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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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雪の彼方に少女は消える

「あーりり、油断しちゃってからに。カッコ悪くて無様な事。俺をやれたと思った?そう簡単にはいかにゃいよ?ま、思い切りの良さは大したもんだったし、俺じゃなかったら間違いなく死んでたろうけど……いひゃひゃ!」


「ぐ……ぬ……っ……!!貴様ッ……!!」


傷は深くなどない。命に別状も無い。だが、不意を突かれた事による驚きは計り知れぬ。


「クロックさん!!」


「こんのぉ……!!!」


見かねたエルはいっそ飛び掛かろうとするが……男は目の前に雪美の姿を突き出す。そして恫喝する。


「とりあえず俺に攻撃するって事はこいつに当たる可能性大って事は理解しといた方が良いぜ?」


「う……」


「……見かねた卑怯ぶりですね。」


「確かに俺にとってもこいつは持って帰りたいところだが、最悪は仕方ないのさ。別に変わりが無いわけじゃなし、他の異世界人を探すまで……幸いにもここにはもう一人……」


「貴様の言など……聞くつもりは無い!!早くその手を雪美からどけろ!!!」


己の傷など構わずにクロックは吠える。しかし当然優位な立場にある者は意に介さず平然とした態度であった。


「要求出来る立場かどうか考えてからものを言ってくれよ。そんなこんなで俺は一旦お暇させてもらうからよ。きひひ!」


「あっ……こいつめ、待て!!!」


気絶した雪美を抱えながらも諸共せずあっという間に室内から出て行こうとする男。エルはそれを追おうとする。


「エル、待って。クロックさんが……」


「……俺の事は構うな……それより雪美を……追ってくれ……!!俺もすぐに追う……!!」


「……」


傷の心配よりも優先すべき事があると、男の言葉と目は雄弁に訴えかけていた。ならば今やるべき事は……明瞭であった。


……


「ふぃーふぃー!!さぁてさっさとこんな場所からおさらばと~!」


「ま、待てー!!!くっ……雪美を抱えてるのにあんな早く走れるなんて……ズルいぞ!!」


エルはひたすらに男を追う。見失ってしまえば雪美の行方も分からなくなるどこか再び何の手掛かりも無くなってしまう。向こうの動きがあるのを待つような手をこまねくやり方に逆戻り……最低でも何か手がかりでも掴まなければと使命感が彼女を走らせるが……敵もさることながら実に素早い動きで逃亡しようとする。


「おい?あの男が抱えてるの……雪美ちゃんじゃ……」


「連れ去られようと……してるのか?」


そんな騒ぎがあればやがて村の者達も気がつく。


「貴様……止まれ!!!」


雪美は村の住人であり、仲間。ならば危機に立ち向かうのも成り行き。男の進路を塞ぐように立ち塞がるが……


「「……」」


それを、待っていたかのように物陰から姿を現わした男二人……


「なっ……!?」


それは行く手を阻む村人に向かって容赦なく攻撃を繰り出す。


「ッ?!ぐあっ……!!」


「何いッ?!ぬがっッ……!!」


……戦う力を持つ者が、持たぬが仲間を守ろうとする者を……力づくで捻じ伏せる。


「な、何なんだよこいつらは……」


不快感とどよめきが入り混じるこの光景を喜びと捉えられるのは渦中の中心の主犯格の者達だけである。


「ひゅうひゅう、目立つねぇ。けどいいぜ?俺は目立ってもさほど構わねえと思ってる方だから全然いいんだぜ?ついでにありがとよ。この事はようく上の層に言っておくから無駄働きにはしねえからさ。」


