喧喧囂囂
「なんっ?!それってマジの話か?!」
「アホ……声がでかいだろうが。」
「っ……」
この乗り物内に、奴らの仲間が乗り合わせているかもしれないという懸念がどうしても私達の鳴りを潜めさせざるを得ない。何者かは私達がその存在に気がついている事を察している……そして今も尚、様子を伺っているのだとしたら今更感もあるが……
「まさかそんな近くに奴らが居たなんて……!」
「何で教えてくれなかったんだよー!」
……こんなに目立って話してたらもうバレバレだな。何も無い事を祈るしかない。何かあったらすぐ割って入ろう。
「むしろ後ろの席とは言え、すぐ傍でずっと話してたのに何も気がつかなかったお前らは何なんだよ。俺達があれこれ話してる間何してやがった。」
「何って言われても……」
「アイが乗り物酔いだって言うからとりあえず3人で気を紛らわせてやってたんだよ。」
「乗り物酔いだぁ?」
「ちなみに今も尚継続中ですが、今の話を聞いて少々は収まりました。けれどまだ若干気持ち悪いですが……うぅ。」
口に手を当てるようなジェスチャーをするアイさん。
「(乗り物酔い……)」
「……それのせいで気がつかなかったと。」
「おうよ。」
即答。
「おうよじゃねえ!お前らもう少し真面目にやれや!」
「私達真面目だよ!遊びでここまでついてこないよ!」
「だったらなおの事厄介なんだよ!つーか乗り物酔いって……言うか言うまいかと思ってたがお前ら冒険向いてないだろ……」
「そんな事無いよ。4人でどこだって旅してきたんだし、熱いとこでも寒いとこでも低い所高い所なんでもござれだよ。」
「……正直な所、賑やかし役はもう既に2人も居て飽和状態なんだ。」
「私と……シド様ですか?」
「お前とタンザナイトだ!」
「なんと。」
「シノ、自分が賑やかし役って自覚あるんだね。」
「周りからの評価と自分の評価が一致しているのはちゃんと自分を客観的に見れているという成長がうかがえます。うむむ。」
私レベルアップ←
「……もうこれ以上騒がしいのが居ると俺の身が保たん。どうせ今回の冒険が終わったら何事も無かったかのようにフェードアウトしていってやがて出て来なくなる単発キャラなんだろうからそろそろ帰れ。」
「何だよー!勝手にシド目線で物言うなよー!私達だって主役なんだからなー!兄ちゃんからもシドに行ってやってよー!」
「おい……シドよぅ。」
おお、満を持してジェイさんが……
「……名前を呼んだらただじゃおかねえって言っ……」
「ここらでハッキリさせておいた方がいいか?どっちが強いのかをよ。」
鋭い眼光がシド様を睨みつける。
「……」
元よりシド様は眉間にしわを寄せている。
「俺は別に何言われようがどうとも思わねえが……だが、遊び半分で来てるなんて思われるのは流石に心外だ。ナナや雪美の事はもうお前らだけの問題じゃねえだろ。なのに勝手に枠から除外するってのはお前が随分と俺達を格下に見てるからだろ。」
「……」
一触即発ムードとはまさにこれ……本来仲間同士の私達の間に、良からぬ空気が流れていく。
「戦場での本気の俺達を知らねえのに……見くびってんじゃねえよ。俺達を。」
「……口だけは立派でも、誰も納得しねえぞ。」
「……んだと。」
……私は、嫌だった。
「……こんな……」
「「……」」
こんな光景、一秒だって見ていたくなかった。
「……こんな事じゃ、ダメです。私達……ダメダメです。こんないがみ合ってたら……ナナちゃんや雪美さんは助けられませんよ……」
「……」
こんな事で、空気を悪くしているようじゃ……誰かを助けるどころか自分達の身すらおぼつかない。
「……私達、同じ目的を持って一緒に行動している仲間です。なのに……仲違いなんかして……みっともないです……」
「シノ……」
「……」
「みんなが仲良くとまでは言わなくても……せめて、喧嘩は止めましょう……こんなの、敵の思うつぼです。」
自分達から不和を招くような真似して……何になるというのか。それでナナちゃん達を救えるのか。
答えは明らかだ。
「……シド様、ジェイさん……」
「「……」」
「……兄ちゃん、シノの言う通り……喧嘩はやっぱ良くないよ……」
「……すみません、元はと言えば私の乗り物酔いのせいでこんな事に……」
