狂気と緩惚を抱えた彼女
少々ばかり今回は考えて動かなければならないのだろうかなんて俺らしくも無い事を考えようとすればそれを無理矢理妨害しようとせんばかりに絡んでくる奴ら。
何も厄介事を抱えてない時ならまだしも、今は迷惑でしかない。わちゃわちゃ会話するのは勝手だとしても俺を巻き込まないで欲しいタイミングだと理解してもらいたいが言わずに伝わるわけもなくああいった言い方をする他なかった。今更誰の好感度が下がろうと知った事では無いし。
「(……大丈夫だよな。今回も何事も無く……終わるんだよな。)」
……この腹の中に抱えている想いを認める事が弱気であるというのならば、俺は見なかった事にしよう。何も無い。不安など存在しない。
「(俺達はしっかり前へ進んでいる。奴らの手がかりだって、尻尾だって掴み始めている。)」
何も無い手探り状態の時と比べても、それは歴然。
分かってんのは敵が組織であるって事。能力者やら異世界人やら特殊な奴を狙ってはさらっている事。
組織って事はある程度上下関係ってのもあるんだろう。そしてそれはおそらく戦闘能力などで優劣を決めているのが相場。
戦闘以外で何か役に立つような下っ端、そして戦闘員……それと後は……隊長、幹部ってところだろうか。これについさっき仕入れたばかりの情報から黒幕ってのが存在する事が分かる。
「(あのイージスって野郎は、おそらく幹部クラスだろう。)」
まだ対面して言葉を交わした程度ではあるが……その力量の高さは察した。それが冒険者としての俺の嗅覚というもの。
あれ以上がもしもわんさか居たりするようだと流石の俺もただ直進とは相成らない。少し立ち止まって対策を練らねばならないが……奴の口ぶりだとあのレベルは10人ぐらいと思われる。もちろん奴の言を鵜呑みにするなら……
……もう少し、強い奴らってのの情報が欲しい。どう強いのか、どんな力を有しているのか。
あのアープデイって奴が姿を消したり出来るってのは分かっている。他の奴もそれ相応の力を持っているに違いない。
スキルか……?いや、そんなスキル聞いた事が無い。
どちらかと言えばやはりアイテムなどによって一時的に力を得たと考える方が自然な気がする。生まれ持ってよりかは後天的な後付けの力……
「……」
俺は後ろの奴らについて想いを馳せる。
「(そう。俺はおそらく大丈夫。何があろうと死にはしないだろう。それはいつもの事……だが……)」
……他の奴らも同じ基準で考えては、ならない。
今回の戦いの危険度は……極めて高い。何せ敵の素性がほぼほぼ不明……未だ俺でさえ90%以上闇の中なのだ。
加えて……どうにも今回はシノの奴も分からない事だらけらしい。言う事が曖昧と言うか……あいつ自身これから何が起こるのか予測出来ないように見える。だからこんな風に一見すると遠回りなような不毛な動きを繰り返す事になってしまう。
だが、むしろそれが当たり前。今までの冒険が最短を通る事が出来過ぎていたのだ。シノの力によって……
「(……そうなって来ると頼れるのは……)」
……己の経験と嗅覚、そして……類稀なる強運か。
「……いいだろう。」
それが相手を見下していると言われればその通り。否定するつもりも無い。俺より強い奴が存在しないのだから。
運を引き寄せるだけの実力を持っているからこそ、道は開ける。
……夕焼けに差し掛かる前に、陽が射している内に、とっとと先を照らしてしまうとしよう。
……
「あふう。森ですね。」
懐かしいような初めてきたような。まぁ無理も無い。森だってずっと同じ光景なはず無いし、最後に来たのは何百年前やら……
「(毎回毎回思うのですが……何百年も前の事を振り返るなんて私……凄くおばあちゃんみたいですね……)」
……生きた年数だけなら、実際その通りなんだけど……
「シド様シド様……(ちょいちょい)」
「あ?」
私は小さく手招く動作をする。
「私がもしシド様より齢を取っていても私の事お傍に置いてくれますか……?」
「はぁ?なんだそれ……お前、幾つなんだよ。」
「……もじもじ。大体でもいいですか?」
「知らんけど……いいんじゃないのか?」
「じゅう……はち……」
「若いじゃないか。」
「か、118歳ぐらいです……」
「……なんでそんなに離れてんだよ。明らかに後者は有り得ないだろ。」
「おばあさんの私は嫌いですか……?」
「アホな事言ってないでさっさと行くぞ。」
……本気なのに。やっぱりシド様あんまり年を取ってるのは嫌なんだろうな……ぐすん。
私とシド様はこうやって同じ世界に居ても、実は生きた時間が違う。
……ちょっとだけ、切ない。
……
「いっけー!ドロップキックー!」
エルさんが飛んでいる。とても綺麗な姿勢だ。
「グルッ……!?」
「どーん!」
そのしなやかな足はベオベオに直撃!一気に吹っ飛んでそのまま起き上がって来ない。
「ギギ……」
「私ビーム!」
パキィッン!!
