人と魔物、その隔り
「ふうふう……と、とりあえずこの辺で、腰を……落ち着けっか……」
「さ、さんせーい……」
「ばたり……」
どうにか辺りに魔物が見当たらない影を見つけた私達は各々体を休める体勢を取る。私のせいで走らせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ……
「申し訳なく思うなら流石にそろそろ降りろ!!」
「きゃあ。」
ほっぽりだされてしまった。仕方ないので着地する。
「あー、走った走った……もう向こうしばらく走りたくない。」
「だいぶ……森の奥の方に入って来てしまったようですが、帰り道はどうしましょう……」
「……とりあえず一直線に進み続ければどっかには出るだろ……」
「でも夜は視界も悪いし魔物も凶暴化するから厄介だね……うぅ。」
厄介な事に皆さんを巻き込んでしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ……
「気持ちはもういいから……とりあえず探してる野郎をとっととあぶり出せよ。こんな広い森の中を闇雲に探したって見つかるわけねえんだ……何か目印とかねえのか。」
「無いです。」
「即答すな!」
「正直がモットーのシノちゃんです。」
「「……」」
みんな私の計画性の無さに言葉を失っている。これでは私の沽券にかかわる!
「また大きな声で呼んでみましょう。動きながらそれを繰り返していれば流石にいつか私の声が届くはずです。」
「……別に俺達はそれでもいいんだが……その度に魔物と交戦するのは面倒っちゃ面倒だな……」
「つーか俺は断る。無駄に疲れるのはごめんだ。」
「……あふぅ。」
こうなると打つ手が無い……まさに万策尽きたと言う言葉が相応しい……
「もう万策尽きちゃったの!?」
「早すぎるよシノ!」
「……それは流石に冗談ですけど……でも、しっかりとした方法が思いつかないのは本当です……うぅ。」
ガロミオさん……確か大きな木の上に構えたお家に住んでいたはず……そうなって来るととりあえず歩いてそれらしき場所を探していくしかない……のかな……
「お、見つけたぞー!!やいお前ら!」
「「?」」
……この声って……
「……何だ今の。」
「……誰の声でしょう。」
「こっちだよこっちー!!小さいからって意図的においらを無視するな!」
「……どっからしてんだこの声。」
皆で辺りを見渡してみるが、少なくとも屈んでいる私達の目線の高さにはその声を発するような相手に心当たりは無い。
「いい加減にしやがれー!おいらキックー!!」
ペチッ。
「……」
どうやら今のキックはシド様に命中したらしい。確かにそちらを見ると……そこには魔物であるギューネーの姿が……
「……(むんず。)」
あ、シド様が掴んだ。
「……今のはてめえか。」
「なー!!何をするんだよー!!」
「文字通り痛くも痒くも無かったが……単純に不愉快だ。握りつぶす。」
「や、やめろー!!離せー!!!おいらに手を出したらガロミオが黙ってないぞ!!」
……この実に子供っぽい口ぶり……何よりその姿。間違いない。
「……シド様。その手を緩めてあげてください。この子は敵ではありません。ある意味……私が探していた相手です。」
「……何?このギューネーが?」
「しめた!!とぁ!」
「あ。」
丁度力を緩めたタイミングを見計らってか、彼はシド様の手から逃れて自由を取り戻す。
「ふー、やれやれ、危ない奴らだぜ。おいらの体が柔らかボディで出来てなかったら……」
「この子、喋ってる……」
「と言う事は……高レベルな魔物ね。」
「でも、ちょっち可愛いね。」
「男にその言葉は侮辱だぜあんた!」
「害も無さそうだし、うりうり。」
エルさんツンツンしている。
「やめー!初対面の相手を突っつくな!!」
……微笑ましいやり取りはこの辺で良いだろう。
「……パリィ君ですよね。」
「うん?嬢ちゃん、どしておいらの名前を知ってんだ?」
「パリィ?シノ、魔物に知り合いなんていたの?」
「……ガロミオさんは、居ますか。」
「ガロミオ……ああ、もしかしてガロミオからおいらの事聞いたのか?」