「……私こそ、能天気に何にも考えずにバカな事ばかり言っちゃってごめん……遊びのつもりなんて全然ないけど……でも、もっと気を引き締めていかないとダメなんだよね……!」
誰もが皆、自分の在り方を振り返る。それは私も同じ事。
……私達、もっと一致団結しないと、ダメだ。
「……ふん。」
「ちっ……」
……正面衝突という最悪の事態だけはどうにか避ける事が出来た私達はやがて……当初の目的地であったペイカの村へとたどり着く。
出来たらこの村でシド様とジェイさんの仲を修復したい。せめてギスギス感が無くなる程度には……
……
「随分と自然溢れる村だな。」
「心なしか空気も美味しい気がする!すーはー!」
「植物の多い場所は空気が綺麗と言われているし、実際にそうなのかもしれないわね。」
「こういうところ私大好き。」
「やっぱりタンザナイトは妖精だから自然いっぱいの所が好きなんだ?」
「だよ!もしかして他の仲間達とか居ないかなぁ。」
サッコロでは誰とも出会えなかったし、それもありか。もちろんあくまで別件になるけれど。
「おい。こんな田舎まで案内してきたんだ。当然何か実りのある事があるんだろうな。」
「……とりあえず、ちょっと町の人達に話を聞いてみたいと思います。」
「おいおいなんだそりゃ。大丈夫なのか。」
「自分の女の言葉が信用出来ねえとは器の小さい奴だぜ。」
「……あ?」
「シノを信じられねえからそうやって疑ったり不安になるんだろ。男ならもう少しドンと構えてろよ。見ててみっともねえぜ。」
「……てめえ……」
あふぅ!せっかく自然の中に居てリラックスムードだったのにまた喧嘩が始まろうとしている……!!
「と、とりあえず聞き込みを開始しましょう!早急に!」
場面転換してしまえばとりあえず急場はしのげる……一時的に。
……
「この村は平和そのものだ。いい意味でも悪い意味でも何にも変わった事は無いよ。ただただいつもと同じ日常さ。」
「珍しいね。旅人さん達か?そのオシャレな格好、巷じゃそういうのが今流行ってるのか……都会の人らは垢抜けてるというか容姿が整ってるんだな。」
「何は無いですが、まぁゆっくりして行ってください。幸い豊かな自然の恵みだけはたくさんありますから。」
……
「なーんもねえ。」
「怖いニュースも明るいニュースも無いね。」
「じゃあとりあえずここに魔の手は伸びてないって事かぁ。」
……魔の手か。
「結局イージスが言っていたあれは……ブラフだったんでしょうか。」
乗り物の中には奴らの仲間が居たというあの話……
「そう信じたいけど……もう確かめる事は出来ないよ。今はやる事に集中しよう?」
「……はい。」
悪党の言葉に……ひとかけらでも真摯な気持ちが残っている事を祈る他無い……
「それでシノさん……次に行くべき場所とは……?おそらく、そこにシノさんの知り合いの方……異世界人の方が居るんですよね。」
「……です。」
聞き込みをしてようやくその森の名を思いだす事が出来た。そうだ。モーリングの森だ。ローリングでは無かった。
「モーリングの森……かぁ……」
「こっからそう遠くは無いみたいだが、森に着いてからの道は分かってんのか?」
「そこまで詳しくは分かっていません。正直手探りで探す感じにはなると思います。」
森中騒がしくなればガロミオさんの方から来てくれるかもしれないけれど……
「時間も時間だし……一旦この村で休んで明日行くって選択肢もあるか。」
「……シノは、どうしたい?」
「私は……」
……本当は悠長な事言ってられないけれど……やはり暗闇の森を冒険するのはあまりよろしくない。何より視界も悪いし魔物も凶暴だし……
「……少し、急ぎ足かも知れませんが、今日向かった方が良いと思います。」
「「……」」
しかし私の答えは、すぐに前進……
「……こちらから攻め入る手段が無い今の私達の取れる行動は基本的には敵が動いてきたのを待ち伏せする事です。急いで向かって……いつ敵が来ても大丈夫な状況を早く作っておいた方が良いのかと……今日と明日でどれだけの時間の差があるか、それが影響するか分からないけれど……明日森に行ったらもうさらわれた後だったりしたら結局その後の行動も遅くなってしまいます……」
「……既に最悪の事態が起こっていたとしても、今日の内にそれが分かっていれば次の行動に移るのも早く行えると……そういう事ですね。」
