パーフェクトな作戦
この問題を解決するのに一番重要なポイントはずばり、呪いをかけている呪術士を確実に特定する事。
「……あの、呪術士が複数居たら……どうするのですか?」
「……それは、おそらくない。どうやっているのか分からぬが、そこまでの力を持つようなレベルの呪術士がそう多く居るとは思えない。たぶん奴らのボスが一人で呪術に関しては請け負っている。だからこそ親玉が殺されるのを恐れているとも言えるがな……」
「誰が、殺されてるんだ。その呪術で。」
「……」
「お前だってそれを見せられたから信じざろう得なかったんだろう。」
シド様は、もしかしたら、呪いそのものを疑っている。
呪いは本来、人を殺す威力のものでは無いという話だ。もちろん高レベルの次元まで行けば想像を超えるような効果を引き出すこともあり得るかもしれない……
だけど……実は呪いではない方法で殺されていたのだとしたら……そう思い込まされているのだとしたら……なんてあり得る話だった。
「……本当は、あの子達は……4姉妹だったのだ。あの呪いが無ければな……」
「4……姉妹?でも、あそこには……その、3人しか……」
悪い想像しか浮かばなかった……
「殺されたのだ……呪いでな。私の妻と共に……」
「っ……」
「ちっ……なんてクソ野郎共だ。」
「当時妻のお腹の中には次の命が宿っていたのだ……そんな折、奴らは私たちを脅迫してきたのだ。自分たちの悪事を隠すために協力しろとな……ふざけた話だった。」
……聞くのも嫌なほど……それは醜悪で非道なやり方だった……
「やがて妻は……見せしめに呪いをかけられた……だが、私はそれでも死にはしないと……そう思っていたのだ……その前に奴らを叩き潰してやると……それが……あんなことにッ……」
「……ッ……」
最愛の人を失う気持ち……それも大切な伴侶を失うというのは……きっと、何にも耐えがたい苦しみだっただろう……私も、立場は違えど、少しだけ……同じだった時があった……
「ある日の朝。妻は、息を引き取った。腹の中の子供共々……後は、為すがされるがままだ……子供たちを人質に取られ、監視され……だが、私はどうでもいい……娘たちを苦しみから解放したいのだ……それだけの為に……私は惨めでも生き永らえている……」
「……なるほどな。よし、この屋敷に火をつけよう。」
……
流石に意味不明だった。
「あの……シド様……なぜ、そうなるのですか?」
「呪術士は屋敷の中にいるんだろう?」
「え……?」
「……」
突拍子もない事かと思ったが……この沈黙は、肯定の意としか思えない。……屋敷の中に……?
「私も、そう思ってはいたのだ……呪いは、遠くにいる誰かを狙う事は出来ないはずだ……あくまで知りうる程度のレベルでの話だろうが……ある程度の近い距離が必要なはずなのだ……だが、特定などできん……」
「目星だけでいい。教えろ。」
「……早まった真似だけはするな。いいな……」
「慎重に、いきます。」
「……3人、怪しい人物はいる。メイド長のシレスタ、主治医のコンタスト、呪術の徒のレーヴァス……まず、はじめに私の元へ取引を持ちかけてきたのがレーヴァス。10年前から私の元につかえてくれている、シレスタ、5年前に主治医となったのがコンタストだ。……もし呪いで死んだのでなければ、手を下せたのは、この3人の誰かだと思うのだ……」
「シレスタさんは少しお話した感じではそんな風には見えませんでしたが……」
「……私も出来る事なら彼女を疑いたくはない。これまで献身的に尽くしてくれた彼女を疑うなど人として恥ずべき事だ……だが……」
「そこまで信頼させといて実は黒幕かも知れない……ってか?」
「……内情を探るため私のもとへシレスタ、あるいはコンタストを送り込んだのかもしれん……疑いだすとキリがない。」
「その、レーヴァスという方は?」
「……やつが敵の親玉だったとして、わざわざ自分自身が姿を現すだろうかと思ってな……だが、やつはこの屋敷に常駐している呪術の徒……この屋敷について熟知している……」
……うーん……怪しいと言えば、怪しいけど、確かに正体を知られたくない人が表に出るのもおかしい……?