「「……」」


逃げの一手だけかと思いきや、戦うのに十分過ぎる力を見せつけてしまい、シンとなる。辛うじて戦意が高く残っているのはエルぐらいなもの……


「おい!!」


「……おい。」


……いや、ここに今、現れた。


「兄ちゃん!!それに……シドも!」


まるでついでのような扱い方をされて微かにイラっとしたシドだが、それ以上にこの騒ぎを引き起こしてヘラヘラとしている奴らを見るだけでどうにもお冠のご様子であった。


「し、シド様……雪美さんが!!」


「てめえら……雪美をどうするつもりだ。」


「どうするもこうするも……んな事教える義理もねえって言う話でわ?知らねえ奴に余計な知識を与えたりはしないんだわ俺わ。」


「何か知らねえが、ムカつく喋り方する気色の悪い野郎が……とりあえずぶちのめしゃあいいんだろうが!!」


真っ先に飛び掛かるは、ジェイ。喧嘩っ早いと自身で豪語するだけの事はあった。


「それが良いか悪いかは別だろうが……言ってる事はまあ間違っちゃいねえな!!」


そして、シドも突貫する。


男二人に対して、男二人が迎え撃つ。


「そいつらはちょっとは出来るのかもしれねえが、まあ適当に遊んでやっちまえよ。飽きたらお前らも退散しろな。俺は……」


「アープデイさん、ちょっと……」


「……んん?」


今にも戦いが始まろうとするその背後にて、何やら相談事が行われていた。


「てめえらとっととぶちのめして……ナナの居場所を吐かせてやらあ!!」


「……」


相対する男は奇しくもジェイと同じく徒手空拳。立ち会った段階である程度の力量は把握出来る。


男の目から見たジェイという男の戦闘能力は決して低くも無いが自分よりは下であると結論付けられた。だから振りかぶった拳の一撃などさほど深く考える事は無い。おそらく万が一当たったとて……


「うぉらああああああッ!!!!」


……当たったとて、さしたる威力など有りはしない。


「……!」


……そう結論付けた事を過ちだったと理解した頃には既に痛みと暴力的なまでの破壊力がその身を完全粉砕していた。


「ぶぐぉっ……!!!」


人間が発するにはあまりにも不釣り合いな声ならざる奇音。


「……うぉい?」


その光景は思わず相談事を途中で切り上げてしまう程度には、興味を惹く効果があったようだ。


「……がは……っ……!」


そして……もう一つの戦いも、同様に。


「……思ったよりかは出来そうな感じだったが、かと言って相手ではねえな。」


まさに秒殺。シドも一太刀にて相手を切り伏せていた。


「な!!……ファイター二人が……ま、まさか一撃なんて……!」


「……ははぁ、そういう感じなわけだ。」


一人は驚愕し、一人は納得したように、不遜な態度を見せる。それはまさに己が持つ実力の差を現わしているように。


「シド様流石です。」


「ジェイ兄ちゃんさっすが!!」


一気に形勢が好転したとばかりに弛緩した空気が生まれる。しかしそれはまだ全然早い。


「おいコラてめえ……雪美をとっとと放しやがれ。じゃねえとこいつらの二の舞になるぜ……」


「……」


「それだけじゃねえ。お前らには色々と聞きてえ事があるんだ!そこでおねんねしてる奴らと一緒に話聞かせてもらうぜ!!」


雪美を魔の手から取り戻さなければ、そしてナナに繋がる手がかりを手にいれるまでが、目標。


「あ、アープデイさん……」


「……」


恐る恐る様子を伺う男に、実にゆったりと顔を向けて、こう尋ねる。


「お前、一人で逃げ切れると思うか?」


「ひ、一人……と言うと?」


「……いやさ、だからお前一人になったとして、こいつらから無事逃げおおせるかどうかって聞いてるだけ。」


「……そ、それは流石に……何せファイターと違って自分はサーチャー……」


「ああ、やっぱそうだよな……そうだよなぁ……なら……悲しいけどこうするっきゃあ無いか。」


「……へ?」


男は懐より、長いナイフを取り出し……


「ごめんよぉ……出来たら助けてやりたかったんだが、この二者択一はこうするしかないみたいだわ……」


「……!!」


何の躊躇いも無く、傍らに居た仲間の心臓目がけてそれを突き立てた。


「こ、こいつら、仲間じゃないの……?」


「あ、アープデ……」


「今際の際にあれこれ言われると、もしかしたら感慨に浸っちまうかもしれないから止してくれよ。だがまぁお前のおかげでターゲットを間違えずに済んだし……ついでにもう一人分プラスの収穫があった。なら働きは十分さ。」


