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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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八方塞がり

「呪いをどうにか出来たら娘をよこせ……か。どちらも無理だな。」


父親としては当然の答えだった。だけど……呪いはもう解けないという諦めの色もきっと混じっている。


「呪いを解くだけ、でしたら……どうですか?あの子達のその後については一旦保留にしておくのは?」


「それじゃあただ働きじゃねぇか。」


「ひそひそ……(とりあえず表面上はそう言ってあの人と協力して情報を聞き出すのはどうでしょう。)」


相手に見えるようなどうどうとした耳打ち。逆に怪しまれないかもしれない。


「ん……んん……」


「ひそひそ……(それにシド様の格好良さなら約束なんてなくても自然と向こうからアプローチが決ます。助けたらシド様は恩人なのですから。きゃー。すてきー。だいすきー。的な感じに。)」


「……それもそうだ。わざわざ約束などいらんな。」


私にしか聞こえない声で、シド様は呟く。その自信満々な笑みを浮かべて。


「おい、とりあえず呪いについて聞かせろ。お前の娘を助けてやる。」


「要求はなんだ……」


「いえ、特にありません。何もいりません。ですよね、シド様。」


「おお。そうだ。約束しよう。」


「……」


明らかに怪しまれている。


「ただ働きはごめんでは無かったのか。」


「よく、考えたら、可愛い子に呪いをかけるなんてとんでもない野郎だ。他の子だって被害にあうかも知れん。だからぶっ殺す。」


「と、言うことに。」


「……」


一応ギリギリ……それっぽい事を言ってみたけど……ダメかも知れない。


「犯人なら、分かっている。」


「なら話は早い。どこのクソ野郎だ。」


「……」


そこでなぜか、チラとロミネさんへと目をやる。さっきから一言も喋っていなかった。


「奥の部屋へ行っていろ……私がいいと言うまで。」


「……」


ロミネさんは、深くうなづくと、無言のまま、奥の部屋へと行ってしまった。


「ロミネさん、どうして一言も喋らないのですか?」


「……口を開くなと言ったから、だ。あれを私の命令だと受け取ったのだろう。そんなつもりで言ったわけではなかったのだがな……あいつは私の命令をなんでも聞く。」


「なんでも、ですか……?」


「じゃあ俺にメロメロになれと言え。」


「……人間であるように見えるが、純粋たる人間とは少し違うな……」


「人では……ないのですか?」


……機械とか?アンドロイドとか?サイボーグとか?


「どこから話したものか……」


「勿体付けずにさっさと話せ。」


「……20年前に、この街へ来たんですよね。」


「そうだ。妻と共にな。まだ25の頃だ……自分でも血気盛んだったと思う。貴族にしては珍しいとよく言われたものだ。」


昔を懐かしむように、すこしこわばった顔は鳴りを潜めて。


「当時この街は悪い意味での貴族主義が蔓延っていた。貧富の差を利用していつまでも自分たちだけが優雅な暮らしをする。そんな者達が集まる街だった。次第に貴族の中ですら優劣をつけ始めた。見ていてとても愚かに見えたものだ……」


「でも、今のこの街は、そんな雰囲気跡形もありません。みんな……優しい人たちでした。」


「……そうか……そう思うのなら、私たちがやってきたことは真に実ったという事なのだろう……」


……


「私たちがこの街に来て半年ぐらい経った頃か。この街魔物からの攻撃を受けた。この街に在沖している警備兵では太刀打ちできない程度には強力な。」


「魔物ですか?」


「安全と思っていた場所への襲撃……それまで身の安全を確信していた貴族たちは屈強な衛兵がやられて初めて自分たちの危機を悟ったのだ。」


「平和ボケしてるような奴らだろうからな。」


「……そこで私達は戦った。」


「戦った……」


「ああ、そうだ。矢面に立って戦った。まあ、私のしたことなど大したことではないがな。妻の姿はとにかく美しかった。あの戦いで街が、そして私が生きられたのは妻のおかげと思っている。」


「のろけなんぞ聞かせるな……」


「……私は魔法の心得があり、妻は剣術の心得があった。私もそこそこのつもりだが、妻のそれに比べればまだまだだった。ともかく妻の活躍により、街への侵入を遅らせ、援軍を待つ時間を稼ぐことが出来た。」


