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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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静寂を破る者

私達がアガルタに来て、3日が経過した。


「……来ませんね。」


「来ない方が良いような、微妙な所だよね……」


……現状では特に変化無し……いつまでも気を張り詰めてはいられない。どうももどかしい……


「何か今日は微妙な空気な気がする……」


「……そう、なんですか?」


「気がする、だけだといいんだがな。」


シド様の予感か……何となく、当たりそうな気がしてしまう。


……


トントン……


その大人しげにドアをノックする音、クロックにはもう慣れ親しんだものだった。家族なる相手のもの。


「入るといい。」


そんな彼女が入って来る事を拒む理由も、無い。


「すみませんクロックさん。」


彼女の手にはお盆、そしてその上には湯気の立ったカップとお茶菓子が乗っていた。


「気を使わせてすまん。」


「いいえ、皆さんにお茶を淹れるついででもありますし……何と言うか私もちょっと気分転換にお茶をしたい気分でした。だからクロックさんも是非と思ったんです。」


「うむ。頂こう。」


ここ数日、雪美は家からあまり出ない。出るとしても誰かが必ず付き添う事になっている。万一の不測の事態に備えての事。かと言ってそんな風にして自分に付き合わせてしまうのを申し訳なく思うあまりやはり外出は控えめとなりがちである。幸いにも同性で年も近しく話題の合う相手が数人居るので話し相手には事欠かない。今この瞬間もそんな一時の時間の合間である。


「……私、本当に誰かに狙われているんでしょうか……」


「……やはり、不安か。」


「私より……その事でクロックさんや皆さんに負担をかけてしまうのが……やっぱり心苦しくて……」


心優しき少女ならば、いずれそのような心の葛藤に悩まされるであろうとクロックも予想は出来ていた。


「……あいつら自身が言っていた事だが、確かに今の所真偽は分からん。今この瞬間に至っても変わった動きは見えない。」


「……」


「……だが、たとえそうだとしても奴らはお前を心配しその身を案じてわざわざこの地まで来て知らせてくれた……気の良い奴らだ。」


「……はい。」


そう語る彼の顔を見て少女は嬉しさを覚える。


思えばいつも重い何かを背負いながら生きているような責任感と戦っているクロックが浮かべるその笑顔に。


そしてあまり表立って見せる事の無い、来てくれた者達への感謝の気持ちを露わにしてくれた事に。


「(クロックさん……あんまり口にはしないけれど、こんなに優しい人なんですもんね……)」


そういう性格なのも十分理解している。ここまでの生活でそのぐらいの胸の内が分かる程度には互いを理解し合っている。


「クロックさん……こんな時に全然関係無い話なんですけど、聞いてみても良いですか?」


「……何だ?」


「……どうしてあの日、私に声をかけてくれたんですか?」


この質問をするのは、決して初めてでは無かった。ふとした瞬間に雪美はクロックに尋ね、そしてクロックの答えはいつも決まって……


「特に理由があったわけでは無い。強いて言うならば……不安そうな顔をしていたから放っておけなかっただけだ。」


そう答えるのだった。


「……たまたま、なんですよね。」


「そうだな……あの日俺がエイスの町に居たのも、ただの偶然だ。」


何度同じやり取りを繰り返そうとも、それを不愉快に思う事でも無い。むしろ二人にとってこのやり取りを行う事は、初めて出会ったあの日をリフレインするかのような行為なのだ。


「……私はその偶然に、今でも感謝しています。クロックさんのような心優しい人に出会えて、本当に幸せでした。」


「……俺はこの世界で生きていくきっかけを作っただけにすぎん。今日までを生きて来れたのはお前の力だ。」


不安げに見えるその心の奥に、ここ最近光るものがある事にクロックは気付いていた。もっとハッキリ時期を言うならばシド達との出会いの後ぐらいから、どこか雪美の中に以前よりも前向きな感情の芽吹きを感じられたと。


「お前が狙われているという話は決して穏やかな事では無いが……その反面、話の合う連中が尋ねて来てくれた事はお前にとっては良い事だろう。俺とお前では話も合わないだろうからな。」


「そんな事ありません。それに言うなら私……誰が相手でもそんなにお話するの上手じゃありませんから。」


「……俺もだ。」


互いに謙遜ではあるが、そこに共通点を見出した事に両者静かに笑い合う。


「ここ最近は、良い目をしている。前よりもずっと明るく強い顔を。」


「……おどおどして、引っ込み思案で……周りの人と深く関わらないようにすれば、あんまり怖い事なんて無いはずって思ってたけど、本当は逆だったって気がついたんです。他の人の事を知らない方が不安で怖くてたまらないって……」


