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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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理想と現実とゲームの狭間

明日以降の動きについてあーでもないこーでもないと様々な意見交換を交わした後、なんやかんやで私達はそれぞれの時間を過ごす事になった。


やがてケイさんやアイさん、ジェイさんにエルさんも眠りに就き……何故か私は、パリィくんと話をしていた。


パリィくんは私の持っている荷物のあれこれに興味津々だったようでそれを見せている内に……


「ふうん、これってのはどうやって使うもんなんだ?」


パリィくんは紙の束をペラペラとめくっていた。


「それはAZと言うカードゲームです。人間側と魔物側で別れて戦うものですね。」


前の世界でシド様と遊んだっけ。


「なぁなぁ、これって俺でも遊べるのかな?」


「……まぁ、ルールを理解すればそんなに難しくは無いと思います。」


「そしたら俺にやらせてくれよ。面白そうだったらガロミオと今度一緒にやれるしさ。」


「……」


寝床を提供してくれる相手からそうせがまれては……断る事も出来ず、私はパリィくんとゲームに興じた。


「ほいっと!砦を攻撃!」


「伏兵を忍ばせていたのでパリィくん側の戦力を削る事が出来ます。」


「なにー!?上手くやられた!嬢ちゃんゲーム強いんだなぁ……」


「……現実はこう上手くはいきませんよ。」


ただ出したり引っ込めたり、そんなぐらいで自分の仲間達を守れるなら……私だって苦労しない。


こんな風に真上から見下ろすように世界を救う事が出来たら……どれだけ幸せな事か。


「うりゃ!うりゃ!めげずに攻撃だ!」


「……」


まだ初心者な事もあってか、パリィくんの攻撃を悉くしのぎ切った私の勝利に終わった。


「あー負けちった。けど面白かったなこういうの!」


「……魔物達の間では、こういう遊びって無いですよね。」


「無い無い。そもそも何か道具を使って楽しむとかそういう考え自体が無いんだよ。」


「……ですか。」


……魔物にとってある愉悦とはおそらく、人を襲い……その身を喰らう時だろうと想像する。


そんな者達がたとえ知恵をつけたとて……人と言う存在をどのようにいたぶればより快感を得られるかという事を考える為に知恵を使うのだろう。


「シノ終わったの?パリィとどっちが勝ったの?」


「タンザナイトちゃん……」


「見ての通りおいらのボロ負けさ。あーあ。」


「って言われても……私もルールよく知らないからどういう局面だったのかよく分からないけど。」


「どれどれ。」


そして、シド様も私達のゲームの後をのぞき込む。


「……ふーん、上手いな。」


「?上手いって?」


「シノの攻め方がだ。肝心なところはしっかり守ってるし、ここぞという時には臆する事無く攻めている。お手本みたいな戦略だ。」


「へぇー、そうなんだ。」


珍しく(?)シド様が素直に私のプレイを褒めてくれる。ちょっと嬉しい。てれてれ。


「前にやった事があるのか?」


「……何となく、です。」


……ちょっと、はぐらかす。まだこの世界においては……初プレイだという事をすっかり失念していた。


「なーなー、今度は人間側と魔物側交代してやってみようぜ。俺も守ったりする方やってみたいんだ。」


「……パリィくんが人間側で……私が……魔物側……」


……私達は互いのカードを……陣営をチェンジする。


「……」


……ただの、ゲームだと分かっているのに……自分が魔物を使役する立場になるという事に酷く嫌悪感を覚えてしまう。


何より……人を倒す為に戦略を立てるという半ば裏切り行為に近いような思考をする事が……嫌になる。


「……」


「?どしたのシノ?」


……もっとも効率のいい最善手は……


「嬢ちゃんの番だぜ?」


おそらく砦に居るであろう伏兵を見越して……


「そんな悩むような場面でもあるまいが……」


……近隣の村や町を襲って……人間側の戦力を……


「……シド様……変わって……くれませんか……?」


「……あ?」


「……ごめんなさい、パリィくん……私、ちょっと気分が悪くなってしまったみたいです……」


「お……そ、そうなのか?大丈夫か?少しその辺で横になった方が良いんじゃないのか?」


「……そうします……ごめんなさい。」


手札のカードをその場に残して私は……ゲームを放棄した。


……とても、耐えられなかった。


……


……ここ最近、少しばかり自身の魔物へ対する憎しみが落ち着き過ぎているというのは自覚していた。


それはおそらく魔物よりも優先して倒すべき相手が居たからだろう。


だからと言って決して魔物は後回しにして良いなんて事は無い。


いやむしろ……私の歩むどの道も、最後には魔物達を滅ぼすという結果に繋がらなければならない。そうでなければ私がこうして時を遡った意味が無い。


可愛いから良いとか……あまり強くないから良いとか……そんな中途半端な考え方じゃ……ダメだ。


たとえ魔物の中では最弱とも言われるめけモンだとしても無抵抗の人一人を殺してしまうぐらいの力は持っている。危うい結果を招きかねない要因は全て残さず排除してこそ……本当に平和と言えるんだ。