「今だからこそ言うが、お前たちが地下に潜った時、レーヴァスは、お前たちにも呪いをかけてやると言っていたのだ。」
「……私たちにですか……?」
「それがいつもの手口だった。まず人を攫い、呪いをかけ、衰弱させ地下に幽閉する。そしてそれを探しに地下にやってきた冒険者たちを呪いで衰弱させる……とな。」
「よくそんなこと俺たちに言えたもんだ。」
「返す言葉もない……そのくせ、その相手に力を借りようとしているのだから……無様な生き様だ。」
……思う事は……あるけれど……
「でも……無事だったから、大丈夫です……」
……?
「じゃあ、呪いは、かからなかったのですか?私たち、ピンピンしています。」
「呪いは誰にでもかかるものではない。その呪術士の呪術レベル、そしてかける相手の体力、精神力、レベルなどによって左右する。そこの色欲男も、あなたも、それらを跳ね除けたのだろう。呪いが通用しなかった場合は、私やあの3人が出向いて直接戦う手はずになっていた。まあ、そんなことはほとんどなかったが……」
……シド様はともかく、私にも効かなかった……体力や精神力はともかく、レベル……確か50だったはず。
……何が幸いするか分からないな……
「誰がボスだってどうでもいい。呪いはお前を信用させるためのフェイクに違いない。」
「……私だって、9割方そうだと思っている。だが……残りの1割で娘たちの命を奪われるのだ……そんな危ない賭けなどできるわけがない。」
……もっともな話だった……これ以上家族を奪われたらもうおしまいだ……
「分かった分かった。だから俺たちがやるんだ。」
「……?どういうことですか?シド様?」
「この屋敷は人質でもあるが奴らにとっていい隠れ家でもあるわけだ。だから簡単には放棄しない。だからこそ何年もかけてきたはずだからな。」
「……屋敷の者はほぼ全てが敵だと思うといい。五十人はいるだろう……しかもかなりの手練れだ……加えてラナ、リーナ、ルーナも奴らに命令されたら敵に回る。並みの冒険者では相手にならないだろう……」
「だろうな。そこへ救世主な俺が現れたわけだ。」
……
あまりの能天気さに、とうとうあきれ返ったようだった……だが、それが、今回は光になった。
「……ふっ……はっはっは……この色欲男が……本当にバカな男だ……だが、確かに、ラナに勝った貴様ならば、相手になるかもしれん。」
「俺に勝てる奴なんているものか。」
……
「言っておくが……私は、お前の命すら利用しようとしている。それでも、私に力を貸そうなどと思うか?」
……物騒な言い方だったが、その本心は、分かる……
命を落とすかもしれない……それでも、家族を助けるために……力を貸してくれるだろうか……そんな、懇願。願いだ。
「アホか、お前の為にじゃない。あの奥の部屋に居る子達や、3姉妹全部俺のものにするためだ。」
「……私も、協力します……微力ながら……ですが。」
とても小さい、なけなしの、精一杯の、言葉で答える。
……
「……ありがとう……感謝する。」
「いらんわ。終わってから女の子たちから腐るほど感謝の言葉を言ってもらうからな。」
「……そうか……すまんな……」
「そして俺がズバリパーフェクトな作戦を思いついた。」
「……本当ですか?」
「天才だからな。はっはっは。」
天才らしい。
……
……
……
「……と言うわけだ。」
……ぱーふぇくとな作戦(?)だった……でも、これって……
「パーフェクトが聞いてあきれる……」
「なんだと!どこに不満があるんだ!!」
「この作戦は……お前たちに、任せっきりではないか……」
はっきり言ってこの作戦は、シド様への負担が大きい……私などほとんど戦力にならないのだから、実質一人で大勢を相手にすることになる……言うまでもなく一番危険なのはシド様だ……
「私は……構いませんが……でも……」
「さっき俺たちの事も利用するって言ってたろうが。変な気遣いすんな。大体出来ない計画なんて俺が立てるか。」
「……シドで、よかっただろうか?」
「あんま男が俺の名前を呼ぶな。」
「シド……お前の強さに、私の家族の命を、託しても、いいだろうか……」
「……大船に乗った気でいろ。あと二度と名前で呼ぶな。」
「……頼む……娘たちを……頼む……」
……シド様は、勇敢だ。
私は……正直、自信は無かった。これまでの私のやってきたことを思えば、それは当然だった……
でも、それでも……ほんの少しでいい……シド様の、助けになれるように……
