表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シドとシノの大冒険  作者: レイン
1088/1745

行くに決まってる

「すみません……クロックさん……」


合わせる顔が……無かった。


助けられる距離にあったはずの雪美さんを、目の前で逃してしまうなんて大ミスをしてしまった……


「……お前達が謝る必要は無い。俺も……いや、俺が悪いのだ。俺があの時……確実に奴にトドメを刺してさえいれば……ぐぬっ……」


痛みに顔を歪めるクロックさん。まだ真新しい傷からは血が滲んでいた……


「……!血が……!」


「うぅ、痛そうだよ……」


「このぐらい……どうという事は無い……それよりも……俺は……!!」


痛みを押してまでクロックさんは立ち上がり……そして、部屋の片隅に置かれていた斧を手にする。


「クロックさん……何を……」


「……知れた事だ。雪美を……取り戻す。」


「……っ……でも、傷が……」


「どうという事は無いと言った……それに、俺が助けなければならんのだ……俺には雪美を預かった責任がある……!」


「で、でも……雪美さんをさらったあいつらがどこに居るのかも分からないのに……」


「大陸中探し尽くしてやれば……どこかに居るだろう……!」


「そんな、雲を掴むような話……」


完全にいつもの冷静さを失っていた。それも仕方がないのかもしれない。大切な人を目の前でさらわれて……それが、自分のせいであると感じてしまったら……


「……死にに行くってんなら、勝手にしろって話だが……その前に教えろよ。てめえの目の前で何があったのか。」


「……」


その歩みを完全に止めるわけでも無いが、シド様はクロックさんの行く手を言葉にて阻む。


「……アイとエルから聞いた。お前、あの野郎を斬ったんだろ。なのに……俺達の前に現れたあの野郎は平然としていやがった。それは一体どういう事だ。」


「……俺が、攻撃を仕損じたのだろう。」


「違うな。俺はそうは思わねえ。少なくともテメエがまともに戦ったとしたらそんな真正面からの傷を受けるとは考えられねえ。そいつは不意打ちかなんかによってやられた傷だ。」


確かに……クロックさんの傷は腹部のもの。けれど、その部位に攻撃を受けるのはよほど戦いが長引きその末に疲れ果てて油断が生じた時に発生したりするもの。あるいは実力差があり過ぎて不用意に懐に入らせてしまった時……しかしそのいずれもそれはクロックさんに起こりえないとシド様は断言する。


「お前に不意をつかせた何かがあの野郎にはあったはずだ……そいつを教えろ。」


「……それがあったとして、それを知ってどうする。」


「俺があいつをぶち殺す。」


「……それは俺の使命だ。」


「勝手に決めてんじゃねえ。こっちは先にナナをさらわれてんだ。順序的にはこっちが先なんだよ。」


「……」


「……」


二人が、睨み合ってしまう。こんな事で争っている場合じゃないのに……


「……クロックさん、私のせいで雪美さんをさらわれてしまっておいて、こんな事言えた義理じゃないかも知れませんけど……でも私……!まだ……諦めてなんかいません!!シド様も……ここに居る皆さん全員そうです。必ず……必ず助け出します!!」


「……」


「もし、クロックさんが雪美さんを助け出したいって思うなら……私達も、協力します。一緒に……一緒に助け出しましょう……だから、一人でどうにかするなんて……そんな風に思わないでください。」


何も出来ていない分際で、どの口がそんな事言うんだろう……私ってば本当に……


「……気持ちは嬉しく思う。だが……俺は……」


「うだうだうるせえんだよ!」


ボコッ!


「……!」


なんとシド様は……


「う……うぉぉおおおお……っ!!!」


クロックさんが先ほど受けたばかりの傷口を……殴った!!