「……」
私は頷く。今この状況で保留にしてしまった場合、もし明日悪い結果が出た時また次の行き先を見失ってしまう。ならば出来る限り次どうすればいいのかの見通しがつけやすい状態で一日を終える方が僅かでも前に進めるペースが速い。
……本当に僅かでしか無いが。
「……分かった。なら、とっとと行くぞ。せめて暗くなる前にそいつの所に行ければ楽だしな。」
「はい。」
陽が落ちるまで後、2時間程度……森に着くまで30分から1時間とするなら……頑張れば夜までにガロミオさんに会えるかもしれない。
……今回私は、ガロミオさんに接触して、尚且つ……力を貸してもらおうと考えている。
過去にガロミオさんと一緒に戦った経験上、その実力は知っている。力になってくれたら極めて頼もしい存在と。まあまずは、話し合って打ち解ける所からかな……
よし……
「きりっ。」
「?」
……行こう、モーリングの森へ。気持ち早足で。
……
「今回はどんな奴が居るんだ?」
「少しモフモフした人です。」
「モフモフ?動物さんみたいな感じ?」
「そうですね……獣人さんですかね。あまり詳しく知りませんが犬さんみたいな……」
「へぇー、可愛い感じだね。」
「それって男?それとも女の子?」
「ガロミオさんは男性ですね。モフモフっぽいですが物静かでカッコいい系です。」
「おぉー。そうなんだ。今から会うのが楽しみだなぁ。」
「何が楽しみなもんかよ。野郎なんかと会うのに胸なんてときめきやしねえ。」
「年がら年中女相手に発情してるようなお前ならまあそうだろうな。お前の方がよっぽど遊び半分なんじゃねえのか?」
「……いい加減うぜえんだよ。絡んでくんじゃねえ。」
「……兄ちゃんもそろそろ止めようって……」
「そうだよー……もう少し仲良くしようよー……」
「「……」」
どうも釈然としない様子のシド様とジェイさん……実に食い合わせの悪い組み合わせのようで私達も困っちゃう……はふぅ、何とか意気投合出来るような共通の話題無いのかなぁ……
「……ここでちょっと皆さんにアンケートを取ってもいいでしょうか。」
「「?」」
「本当に大した質問では無いのですが……猫と犬どっち派ですか?」
「猫と……」
「犬……?」
本当にとりとめの無い質問だけど、この答えは二つに一つ。50%。もしかしたらシド様とジェイさんの答えが被る可能性がある。そうすればそこから共通点を見出して多少お互い歩み寄る事が出来るかもしれない。
「私は犬かな。じゃれてきて可愛いし。」
「あ、私も私もー!猫も好きだけど犬の方が好きー!」
「私は……猫ですかね。どちらかと言うと静かな方が好きなので……」
「犬は忠誠心があるからちゃんと躾すれば静かにしてくれるよ?と言うわけで私も犬さんに一票!シノは?」
「ええと私はですね……」
「どうでもいい。」
「え。」
私が答えるより早く、一蹴されてしまう。
「んなアホなアンケートに答える気は無い。さっさと行くぞ。」
……先に行かれてしまう。
「……しゅん……」
「「……」」
……空気を和ませる為に頑張ってるのに……悲しぃよぅ……
「ったく……何なんだよシドの野郎は……一匹狼気取りやがってからに……」
「すみませんジェイさん……でも、シド様の事出来れば嫌いにならないであげてください……少し気難しいけれど本当は……」
「別に……嫌いじゃねえよ。つーか……悪いな。気使わせちまったろ。」
「そんな事は……ありませんが……」
「……俺もつい、変に突っかかっちまった。おかげで雰囲気を悪くしちまったよな……あいつがああいう奴だって分かってんのによ……」
「ジェイさん……」
「……お前やアイ達が言ってる通りなのは分かってんだ。身内同士で言い争いなんてしてる場合じゃねえって。」
「ジェイ……」
……私達は理屈で分かっていても、時にそれに従う事が出来ない時がある。
……それを不完全と言うならば……私はそれを人間らしさと呼ぼう。
「……よし、さっさと俺達も行くか。あいつ一人で行くもんだから置いてかれちまう。」
「……はい。」
そんな人間らしさが私は……結局のところ、好きなのかもしれない。
こんな風にぶつかったり迷いながら……絆を深めていくこの一時が。