すぐさま刺し貫いたナイフを手繰りよせ……顔面へと突き立てる。


「っ……」


……子供や女性がそれを見るにはあまりにも刺激の強すぎる光景。何かを語る口すら失ったそれはやがて息絶えた。


「「……」」


さしものシド達ですら、その行動の意味を分かりかねていた。


「そんな面食らうような事でもあるまいと思うんだがね……じゃあ、こうするともうちょっと分かりやすいかね。」


息もつかせず男は次の行動に出る。先程シドとジェイによって倒された二人……しかしあくまで彼らはまだ生きてはいる。すぐに治療を施せば命は助かるだろう。


「中途半端に生きていて……かと言って逃げおおせる事も出来ないんじゃあ、結果は見えてる。」


……そう。半死半生では、よろしくない。だからトドメを刺すべく二つの刃物を二人の体へと投げつける。


「な……!」


完全なるトドメを、刺す。


「本当に悪いなぁ。出来たら美味しい思いをさせてやりたかったんだけどな。本当だぜ?」


「あ……ア……」


「けれどお前らも分かってんだろう?取っ捕まって余計な事を口走っちまったらマジで死んだ方がマシなぐらいの扱いを受ける事になる。それならここでちょっと苦しんでポックリ死んだ方が後々楽だって。俺が保証する。後はせめてお前らは良く戦ったって報告しておくからよ。こんな無様なやられ方したわけじゃないって盛って話しとくよ。」


「……」


ここに来てシド達は男の企みが分かる。


……余計な事を、言ってしまわないようにと、口封じのために仲間を殺したのだと。


「……随分、後ろ暗い事があるみたいじゃねえか。」


「……いくら悪党とは言え、仲間に躊躇いなく殺されたりしたら……流石にちょっとは同情するぜ。」


「……まぁまぁ、どうあがいても戦力を3人失わせちまった時点で俺のミスは確定しちまった。あーあ、こいつを持って帰ったとてせいぜいプラスマイナス0ぐらいかよ。幸先悪いったら。」


「逃げ切れると……思ってんのかよ。」


男の前にシドとジェイが立ち並ぶ。


「まぁまぁ、俺一人ならどうにでも逃げ切れるから全然どって事ねえよ。それより……帽子のお前。」


人数の差などに臆する事無い男が話しかけた相手は……


「私……ですか……」


シノであった。


「お前も異世界人なんだってな……」


「……!どうしてそれを……」


「……やぁれやれ、他の奴らが健在だったら一緒に持って帰ってやろうと思ったんだが、今回は仕方ねえ。こいつだけで我慢するとするか。」


「勝手に尋ねて勝手に自己解決して去って行こうとしやがってからに!!!」


「そんな自由が許されるのが俺ってわけなのさ。ヒヒ!!」


「……!?」


文字通りの奇笑を上げたかと思うと男は……ゆっくりとシノ達の目の前からその姿を消していく……


「ど、どういう事だ……?」


「ゆ、雪美が……浮いてやがる……」


……摩訶不思議な光景が、そこにあった。


「あーりゃりゃりゃ、そうなんだよな。こうなるんだよな……でも十分だろ。んじゃあなお前らさんよぉ!」


「!!」


傍目には、宙に浮いた雪美の体がどこかへ飛んで行ってしまうように見える。


「こ、こんにゃろうが!!!!」


「待ちやがれや!!!」


……だが、相手の実態が見えているのとそうでないのでは、狙いを定める難しさが段違いであった。攻撃を加えようにもその対象がハッキリ見えていないのでは……ましてや……男のその速度は……段違いであった。シドやジェイが急ぎ追いかける姿を尻目にどんどん遠くへと消えていく……


「やべえ……このままじゃ、普通に見失う……!!」


「くっ……うぉぉおおおおお!!!」


懸命に追うが……足場のさほど良くない雪道……やがてシド達は……完全にその姿を見失ってしまう。


「「……」」


一度は近くまで掴んだ標的を……逃してしまう。


「……クソがぁあああ!!!」


……しかも、考え得る限りでは最悪のパターン。


雪美がさらわれ、ナナの手がかりも分からぬまま……また、振り出しに戻ってしまう。


「……あの野郎……!!」


途方に暮れている場合でも無いが……少なからず不甲斐なさとやるせなさに己の心を痛める二人であった。


「……雪美……さん……」


そしてシノは……うなだれる。


この大自然の雪の無情な冷たさに打ちのめされるかのように。

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