に渾身の力を込めた攻撃にようやく焦りを感じてか、やっと男は離れていく。距離が開く。
「……はぁはぁ……!!どうだ!」
「少しは力量があるみたいだな。バカ力ではあるが。けど……力押しだけじゃどうにもならねえってのがやがて分かる。戦いってのはパワーとスピードのバランスが物を言う。」
「講釈垂れてんじゃねえ!お前にシノは渡さねえ!これ以上大切な仲間を奪わせてたまるかってんだ!!」
「じぇ、ジェイさん……」
「兄ちゃんカッコいいぜ!!」
……うん。カッコいい!
「レスタさん……俺、こういう雰囲気の中に居るのがどうにもむず痒くて仕方ありませんよ……」
「ああ、俺もだ。甘ったるくて胸やけがする……適当に一人殺しゃあ大人しくもなるだろう。」
「また物騒な事を……」
「ナナちゃん達は……どこに居るんですか!」
守られてばかりではいけないと私は叫んでみる。
「誰だか分からねえ奴の事は答えようがねえ。」
「てめえらがさらっていったんだろうが!」
「……なるほど。つー事はお前らも俺達を探してたってところか。だから一直線にここまで向かって来てたと……」
「これで合点がいきましたね。」
こっちの質問の事などお構いなしに勝手に何やら納得している。こんな姿勢では話にならない……
「知ってる事があるならとっとと全部吐きやがれ。そんでその後ぶち殺してやる。」
「悪いが知ってる事は何一つ吐く事が出来ねえ。ちょっとの漏洩も許されねえのが俺達だ。そして今ふつふつと今怒りが沸き起こっている。帽子の奴を除いた何人かはここで死んでもらわなきゃならねえ程度にはな。」
「一人頭一人分として……ざっと3人はここで死なせてやる。」
「「……」」
勝手な、皮算用をしている。余裕なものだ。
「言ってくれるじゃねえか……けどそれより先にてめえ……」
「?」
「ちょっくら俺に付き合えよ。俺はどうしてもてめえとキッチリやり合わねえとどうにも気が収まらねえ。パワーとスピードの何たらを見せてみろよ。」
「……」
ジェイさんは自らの相手に、さっき打ち合った男を指名する。
それは、一騎打ちの申し込みであった……
「言っておくがお前ら全員が束になってかかって来ても俺には勝てねえ。それだってのに、俺と一対一でやり合うってのか?それとも……油断した所を全員でかかって来ようって算段か?」
「バカ言ってんじゃねえ。もしもてめえがこの勝負を受けるってんならそれは男の勝負……助太刀や妨害なんて許さねえ。何より俺は俺自身の力でてめえとキッチリケリをつけてえんだ。この……拳でな。」
「……」
男からすればジェイさんのその言葉は、命知らずの蛮行にしか映らなかっただろう。
「……最初に死ぬのは、お前で決まりだな。」
そして男からすれば、この試合は買ったも同然。だからこそ受けて見せる。
この勝負……成立する。
「兄ちゃんがそいつとやるってんなら……私はお前を相手してやる。」
「あんだと……?」
そしてその魂の勝負に触発されてか、エルさんも名乗りを上げる。
「見た感じだとお前はそいつよりは下だろ。こっちも私より兄ちゃんの方が強い。バランス的には丁度いいし、私だってそろそろ体がうずうずしてる。何よりずっとずっと我慢してた。ナナや雪美をさらってったお前らを一発殴ってやりたいって!!」
「エル……」
怒りを覚えていたのは、皆同じ事。エルさんが言わずとも、あるいは他の誰かが名乗り出ていたかもしれない。
「舐めた口利きやがって女が……中途半端にしゃしゃり出て来た事を思い切り後悔させてやるよ……」
男も不敵に勝負を受け入れる。きっと頭の中ではどうやってエルさんをいたぶるかを想像しているのだろう。
「ならどっちが先に相手をぶっ殺せるか競争ですかね、レスタさん。」
「まぁそれもいいが……とりあえず他の奴らが隙を見て奇襲して来ねえかどうかだけ気に留めとけ。それで足を掬われる事も無いだろうが念の為だ。」
……救出に入る必要は、無い。
だって、二人は勝つ。絶対に。
だから私は信じて見守ろう。
……だって、そう決めたから。
私達は。