「……そうだな。深く相手を知る事で傷つく事もあるが……新たに気が付ける事もある。」


「……リラクラルちゃん、エイスの町でとっても頑張ってるってシノさん達から聞きました。手紙でも大変だけど自分の出来る事をひたすら頑張ってるって。凄く……立派だって思います。」


雪美もまた、他人との繋がりによって、自分を見つめ直すきっかけを作った。


「次にリラクラルちゃんと会った時に、私これだけ頑張ったんだって言えるような事一つぐらい……欲しいんです。周りからしたら大した事じゃないって思われても……自分自身を認められる何かを。」


自分の至らなさを知り、それに立ち向かおうとする彼女の姿は既にクロックからすれば成長の証だった。きっと今の雪美の姿を見て情けないなど考える者は居ないだろうと感じていた。


「……お前がそれを望むなら、俺もお前の望みの為に協力を惜しまん。それがお前を引き取った俺の責任……いや、俺自身の望みだからな。」


「クロックさん……」


もし、自身に子供という存在が居たら目の前に居る雪美のようなものなのだろうかと、そんな考えに浸るクロック。


新たな出会いによって生き方が変わったのは決して、彼女だけの話では無いのだ。


「もう戻るといい。俺の方は大丈夫だ。」


だからそっと、背を押す。気の合う友人たちの所に戻るようにと。


「……はい。」


……いつまでも自分の元に、縛り付けてはいけないのかもしれないと、そう感じながら。


「(……もしもやがて、雪美が俺の元を離れる事を望んだならば……その時は快く見送ると約束しよう。だからせめて……今だけは……もう少しだけこの暖かな温もりを感じさせて欲しい。)」


……いつか訪れるかもしれぬ別れ。


しかしそれはきっと同時に彼女への祝福。


笑顔で見送る為にと、今このかけがえの無い時をしっかりと過ごすと、男は心に強く願う。


……


「雪美ったら随分長かったじゃんさ。」


「あ、ええと、つい少し話込んじゃいまして……」


戻って来た彼女を温かく出迎える3人。元々気の良い性格をしている為雪美もすぐに打ち解けて輪の中である。


「クロックさんと仲良いよねぇ。見ててなんだかぽわー!っとなるよ!」


「ぽ、ぽわーっとですか……?」


「心が温かくなるという感じですよ。お互い信頼し合っているんだというのを他人目ながらも感じますから。」


口数こそ少ないながらも、その言葉の一つ一つが雪美の身を案じるようなものばかりならば、そのような感想を抱いても何らおかしい事は無かった。


「クロックさんは雪美の恩人なんだもんね。そりゃあ信頼するよね。」


「お世話になってる分、たくさん恩返しをしたいんですけどクロックさん私よりずっとしっかりしてて恩ばかりどんどん積みあがってしまうんです……」


「確かに相手がしっかりした方だと中々自分が役に立つような事をするのは難しいですね。」


「でも大丈夫だよ!雪美ちゃんの真心はちゃーんとクロックさんに届いてるよ!」


「それに雪美が傍に居るだけでクロックさん安心そうな顔してるしね。恩返ししたいっていうならただ傍に居てあげるだけで十分だと思うよ?」


「ですか……ね……」


やはり同じ女性目線からのアドバイスがあると雪美も嬉しいようであれこれ尋ねては意見を貰う。案外何事も無くこんな毎日を過ごしているだけでも穏やかな日々を送れるようなものだが……


キィ……


「「?」」


……そんな平穏は、時として、そして突然に破られる。


「ありぇ?ドアは空いたのに誰も入って来ないね。おーい!誰かー!」


「……」


返事は無い。


「おかしいですね……ジェイやシノさんだとしたら呼びかけに答えてくれないはずも無いですし……」


「「……」」


空気が、凍る。外から入って来る冷気がそれをより加速させているかのように……


「……外で誰か、待ち伏せしてる可能性あるよね。」


「有り得る……わね。」


せめてその何者かに聞こえないよう、声を抑えながらその結論に至る。


「ど、どうし……ましょう……」


「……とりあえず私とアイ姉ちゃんで様子を見て来るよ。ケイは雪美を連れてクロックさんの所に行った方がいいよ。万が一に……備えて。」


「「……」」


エルの提案に皆、頷く。ケイは雪美を連れてクロックの部屋へ……アイとエルは……


「……」


恐る恐る、されどゆっくり一歩ずつ……開かれたドアの方に近付く……


「(誰か居るような……気配はある気がするけれど……)」


「(まだよく……分からない……)」


しかし、この一秒一秒においても、何かただならぬ空気が満ちて行く事だけは肌で感じられた。


「「……」」


すぐに戦えるよう……臨戦態勢に移った二人は意を決して……


「……!」


外へ、躍り出る!!