「そう、なんですか……」


「街はなんとか助かったが、皆は危機に直面した時に、権力や財産など役に立たない事を身をもって知ることとなった。だが、いい薬だった。だから私は、彼らに言った。富だけでない、それ以外の物を大切にするべきだったのだと。それは互いを敬う心だと。」


「心、ですか……」


「心を蔑ろにしてはいけない。もし、あなた達が、本当に貴族であるならば。誰しもが持っている心を大切にするべきなのだ。と……まあ、その後は妻がどうにか繋いでくれた。私は言いたいことだけ言った。」


……自ら矢面に立つ、というのはとても勇気が居ることだ。しかしそれも、愛する人が居れば、乗り越えられるのだろうか。……人の心は、強くも、弱くもなる。目の前のこの人の心は、きっと強い。


「それから少しずつ、少しずつゆっくり自分たちのペースで、この街は生まれ変わったのだろう。……長い時間だった。」


「……みんな、この街のみんな。凄いと思います。あなたも凄いと思います……では、どうしてそんなあなたがこんな事に……」


「呪術の徒……あいつらが……あいつらがッ……」


「呪術の徒……?」


「何年か前になるか。その頃、私と妻の間には3人の娘が居た。ロミネ……イミル……トゥリエ……。今となってはあの奥の部屋から出ることも出来ない……」


「そいつらが呪いをかけたのか?」


「そうだ……私の家族は、私以外全員ッ!!奴らに呪われたッ!!!」


……悲しみの慟哭……それは、幸せな日々を一気に塗り替える絶望だっただろう……


「いったい、なぜ、そんな事をされたのですか?」


誰かに恨みを買われた……?


「……隠れ蓑だ。奴らのな。」


隠れ、蓑?


「奴らの行動が表に出るのを防ぐために……ただそんな事の為だけに……私の家族は、狙われたのだ。」


「……」


この世界の呪いの仕組みと言うのがまだ私の中で確立していない……どういうことなのだろう。


「シド様、呪い、っていうのは、どういうものなのですか……?」


「呪い、なぁ。ようは相手を弱らせるための呪文ってやつだろう?」


「……弱らせる……だけですか?」


「結局呪いなんて効率の悪すぎるやり方だ。レベル3でやっと百人の命と引き換えに一人を弱らせることが出来るとかそんなやつだろ。それに絶対効くってわけでもないはずだ。しかもかけたやつが死ねば呪いは消える。」


それを聞くと、あまり強そうでもないし、凶悪でもないように思う……


「本来は……そのはずだったのだ。呪いは、死に至らせることは、出来ないはずだったのだ……だが、呪術の徒は……違う。呪いで相手を殺すことが出来るのだ……」


「おいおい……嘘だろ。」


「ふふ……嘘であったなら……どれほどよかったことか……嘘であったならば。」


……じゃあ、あの子達も、いずれは……


「奴らにとって肝なのは呪いをかけた呪術士の命を絶たれることだ。その存在を知られてはいけない。だからこのベレストラン家が利用された。」


「隠れ蓑とは……そういうことですか。」


「奴らの悪事と、私が行っている悪事を、全てこのベレストラン家が行っているように思わせる。そうすることで奴らの正体は明るみに出ない。そういう契約だ。」


……エイスの街で話していた時も、ベレストラン家が怪しいという話は合っても、呪術の徒などという言葉は少しも出なかった。


家族全てを、人質に取られている……


「この事って、……街の人たちは、知りません、よね……」


「ふ、表向きは品行方正の家で通しているのだからな。我ながら呆れる。」


……この街の人たちは、皆この人たちに感謝していた。何らかの力になってもらえるようにも思えるのだが……難しいか。おそらくは怪しい動きを見せればあの子達が危ないのだろう……


