相反する胸の内
後先考えずに放った私の大弁舌に……皆、引いていた。
つい数秒前までと今で、みんなが私を見る目が全然、違っていた。
そう感じた時、私は孤独感を覚えた。
……みんなとの間にある、埋める事の出来ない距離があるのだと。
「「……」」
魔物を憎む私の心が、この場で言うべきでない事を……口にさせてしまった。
「「……」」
……これから先の行動を思えば、ここで輪を見出すような事するべきじゃなかったのに、それなのに私と来たら感情に任せて……とんでもない事をぶちまけてしまった。
「「……」」
……やって、しまったと後悔する。
もう、取り返しのつかない事を……
「……よし、しっかり俺の教えた事を理解しているようだな。うむうむ。」
「……し、シド……?」
そんな冷めきった空気を、まるで何も感じていないように最初に言葉を開いたのは……シド様だった。
「シノの言った事は正しい。全面的にだ。俺も全く同意見だからな。俺はいつだってシノにそう教えて来た。魔物は敵以外の何者でも無いから躊躇するなってな。ようやくそいつを理解したみたいだが……ちょっとヒートアップし過ぎだぞ。そこまで感情を乗せて言えとは言っていない、アホめ。」
私はシド様にチョップされる。
「……あぅ……」
とっても……優しく。
「けどまぁ、その通りだ。お前らちょっとばっかし情に絆されてか勘違いしてるようだが、魔物は魔物だ。本来助ける必要はこれっぽっちもねえ。俺からすれば野郎と同格ぐらいに邪魔な存在だ。」
「で、でも……パリィにはお世話になったのに……そんなちょっとぐらい……」
「そうするのはまぁ好き勝手だが、俺は魔物の頼みを聞くなんてそこにメリットが無いとやる気にはならん。」
「メリット……?」
「なんか珍しいもんを寄越すかとか、良い情報を教えるとかそういう話だよ。世の中ギブアンドテイクってもんだろうが。」
「な、何かって言われても……おいらからあげられるものなんてそんな大したもんは無いよ……」
「人間の世界じゃ何か対価がねえと始まらねえ。そいつが労力に見合った時初めて動いてもいいという話になるんだ。そうだろうがお前ら。」
「……それは……確かにそうではありますが……」
「……」
ジェイさん達のシド様を見る目が、どことなく……軽蔑感を匂わせていた。
恐らくではあるけれど、パリィくんの頼みを聞くのにそのような言い分をする事をあまり快く思っていないからだろう。
情に流されるだけの関係があってもいい。そう思う人にとって、報酬を要求する人はどこかあさましく見えてしまうのだろう。
でも、そんな事はシド様の本意では無いと私は理解出来る。
……シド様は今、私を……庇ってくれているのだと、分かる。
「が、ガロミオにも何かお願いしてみるから、頼むよ……本当に殺すのをやめてくれって交渉してくれるだけでいいからさ……もしそうなったらそいつらが居る間だけは人を襲わせないようにって言うから……」
「んな事が出来るんだったら永久的にそうさせろよ。」
「そ、そこまでは無理だって……魔物ってのは本来人を見たら襲うように出来てんだから……」
「ったく、随分と機転の利かねえもんだ……魔物ってのはしょうがねえな。」
わざと悪態をついて、自分を悪者に見せようとしている。パリィくんの前だからと私が潜めていた言葉を……シド様が代弁してくれている。
「……んじゃあ結局、お前はどうすんだよ。行かねえって事かよ。」
「行く理由が無いって最初から言ってんだろ。お前らがそうしたいんなら好きにすりゃいい。元より俺はお前らと行動を共にしていたつもりもねえ。たまたま行き先や目的が同じだったから結果的にそうなってただけでな。」
「そんな……」
「……そこまで、言わなくてもいいと思いますが……」
「シド……」
今シド様が向けられている視線は……ついさっきまで私が受けていた物と全く変わらない。私が受けていたあの孤独感を……シド様が代わりに受けてくれているのだ。
……私のせいでこうなってしまったのに、その全ての原因を、背負わせてしまっている。
……私の……せいで……
「あ……あのっ……!」
「「……」」
……ごめんなさい、シド様……
シド様は私を孤独から救ってくれる為にそんな風にしてくれているんですよね……でも……
「その……シド様……私……」
「「……」」