「……そんなところです。」
レイナードさんの時もそうだったけど、こういう時はそういう風にして話を合わせた方がとりあえず拗れないだろう。
「そっか。けど残念だけどガロミオなら今この森には居ないぜ。」
「え?どうしてですか?」
「ちょいと森の外の魔物が暴れてるってんで大人しくさせてもらいに行ってるんだよ。ガロミオったら腰が重いったらありゃしない……おいらが何度も頼んでようやく言ってくれたのさ。」
「は、はぁ……それは大変ですね。」
「だろ?ちょっと無頓着って言うかなぁ。」
苦労話が始まってしまった。
しかし……
「どれぐらいで帰って来るんですか……?」
「ん?どんぐらいだろうな。2、3日は帰って来ないんじゃないのかな。分からないけど。」
……それは、参った。またも当てが外れてしまう事に……やっぱりこれまでと違って未来の予測が立て辛い……
「おいおい、勝手に話が進んでるけどつまりはお目当ての奴はここには居ないって事か?」
「残念ながら……」
「……マジかよ。くぅー……それはキツイ展開だぜ……」
「……2、3日なら、また日を改めればいいかもしれないけれど……でも、足踏みする事にはなるわね。」
「歯がゆいなぁそれは……」
私の提案はあまり良い結果に繋がらず、皆さんの士気も下げてしまうというよろしくない事に……
「なあなああんたらガロミオの知り合いなのか?だったら少しガロミオの家でのんびりしてってもいいぜ?」
「ガロミオさんのお家……」
「留守中には入るなって言われてるんだけどまぁお客さんならガロミオだって許してくれるだろうし、お前らさっきこの森の魔物達から逃げ回ってたばっかりだろ?安全な場所で少し腰を落ち着けてった方が良いって。この暗い中、歩き回るよりさ。」
「それは……確かに……」
「飲み物とかあるの?」
「水とかで良ければいくらでも飲んでってくれていいぜ。何なら横になって休んでても良いしさ。」
「それは……」
魅力的な提案だった。
「……どうする。」
「……そもそも魔物の言う事を信用しても良いのかってところからではあるが……」
「何だよ疑り深いな。せっかく親切で言ってんのによ。」
あふぅ。プリプリしてしまった。あんまり機嫌を損ねられてせっかくの申し出を受けられなくなっても勿体ない……
「シド様……とりあえずパリィ君の所でお世話になりませんか?皆さんも、疲れてしまっていますし……」
「……信用、出来るんだろうな。」
「はい。悪い子ではありません。」
「初対面なのにそんな事言われると何か変な感じだけど……嘘は言わないさ!」
「……」
些か考えた挙句、結局シド様は……
「……分かった。なら連れてけ。」
「オッケー。んじゃあおいらについて来てくれよな。」
申し出を受け入れる事を選んでくれたのであった。
流石にパリィ君が先導してくれているせいか、魔物達に襲われる事も無くやがて……私達は一軒の小屋と呼ぶような居住地へ辿り着く。
「さぁ入った入った。見ての通り鍵もかかってないから入り放題。けど、あんま散らかさないでくれよな。流石にガロミオ怒るかもしれないからさ。」
……室内には、あまり生活感の無い空間が広がっていた。
「これは……普通に人が暮らすような家ですね。」
「うひゃー、疲れたー……ちょっと横になろうっと。」
「私も疲れたよー……うぎゅう……」
この場所ならば、魔物の襲撃に遭う事も無いだろうと各々がようやく肩の力を抜いてリラックスする。
「水はそこにある奴飲んでいいからな。コップとかは……あったかな。」
「私持ってます。すすす。」
どの世界でも便利な紙コップの出番。皆さんに配給する。
「ありがとうございますシノさん。」
「ようやく一息……ごくごく……美味しい!もう一杯!」
「……ふう。」
「そういえばまだ聞いてなかったけどガロミオには何の用で来たんだ?」
それについては、私が語るべきであろうと自ら口を開く。
「パリィくん、ガロミオさんは……異世界人ですよね。」
「おお、そうだぜ。来たのはもうずーっと昔だけど。ああ見えて人間で言うと結構なオジンなんだよな。」