「ギギッ?!」
なんと、あの硬虫の硬い装甲を打ち破った!そして中からはむき出しの体が見えている。
「はっ!」
ビュッ!!
しなる鞭。正確無比に砕かれたその柔いであろう部分へ炸裂!
「ギ……!!」
「アイお姉ちゃんありがとう!」
「こっちこそ。さぁ、どんどん行くわよ。」
「うん!」
「うっしゃー!どんな魔物が来てもけちょんけちょんだ!」
……見事なコンビネーションだ。上手く役割分担が出来ているだけではなく、お互いを信頼し合っているからこその連携が強さを何倍にも高めている。
やっぱり同じ仲間と言っても、家族の絆と言うのはまた一味違う。
血の繋がりだけでなく、共に生きて来たからこそ普通じゃ分からないような事も分かり合える。
これが本当の信頼……
「(私とシド様も……こんな風に分かり合えるようにありたい。)」
……ずっと一緒だけど、家族……では無いもんね……
「シノ!そっちを潰せ!」
「……了解です。」
自分の担当の魔物を倒す。
……魔物か。
今私達が戦おうとしている相手は敵とは言え、同じ人間。
……本当の敵は、魔物達なのだ。
「……」
……このジレンマにとっととケリをつけてしまおう。
憎らしきこの目の前の奴らを……殲滅する事で……!!
「「っ……!!?」」
殺す……
「(な、何……今の感じ……?)」
殺すんだ……
「(一瞬だが……とんでもない殺気を感じたぞ……)」
完全に殺し尽くす……
「(この殺気……まさか、シノさんから……?いや、まさか……そんなはず……)」
魔物達は全て……この世から跡形も無く消し去るんだ!!
「(……あいつ……まさかまた……!)」
「……うぁあああああああッ!!!!」
猛り昂るこの怒りが私の中の熱をオーバーヒートさせていく。
内から溢れるこの感情に……身をゆだねる。そうすれば……
「ぬらああッ!!!!」
「……!」
が、そんな私よりも熱く、目の前に現れたのはシド様だった。それによって私は幾ばくか……冷静さを取り戻してしまう。
「おいコラ!!何俺より目立とうとしてんだ!!ここに来て下克上は許さんぞ!!」
「め、目立とうとしているわけでは無いのですが……」
何か勘違いされている……
「あ、シド様後ろに……」
「……ぬらぁ!!」
「グルッ……!」
振り返りざまに、一閃。
「おお……お見事です。」
今のは真似出来ない。シド様は後ろを見ずに背後の敵を迎撃する事が出来るのだ。まるで背中にも目がついているかのように……
「……じぃ。」
「……ん?何、人の背中見てんだよ。」
「……シド様のおめめは二つでしょうか。」
「……人を何だと思ってんだよ。良いからさっさと戦って次行くぞ次!いい加減日が暮れちまう!!」
木々の隙間から見える空模様は……確かに薄っすら暗くなりつつある。
「お前が俺達をここに連れて来たんだからお前が案内しろ!分かってるな!?」
「あふぅ。もちろん分かってます。」
……よくよく考えて見ると、バカ正直に魔物と戦う必要あんまり無いのかもしれない。とりあえずガロミオさんに会えればそれでいいわけだし……
「それではそろそろ私の作戦を実行します。」
すうっ……と、大きく息を吸う。
「……ガロミオさーーーーーん!!!!」
そして叫ぶ。精一杯の声で!