……
「んじゃあ、俺たちは夜中まで寝るか。」
「……私は、ラナを、連れて屋敷に戻る。」
「作戦通り、ラナちゃん達に命令しておけよ。」
「……効果があることを祈るばかりだ……」
「ま、駄目でも俺が何とかする。成功すれば御の字ってやつだ。」
「……よろしく頼む……」
……こんな時に、なんだけど、私は、一つだけ、言っておきたいことがあった……
「……あの、ラナさん達の事……スパイ、だと、思ってるんですか……」
「……奴らから送り込まれ、事実私の事を逐一……」
「いえ、そうではなく……娘ではないって……言っていた事……ラナさん……言わなかったけれど……傷ついていたと思います……」
「……私の本当の娘は、ロミネ、イミル、トゥリエ……ラナ、リーナ、ルーナは娘では……ない……」
もし、本当に、敵だと思っているなら……もっと、怒りの感情が強く出ているはず……苦々しい表情……それは、悲しみの感情……
「ラナさん。廊下で言っていました。お父様の役に立つのが、私が居る意味だって……リーナさんも、ルーナちゃんも……みんな、あなたの事、きっと大好きです……」
「……」
「それは、あなたが、愛情を込めて育ててきたから、本当の娘みたいに……そうじゃなければ、あんな風に、ふるまえないと思います……」
「シノさん……」
「私も、今なら、分かります。私がお父さんを大好きだったのは、私が大好きな以上に、私の事を愛していてくれたからだって。」
……今になってそんな事分かっても……遅すぎたのだけれど……きっと、そう……
「……いつの間にか。ラナ達が私に甲斐甲斐しく接してくれるうちに……実の娘のように思ってしまっていた。でも……それでは、ロミネ達はどうなってしまうのか。私の娘などではない。そう、思うしかなかった。いつの間にかロミネ達がどうでもよくなってしまったら、私はッ……」
「……報酬、一つだけ、追加して、いいでしょうか……」
「……」
「ラナさん達の事、娘だと思ってあげてください。あなたなら、誰かだけでなく、6人全員に愛情を注いであげる事がきっとできます。そう、信じたい……です。」
……何の根拠もなくついつい言い過ぎてしまった……責任なんて取れるのだろうか……
「……そう、なれたなら……それほど幸せなことはない……な。」
「……信じてください。シド様を……ラナさん達を……」
「……」
……答えはなかった。でも、きっと届いていると思いたい。
……
ラナさんと一緒に行ってしまった。
私たち二人が残される。ぽつん……
「……じぃ……」
「……わたわた……なんでしょうか……見られています……」
「お前、レベル高いのか?」
「……どうやらそうみたいですね。」
「その割には弱いな……」
「面目有りません……」
……それを言われると返す言葉もない……とほほ。
「でもまあ、いいとこがあるのはいいことだ。そのおかげで呪いも弾けたわけだしな。」
「……シド様も、レベル高いのですか?」
「……さあな。まあ、分かってるだろうが、自分のレベルなんて言うもんじゃないからな。」
「……そうなのですか?」
「そんなとこも知らんかったのか。」
「無知なもので……」
「レベルなんて強さの基準にもならないしな。まあ、低いよりかは高い方がいいだろうがな……でも50レベル以上の奴は調子に乗って宣言してくるときもあるか……あのアホもそうだったな。」
私がこの世界に初めてに来たときに町であったあの人だろうか……51だか52と言っていた気がする……
「……レベル50以上は何か違うのですか?」
「……レベル50以上になったらそのうち分かるだろう。」
「……そうですか……」
そのうち分かるらしい。
……
「……死ぬなよ。」
「え……?」
……胸中を見抜かれたような感覚だった。
「俺の後にしっかりついてこい。お前は自分の身をしっかり守れ。」
「……分かりました。」
「よし、じゃあ寝るぞ。こっちにこい。」
「……はい……すすす……」
胸に抱かれるように密着する。
……どきどき。
……この胸の高鳴りは聞こえているのだろうか。
「柔らかくていいな。」
むぎゅう……
……
死……今でも懇願している……はずだった。けれど……この人に死ぬなと言われて、その気持ちが消えかけていることに気付く……
……なら、この人の役に立つだけ立って、そして、その果てに、死にたい……
……なんて、そんな死に方、贅沢だな……
そんな事を想いながら、私は夢の中へと落ちてゆく……