見た目にはあまり年齢を感じさせないのはやはりその容姿のせいだろう。人が動物の姿を見たとて何歳なのかなど分からないように。
「今……この世界で異世界人の人達が襲われている話を知ってますか。」
「?うんにゃ、初耳だけど。」
人間世界で起こっている事だし魔物のパリィくんが知らないのはむしろ当たり前ですらあるか。
「実は私も異世界人で、既に私の知り合いの何人かの人達は既にさらわれたりしているんです。」
「へへぇー、そうなのか。と言う事はもしかしてガロミオもそいつらに狙われるかもしれないって?」
「です。だからその為に喚起をしに来たのが一つ。もう一つは……そいつらの足取りを探る為です。さらわれたナナちゃんや雪美さんを助け出す為にも奴らの居場所を突き止めて救出しないと……」
「……そうか。うーん、何となく事の重大さは分かったよ。なるほど。ここに来ればそいつらがガロミオを襲いに来るかもしれないから逆にそれを利用して待伏せしようって話なんだな。」
「結構賢いねこの子。」
「ね。」
「あんまり子供扱いは止めてくれよな!後おいらの名前はパリィだからな。この子呼ばわりは止してくれい。」
「オッケィ!パリィ!」
「よしよし。物分かりの良い姉ちゃんだぜ。けどそうなるとちょっと当てが外れた事になるな。ガロミオはちょうど出払ってるわけだし……」
「そう、ですね……そればっかりは仕方ありません。実際そいつらが必ずしもここに来るという保証があるわけではありませんし……」
今もこうしている内に他の異世界人の人達が被害に遭っているかもしれない。
いっそ……私を狙ってくれればいいものを。
「……外も流石に暗くなって来ちまったし……どうしたもんかよ。帰ってまた作戦を練り直すのか?」
「……あふ。」
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
「帰るってんなら無理に止めはしないけど……出来たら今日はここに泊まってった方が良いんじゃないのか?おいらは別に構わないぜ。」
「……疲れを明日に残さないという意味では、それも一つの手ではありますね。」
「話し合いならここでみんなですればいいもんね。」
「……じゃあ、今日はここにお泊りしちゃいますか……?」
「私は賛成ー!」
「俺もそれが良いと思うぜ。急いで村に帰った所で疲れて寝ちまうだけだし、それならここでゆっくりしながら明日以降の動きを決めればいい。」
大方の意見は、一致しつつあった。後は……
「シド様は、どうですか?」
「……お前がそれで良いって言うなら、俺も特に言う事は無い。」
「……分かりました。」
これで意見は、出揃った。
「パリィくん。今日の所はここでお世話になってもいいでしょうか。」
「おう、もちろんだぜ。ちなみに森の奴らにもちゃんと話は通しておくから急に夜中に教われたりとかそんな心配いらないからな。」
「ひゅー、パリィやるぅ!いよっ、森のリーダー!」
「別にそんなんじゃないけどさ、まぁある程度は顔が利くからさ。」
「魔物でもパリィみたいに話が分かる奴ばかりなら悪いもんじゃないんだけどなー。」
「言っとくけどおいらは超例外中の例外だからな。他の奴らはそりゃあ気性の荒い奴らばかりなんだから。」
……そう。
人と魔物は、分かり合えない。
パリィくんだって、魔物だ。
「……」
「ん?どうしたんだ?おいらの事じっと見つめて。」
「……ごめんなさい、何でもありません。」
……憎むべき相手……なのに、どうしてもその愛嬌のある姿を見ると……100%の気持ちで憎む事が出来ない。
「(そんな事じゃ……ダメだよ、私。)」
……あの子達の仇を取る為に私は……魔物を滅ぼすって決めたんだ。復讐こそが私の……残された生きる意味。
……今回は、皆さんの事を考えての行動。パリィくんを良いように利用しているだけ……いつかこの恩を仇で返す……それなら、何の申し訳なさなんて感じる必要は無い。
「(お母さん……あなた達を死なせた原因を作った全てを……この世から消し去って見せるからね……」)
……ここに存在しないその命達に私は、一人……誓う。