「思った以上に……八方ふさがりですね。あの子達を人質に取られて、敵がどこにいるのかもわからない……」


……シド様……


「……」


流石に考え込んでいるようだった……


「ロミネに逢いたい。」


……


「むさいオヤジの顔は見飽きた。」


……


「こっちも色に狂った貴様の表情など見たくはない。」


「なんだこら!!!」


「……はぁ……」


……そういえば。


「あの、ロミネさんが、人じゃないというのは……」


「……厳密に言えば、本物のロミネ、イミル、トゥリエは奥で横になっていたあの三人だ。」


「……では、私たちが屋敷で一緒に話していたのは、別人、ですか?」


「……ラナ、リーナ、ルーナだ。さっきいたのが、ラナだ。」


「ふーん。楽しみが2倍になったな。じゃあ、3姉妹じゃなくて実は6姉妹ってわけだ。」


「……馬鹿か。ラナ達は、呪術の徒から送り込まれてきたスパイだ。」


「スパイ……ですか?」


ロミネさん達が……スパイ。


「私の娘たちは呪いにかけられた。だからといって急に人前に姿を現さなくなるのは周りに怪しまれる。だからその不自然さをカモフラージュするために送られてきたのだ。あの3人は。」


「……急に姿が違う方が怪しまれると思うのですけれど……」


「言っただろう、人とは少し違うのだと。……奴らが呪術によって殺した人間たちの肉片を集め、それに魂を注ぎ込んで生まれた……そんな風に言っていた。もっとも奴らの中でもまだ完全に理論が確立しているわけでないみたいだがな。」


……ファンタジーだ。どうせ同じファンタジーならもっとふわふわしたものが良かった。おどろおどろしい……


「娘3人が順調に成長していた場合の想像を形にしたようなイメージでラナ達は作られている。そしてその目的は、私が怪しい行動をとらないかどうかの監視、そして、この屋敷へ入り込んできた侵入者の処理……だ。」


「監視……でも、今は奥の部屋にいます……」


「私の命令はなんでも聞く。さっきのようにな。そうやって使うようにと奴らに渡されたのだから。だがそれ以上に、奴らの命令には逆らえない。奴らがやってきてラナ達に私を殺せと言われたらためらいなく行動するだろう。」


……そんなひどい事を……


「ちょっと待て、奴らがやってきた事はあるのか?」


「あるも何も……あの屋敷自体が獅子身中の虫だ。呪術の徒の構成員の奴らが幾らでも入り込んでいる。私は奴らの操り人形だ。そして逐一私に不審な行動がないかどうかラナ達に報告させるのだ。」


「……じゃあ、今って、危ないのではないでしょうか?」


……こうして相談していること自体が、まさに怪しい行動だ。ばれたらあの子達の命が……


「いや、大丈夫だ。見ていないことは報告できない。」


「……ふん、色欲狂いは、悪知恵も働くようだ。」


……悪知恵?よく分からないがシド様は理解しているようだった。


「ただ、地上に上がったらそれまでだな……」


「……お前たちが……もし、二度とこの街に近づかないのであれば……お前たちの命だけは助かるだろう。」


「あ?」


「……この部屋の外のもう一つの鍵のかかった扉、あれは地上と繋がる階段へと続いている。そこから逃げるといい……」


「何言ってんだ。助けるって言っただろうが。」


「……思ったよりすばしっこくて鍵を取られてしまい逃げられてしまったと言えば、どうにか納得するだろう……これが鍵だ。……使い終わったら処分しておけ。」


「ふざけるな。何勝手に決めてるんだ。」


「……」


「……あの子達が、危ないから……ですよね……」


私たちが怪しい行動をとるという事は、この人がそれを見過ごしたと判断される。それは呪術の徒からすれば裏切り行為だ。そうなれば……即座にあの子達の命はないだろう……


「……もし、奴らへ反撃の一手を打つとしても……チャンスは一度きりだ。しくじったら娘たちの命はない……貴様たちは見逃してやる……だから行け……」


「……あなたは、あなたの家族は……どうなるんですか……このまま、こんな苦しい思いをしたまま……」


「……お前たちの考えるところではない……」


……


……私たちは助かるかもしれない……でも、こんなの……こんなの……


「納得できん。」

「納得できません……」


……そう、納得など、出来ない。私も、シド様も。


「……私たち家族の事を想うなら……行ってほしい。」


「お前なんてどうだっていいって言ってるだろうが。だがなあの子達は絶対に救う。この、俺が。」


……


この捨てる命の使い道、やっと出来たかもしれない。


たとえ死を覚悟するような事でも、私は出来るのだから。


こんなことでしか役に立てないけれど……


この家族の笑顔を取り戻したい気持ち。


シド様の不敵な笑みが、私にそれを信じさせてくれる。


私はこの世界に来て、良かったかなと思えた。

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