「……」


すぐに周囲を見渡す。当然、頭上も。


「……あれ……?」


「……誰も……居ない……?」


そこに、人影は見当たらなかった。


「居ない……ね。」


「……ええ。だけど……何だろう……この感じ……」


「……アイ姉ちゃんも、感じてる……?」


未だ、胸の奥のざわめきが、収まらない。それどころか、どんどんその強さを増していくばかり。


「(……誰も居ないなら……)」


「(どうしてドアは空いたりしたんだ……?)」


ドアは自然に開くような簡単な立て付けのものでは無い明らかに誰かが人為的な力を以てしなければ開かないのだ。


ならば、考えられる事は一つである。


「な!?なに?!なに……!?うわぁあああ!!!」


「「?!」」


「今の声……ケイ!?」


……やはり、ドアを開けた人間は存在したのだ。


「……急ぎましょう!!」


ただならぬ悲鳴を聞いた二人は……すぐさま家の中へと舞い戻る。そこで見た光景とは……


「うぃぃいいい。異世界人ゲットうぅ。ついでに戦利品の女もゲットぉ!しかもどっちも俺好みだぜぃい。持って帰る前に味見しても怒られねえだ……」


「お前……一体誰だ!!」


……謎の男にその首を絞められ、気を失っている雪美とケイの姿だった。


「いったいどこから……いやそんな事より……二人を放しなさい!」


「そういう困る要求されてもなぁ……でもまぁ、確かにこれじゃあ俺も両手塞がって自由に動けねえんだ。結局どっちかは置いてかなくちゃいけない……優先順位的にはまぁ……しょうがないからこっちか。ほらよ。」


勝手に自分の理屈から、ケイを解放して地べたへと投げ捨てる男。


「あーあ、もったいねえ……しかも目の前に現れた二人もどちゃくそ美人だし……あーもったいない。超持って帰りてぇええ!!」


「こ、こいつが……シノの言ってた……」


「どうした……!!!何があった……!!!?」


やがて、騒ぎを聞いてかクロックも部屋より飛び出してその眼前に広がる光景を、見る。


「っ……!!雪美ッ!!!」


「クロックさん!!!あいつ……何か知らない内にこの家に入って来て……雪美さんを!!」


「話は……分かった。ならば……」


ただ事で無いと、察していたのか……既にその手には斧が、握られていた。


「うぉい……?!まさかいきなり斬りかかって来るとかそんな非人道的な事をするわけじゃ……」


……後は、力の限り振り下ろすまで。大切な者を守る為に……力を振るう。大切な者を奪う相手を許す道理は、ここに無い。


「うぉおおおおお!!!!」


「……マジ……?!」


……その刃は、確かに男の体を切り裂いた。しかも右腕に捕まえている雪美の体には当然傷一つつけさせる事無く、ただ男の体だけを斬って見せた。


「……あ……らん……そんな……バカな……」


男の体からは、血が、溢れだす。おびただしい量の出血。さしもの状態に傷口を押さえている。


「……」


怒りに逆上したクロックも確かな手応えを覚え、その握り締めた斧を不要として投げ捨て、男の元から雪美を奪還すべく歩み寄る。


「……いやぁ、投げ捨てちゃあ、良くなかったわなぁ。」


「……!?」


超……至近距離。もしも互いが万全の状態であったなら、それはもはや一進一退の距離。どちらにとっても致命傷を生みかねない危険な距離。


「っ!!クロックさん……!!そいつッ、まだッ……!!」


「気がつくの……遅すぎでしょうに。」


……傷口を押さえていたと思われたその左手には、反撃の刃が……握られていた。


「ぐ……おっ……おおっ……!!」


……いくら強靭な肉体であろうと、突き立てられたその刃の前では……些か力不足。


肉を貫かれるのは……悲しくも、現実。

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