……でもやっぱり、それじゃあダメですよね……『私達』がそれじゃあ……ダメですよね……
……
私はいつだって、あなたの強さにおんぶにだっこだった。
……いつからか知った。
どうして私があなたに憧れるのか。
それは、弱い私が言えないような事を、弱い私が出来ないような事をあなたはしていたから。
凄く違っているように見えて、私とあなたのやろうとしている事は、同じだったから。
私があなたの傍に居たいと思った理由もきっとそれと同じ。あなたの描く未来は私の望む未来と同じだった。あなたと一緒に居れば私も幸せになれたから。
「独りで何が悪いってんだッ!もうこれ以上俺の中に入ろうとして来るんじゃねえ!!俺の前からさっさと居なくなれッ!!」
……戦争の時、ゴーバスでの騒ぎを起こしてしまった後、二人で雨の中話した時のあの言葉、私は忘れない。あの言葉はあなたの強さと弱さを同時に私に教えてくれたんだ。
独りであろうとも生きていけるという揺るぎない強さと……やっぱり、少し一人じゃ寂しいと感じる弱さ……
……独りというものがどれ程心細いものであるかを十分に知っているシド様だったからこそ……あの時私を遠ざけようとしたんだ。
……私を、同じような孤独にさせないために。
……けれどそんなあなたに私はこう言った。
二人で、強くなっていこうと。
二人なら、絶対に孤独じゃないから。
……あなたの優しさを今感じているからこそ……私はあなたの優しさに少しでも報いたい。
……
「……シド様私……その……言ってる事が二転三転しちゃってるんですが……やっぱり、ちょっとその人達と話し合ってみようかな……なんて思ったり思わなかったりしているんですが……」
「……」
「……」
「……」
「……はふぅ。」
「……メリットは何だよ。」
「メリットは……今後困った事があったらパリィくんに協力してもらえるという……ちら……」
私はパリィくんを、見る。
「そ、そりゃあもし助けてくれたら……おいらに協力出来る事なら何でも……」
「……だ、そうですし……それにきっとシド様も本当は心の中で助けてあげたいと思っているんだと私悟りました。」
「……あ?」
「ちょっとみんなの流れに合わせて素直になれないからそんな風に悪ぶって見せているって私ちゃんと分かってます。と言うか私の少々誇張し過ぎた言い方のせいでそんな風にさせてしまったんですよね。すみませんでした。」
「……」
ある程度は正直に、けれどもある程度は隠しながら……私はみんなの前でそう語る。
「と言うわけなのでジェイさん、私とシド様も一緒に行きます。色々こんがらがらせてしまってすみませんでした。」
「……お、おお?よ、よく分からねえが……そういう話……で、良いのか?」
「はい。私もシド様も行きます。行きますとも。ちょっとそのう……変なボケをしてしまったせいで場の空気を悪くしてしまいました……しゅん……」
「い、いや、別にそんな事はねえけどよ……」
「私たまに変な電波を傍受してパニックシノちゃんになってしまう事があるのであまり気にしないでください……」
「変な電波……」
「……じゃあ、みんなで行くって事で、いいんだね?シドも……それでいいんだよね?」
「……どうでもいい。行くなら行くでさっさと片付けてエイスの町に帰る。」
「……そうですね。あくまで私達の目的はそっちです。あれこれ話しているより、行動するべきですね。」
完全なる仏頂面ながらも、最後には渋々ついて来る事を決めてくれたのであった。
「そしたらさ、パリィ、その人達がどこに居るのか教えて欲しいんだけど。」
「あ、ああ。分かった!クロックロウに案内させるよ。そいつについて行けば大丈夫さ。てか俺も行くよ!」
「おえ?いいの?」
「いいのって言うか……お前らに頼むだけ頼んでおいらは安全な所で待ってるってのは何か嫌だし……かと言って何が出来るわけでも無いけど……」
「けどこの森を知り尽くしているパリィが居れば結構役立つかもしれないし、居ないより居てもらった方が良いんじゃない?」
「ま、そうだな。それに別に戦闘になるってわけでも無いだろうし、パパっと片付けちまおうぜ。」
「よーし、じゃあそうと決まったらさっさと出発だー!」
……どうにかこうにか、最後にはある程度の雰囲気にまとまって、ひとまずはその人達の所へとみんなで向かう事になった。