……ガロミオさーん……!
……ミオさーん……!さーん……さーん……
「「……」」
……私の声がこだましている。ふーん、私ってこんな声なんだ。自分で想像していたよりずっとキュートだな←
「……んで、今のが何なんだよ。」
「きっと今の私の声を聴きつけてガロミオさんが来てくれるはずです。そうすれば……」
「グル!!」
「……んおっ!?」
「ありゃ……」
いけない、まだ戦いは続いているのだった。
「……ぬうっ!!数ばっかり揃えやがってからに……!!つーかその野郎はいつ来るんだよ!!すぐ来るのか!?そもそもこの森に居るのか?!今の声が聞こえたのか!?」
「え、え……えーと、そんなたくさん質問を投げつけないでください。私の小さなおつむの容量がいっぱいいっぱいになってしまいます。ぷしゅう……」
知恵熱が出ちゃいそう……
「だー!!!熱出してる場合か!!これじゃあ状況変わらねえじゃねえか!!」
「うー……魔物いくらでも湧いて出て来るよー!もう嫌ー!」
「……これではキリがありませんね……一旦、逃げるのはどうでしょうか!」
「さんせーい!!アイ姉ちゃんにさんせーい!!」
「……っつーわけなんだが、シド!!お前はどうすんだ!!その今シノが呼んだガロミオって奴を待ちながらここで戦うのか!?」
「だから名前を呼ぶなっつーのにあんにゃろう……だが、流石に今回は乗っかるしかねえな……」
「ぷしゅう……」
私、熱暴走中……
「いい加減にせい!!」
「……はっ、私は一体何を……」
可愛い冒険者シノちゃんは混乱している!
「……だー!!しょうがない!!!お前らとりあえず走って逃げんぞ!!一時こいつらから身を隠す!!」
「分かった!!!」
「聞いての通りだ分かったなシノ!!」
「……シド様が一人、シド様が二人……」
可愛い冒険者シノちゃんは混乱のあまり幻覚が見えているようだ!
「大好きなシド様がこんなにたくさん居て私は嬉しいやら何やら……」
「……クソがああああ!!!!!」
「あふ?」
私が悦に浸っていると何か浮遊感を感じる。これは私の体が抱っこされているという事であった。
「おお、私シド様に抱きかかえられています。もしかしてこのまま初夜ですか……?ハネムーンですか……?」
「何で今日のお前はこんなに手がかかるんだーーー!!!」
……いつにも増してボケが5割増しのシノちゃんであった。どうしてこんな気持ちになったのか自分でもよく分からないのでした。てへ。
……
「(……さっきとの落差が凄過ぎてわけが分からんが、とりあえずいつも通りみたいだな……振り切れてボケが酷くなってるが……)」
……ここ最近では鳴りを潜めていた、シノの狂気的な面がついさっき顔を出そうとしていた。
……あれの何が恐ろしいって、普段凶暴さの欠片も無い奴の豹変っぷりだ。俺やタンザナイトはもちろんの事ながら……アイの奴らも流石に恐怖を感じていた様子だった。
もしあのままシノに戦わせていたら……あいつらがシノに対して少しばかり悪い印象を持つかもしれないと勘繰って間に入ってみたのだが……実際のところどうだったんだろうか。
「(……俺に世話焼かせやがって。)」
いつも通りぽけぽけしてりゃあいいのによ……そうすりゃあ後は俺が片付けてやるんだから。
「シド様の背中は逞しいですね……愛おしくなってしまいます。すりすり……」
……いいさ。まだこっちの方が。
「つーか元に戻ったんならそろそろ降りて自分で走れ!!」
「いやん、もう少し堪能させてください……」
……結局そのまましばらく走り続けた。
「すぅ……」
「寝るな!!!」
「むにゃむにゃ……朝になったら起こしてください……」
……結局そのまましばらく走り続けた!!!