視界に入った魔物は全て殺す……殺し尽くす。それぐらいの気構えが無くて……どうして人類全体を救えるもんか。


だというのに私は……私と来たら……つい今しがたまで魔物であるパリィくんとゲームなんかに興じてしまっていた……


「(……殺すべき相手と……ゲームをやって楽しんでいるなんて……馬鹿げてる。)」


パリィくんは可愛い風貌をしているし、私なんかにも人懐っこく優しくしてくれる。


……けれど、魔物だ。


時が来ればきっと……人間に牙を剥く存在。


「(いっそ……狂暴な格好をしてくれていて欲しかった。誰が見ても人類に対して害を及ぼすであろう存在であって欲しかった。)」


あんな風に普通に接されると私は……本当にあるべき私の姿を見失ってしまうよ……


魔物と話をして……お互いの事を知って和解する事が出来れば……争わずに済む未来だってあるかもしれない。


……そんな夢物語をバカみたいに見続けていたのが、私だ。


……


「てめえらは所詮俺達魔物に生かされてるだけだ!!攻め込まれて有無も言わさず食い殺されないだけてめえらは幸福なんだよォ!」


……


……血も涙も、奴らには存在しない。


野放しにしておけばそれだけ……平和に暮らしている人達の血や涙が流される事になるだけ……


「(人も……魔物も……私の大切な人達に危害を加えようとするなら……それは……倒すべき……殺すべき対象でしか無いんだ……!)」


……意識が薄れそうになろうとも、この殺意だけは決して忘れてはいけない。


……私の背負う宿命であり……自らの罪の証なのだから。


……


「お前下手くそだな。」


「まだ始めたばかりなんだから仕方無いだろ!」


……野郎と向かい合ってゲームをするなんてのはもちろん論外だが……こういう場合はどうなるんだろ。


「あ、ねえねえ、こっちのカードを出して攻めてみたら?」


「?これか?よーし分かった……攻撃!!」


「悪いがここにはゴラックスを配置しておいた。」


「げっ!!」


「魔法使い系のユニットが居ないと苦戦必至だぞ?どうする?」


「う……うー……おいコラ!ピンチになっちゃったじゃんかよ!」


「そんな事言われても私もよく分からないから適当に言っただけだもん。」


「うぐー……もう戦力はだいぶ使い切ってるし……けどここで失敗すると取り返しが……」


小さい体の者同士意外と気はあっているように見えなくも無い。


「(あいつは……)」


ちらとそっちを見ると……枕に突っ伏してうつ伏せになっているその姿が変わらずそこにあった。


「(……あいつ、途中からなんかおかしくなってたな……)」


急に体調が悪くなったかのように言っていたが、俺が見ていた限りでは既にこの場所に来た時点であまり浮かない顔ではあった。


ナナや雪美の事かとも思ったが……どうにもそれ以外の部分に何か問題がありそうな雰囲気を醸し出していたのだ。


「シノの事が心配?」


「……大丈夫だろ。ちょっと横になりゃ大抵の事は片付く。」


「女の子はそんな単純じゃないんだよ?全くぅ……」


……そんな事言われても、俺には分からん。


「元気出るといいなぁあの嬢ちゃん。」


……人の良さそうなセリフだが、それを発しているのは……魔物だ。紛れも無い、魔物……


「……お前、人間に対してやけに友好的じゃねえか……?」


「ん?」


「ここに一緒に住んでるそのガロミオって奴も姿はどうあれ人間なんだろ?」


「そだな。」


「魔物ってのは……人間を襲うように出来てるもんじゃねえのかよ。」


俺はそう決めつけている。だからこそ魔物に対して何の容赦もせずにいれるのだ。


奴らは必ず人間に対して害を及ぼす。だからこそ、殺す。そういう正当な理由が出来る。