……私が出来る限りで、どうにかリカバリー出来たと……言えるんだろうか。
「……なぁ、嬢ちゃん……」
「……パリィくん……?」
そんな中彼が、ヒョコヒョコと私の傍に寄って来て……
「……おいら達の事嫌いなのに、協力してくれてありがとうな……」
「……」
……その言葉には何の裏も無い。きっと本当の善意。だからこそ、心が痛む。
「……私は、魔物は嫌いです……パリィくんだから、協力するってだけです……」
「それでいいよ。ありがとうな。」
「……」
……もっと上手い言葉がいくらでもあったろうに。
魔物だからと一緒くたにするでは無く、もっと器用に考えられたら……どれだけ気持ちが楽になるだろうか。
……別に魔物の味方になれと言ったわけじゃ無い。ただ、自分にとって見知った相手達が傷付くのを避けられないだろうかというそんな……ささやかな願い。
力無い私が大切な人を救って欲しいとお願いするような事。
これまでも私がやってきた事。
自分の頼みは散々聞いてもらっておきながら、いざ自分が頼まれたらごめん被るなんて、私の方がよほど自分勝手な事をしている。
だとしても……パリィくんの優しいお願い事を、真正面から否定した私が……申し訳なさを感じる資格は無い。
……謝る資格も、無い。
……
歩く、歩く。森を歩く。
「シド様シド様……(とてとて。)」
「何だよ。」
「……もじもじ……」
今の私は好きな男の子に告白する女の子……きゃっ……
って、そんな甘ったるい話では無い……もじもじしている場合じゃない。
「……さっきはすみませんでした。私のせいで……」
「……何の事か分からん。」
「……私の事、庇わせてしまって……」
「庇う?」
「……私が悪いように見られない為にワザとシド様が……」
「俺は思った事を言っただけだ。魔物を助けるなんてアホだとしか思わんからな。そんでもって見返りも大した事無いと……ま、別に頼まれ事自体が秒で終わるような事だから詰まるところやっぱりどうでもいいってのが本音だな。」
「……あふぅ。」
そう言って、私を気遣ってくれる……
「……ヒートアップしてしまいました……」
「そういう時もあんだろ。珍しいが珍しくも無い。」
「シノだって怒っちゃたりする時はあるよね。いつも優しいからみんなちょっと驚いちゃっただけだよ。」
「……あふ。」
二人には私の精神的な面でもいつもお世話になってしまっている……情けない。
「いいんだよ。たまにはストレス解消みたいに言いたい事を言うのがな。第一納得出来ない事を無理矢理飲み込むなんてそれこそ自由じゃない。」
「……ごめんなさいシド様……(すりすり)」
「歩き辛いんだが……」
「申し訳ないの想いを込めて私の温もりと感触をシド様にと思いまして……(すりすり)」
「歩き辛いからやめい。」
「せっかくなのでシド様おんぶして欲しいです……」
「何がせっかくなのか分からん。」
「申し訳ないの想いを込めて私の温もりと感触と愛しさと愛くるしさをシド様にと思いまして……」
「(なんか増えてるし……)自分で歩け。」
「あふぅ。そんなそっけない……」
「ふふ。やっぱり私はいつもの二人が好きだな。」
……私も、いつもの私達が好きだ。
「……空気を悪くしてしまった分、今回は私が頑張ります。」
「頑張るったってただ話すだけだろ?」
「私の交渉術を使ってすかさず終わらせてみせます。名付けてシノちゃんのお色気交渉術。」
「一部の層にしか効果が無いから止めておけ。」
「なんと……私の色気はそんなにニッチだったのですか……しゅん。」
自分の体型の需要の無さを知る……とぼとぼ……
……
と、そんなシド達の様子を後方から伺うジェイ達。
「なーんか、色々あってもあいつら引っ付き合ってんなぁ……」
「ほんと仲良いよねぇ。私達兄妹ぐらい。」
「さっきのはちょっとビックリしちゃったけど、もう元通りだね。」
シノの豹変も、4人の記憶にはそう強く残りはしない。すぐにシドが割って入ったというのが上手く作用したのだろう。
「……それにしても、なんだか嫌な予感がするわ。」
「嫌な、予感って……?」
「……正体不明の、ただならぬ予感が。」
「……マジかよ。」
「ちょっとだけ。」
……この中では周知の事実ではあるが、アイの予感はよく当たるのであった。