けれど仮に奴らに何らかの理由があるのだと知ってしまえばそう簡単に行かない人間も出て来る。シノのように。


「おいらはそもそもがあんまり強い魔物じゃないからさ。言わば周りの機嫌を窺ってへーこらしてるような魔物の中でも下っ端なんだよ。けどそんなおいらが何の偶然か異常に他の奴らより長生き出来た。強かったからじゃなく、たまたま運が良かったからさ。その偶然のおかげでおいらは少しだけ知恵がついた。もっと良い感じの生き方が出来るんじゃないかって。」


「良い感じの生き方だと?」


「そう。それが、この森を根城にして、ここに住んでる奴ら全員のまとめ役みたいなもんになるって事だったのさ。あれこれ考える力を持たない魔物にとっておいらみたいな存在はまぁまぁ貴重なわけだから。何か揉め事とかあれば上手くやりくりして収めたり、それぞれの縄張りを決めて住みやすくしたりさ。」


「……魔物の癖に、変な仕事をしているんだな。」


「変とは何だよ変とは!ま……それもガロミオが来てから色々変わっちゃったけどな。」


「パリィはガロミオって人の事、好きなの?」


「よく分かるな。」


「なんかその人の事を話してると楽しそうな顔するからそうなのかなって。」


「……素っ気無いけど、でもガロミオは何度も助けてくれたんだ。俺やこの森の奴らをさ。ガロミオは良い奴なんだよ。親切にしてくれる相手を嫌いになんてならないだろ?」


……そのガロミオって奴は、魔物と分かり合えるなんて事を考えている僧侶のような奴なんだろうか。だとしたら……能天気な野郎だ。


魔物なんてどこまで行こうが人間の敵でしかない。目の前のこいつみたいな存在……それこそこの世界に存在する魔物の中で1、2体居るかどうかなんじゃないのか?


話が通じたところで悪意を目の当たりにするのが目に見えている。


「これが……ラストチャンスだ!!」


……そして、アホにも残った少ない戦力で本陣に攻撃をかけて来る。最後の残りカス……


「残念ながら……そっちの勢力とこっちの勢力差は歴然……これでゲームセットだな。」


「ぬあにー!!!ぐやじー!!人間側でも負けたー……」


カードを放り出してコロンと仰向けになる。


「このゲームルールは簡単そうだけど、色んなパターンとか考えると結構奥が深いね。」


俺の持ってるゲームは大体そうだ。やればやる程面白さが増していく。単純さを突き詰めると思いのほか盛り上がる。


「なぁなぁ、何か持ってるゲームおいらに一個くれよ。」


「何でお前なんかにやらにゃならんのだ。」


「たくさん持ってるんだからいいじゃんかぁ。暇な時にガロミオと遊ぶんだよー。なぁなぁってー。」


「寄るな鬱陶しい。もう終わりだ終わり。大体なんで俺がお前なんかとゲームしなければならなかったんだ。あー時間の無駄だった。」


「ちぇっ、ケチ。」


風体以外は本当に……普通の人間みたいな野郎だ。


……もし、もしも仮に……こんな奴ばかりが魔物と言う存在だったなら……確かに人と寄り添いながら……あるいはお互いの在り方を認め合いながらどうにか生きて行く事は出来たのかもしれない。


「俺はもう寝るぞ。」


「そうだね。なんだかんだ起きてるの私達だけだもんね。」


シノはあの通りだし、アイ達はそれより早く寝入っていた。なんでか知らんが俺達だけ起きていたのだ。


「よっこいしょ……」


立ち上がり、いつもの定位置へと歩み寄る。


「……よっと。」


眠っているかどうか、そんな事はお構いなしに抱き枕のようなそいつをこの体に抱いて横になる。人には言えないが、俺はこの感触やこの匂いが……一番落ち着くのだ。


極めて……よく眠りにつける。

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