「ひ、酷い……!!!」


「し、シド様……どうしてそんな事を……」


「ぐ……ぐぐ……き、貴様……」


「俺があの野郎だったら今みたいにてめえの傷口を狙うぜ。そんでこんな風に痛がってやられておしまいだ。んな状態でてめえ一人で雪美が助けられるかよ。」


「……ぬ……ぬぅ……!!」


「……良いから言えってんだ。目の前で起こった事全部。そしたら俺がさっさと奴らを皆殺しにしてきてやるんだからよ。」


「……シド様……」


……これはある意味、シド様なりのクロックさんへの優しさなのかもしれない。傷を負った状態では満足に動く事だって厳しいのだと教える為の……


「……お前に……雪美が救えるのか……」


「雪美だけじゃねえ。ナナだって助ける。」


間髪入れないその言葉が、シド様の答え。


「……」


「……お前に……任せるのは……俺の役目を押し付けるのは……正直言って気が乗らん……だが……確かにお前の言う通り……今の俺では大した戦力にはなれんだろうな……」


「……」


「……いいだろう。俺の分かる範囲の事ならば……言って聞かせよう。この場で。」


「……最初から、そう言ってりゃあいいんだよ。まどろっこしい。」


……きっと私の言葉じゃ、止める事は出来なかった。だからシド様が私の代わりに力づくで止めてくれたんだ……


「(……ありがとうございます、シド様……)」


こうして私達は一旦頭を冷やして、現状を把握する事にしたのだ。


……


「斬ったのに……斬れてなかった……?」


「そう形容するしか無い。」


それはなぞかけのような……矛盾した言葉。


「私も確かに見ました。クロックさんが男を斬ったのを……それに、血だって……」


「そうなんだよ。あの通路についてた血……あれはあいつのだよ!でも……」


……せっかく綺麗なクロックさんのお家に、不気味なシミが追加されてしまったものだ。


「けど……俺達が見たそいつは体に傷なんて無かったぜ?なぁ?」


「……それだけの血が出たらそもそも動いたりするのだって難しいはずです。なのに動くどころか……普通にヘラヘラ笑ってました。」


「……分かんねえな。」


何かが、違っている……?


「もしかして……アイ達が見たその男と俺達が見た男……実は別の野郎だったって事はねえのか?」


「雪美はどうなるんだよ。それだと雪美も二人になっちまうだろうがバカ。」


「あれ?」


「……兄ちゃん……」


「……それじゃあ途中でパスしたんだ!!」


「……私はずっと追いかけてたけど、途中で入れ替わったりなんて無かったよ。そう……確かにクロックさんはあいつを倒したはずなのに……気がついたら傷も綺麗さっぱり無くなってて……わうー!!わけわかんないよー!!」


エルさんでなくても頭を抱えたくなる……今までの私の常識じゃどうにも答えが出せそうにない問題だ。


「トドメを……刺したんだろ。」


「……だから武器を手放したのだ。手応えを感じた……確実に……その命を奪ったと確信出来るほどに。」


雪美さんを、助けようとして……きっと振り下ろしたに違いない。だが、それはまやかしの一撃にされてしまった……


「……うぎゅう……ごめんねクロックさん……私が不意なんか突かれちゃったから雪美ちゃんを……」


それに……ここにもう一人、とても傷ついている人が居る。ケイさんはさらわれるその瞬間まで付き添っていた。あるいは一番に責任を感じている人なのかもしれないのだ。そのせいか、いつもの明るさも完全に鳴りを潜めてしまっている。


「……言うな。誰かを責めたとて解決などしない事だ。何より……一番責められるべきは俺なのだ。」


「くそっ!!あんな野郎ケイのビームなら跡形も無く倒せてたってのに!!卑怯にも後ろを狙いやがるとは!!」


……後ろ……


「……ケイさん。一つ確認したいんですが、ケイさんは突然後ろから襲われて、そのまま気絶してしまったんですよね。」


「……うん。そう……叩かれたところまだちょっとヒリヒリしてる……」


さするその位置は確かに後頭部、つまり背後だ……


「……背後なんて、取れるでしょうか。」


「?」


「最初に事が起こったのは急にドアが開いたから……外に何者かが居るかもしれないからとアイさんエルさんが外を確認しに……ケイさんは雪美さんを連れて奥へと移動した……それで、合ってますよね?」


「うん……」


「……ならあの男はそもそも、どうやって侵入したというんでしょう。」


「……それは私もずっと考えていましたが……おそらく男はドアを開け放ちすぐさま侵入し、私達が見た時には既に死角に居たんだと思います。それに気がつかず私達は……」


「でも……入り口から入ってすぐの場所に大の大人一人が身を隠せるようなちょどいいスペースありません。何より……入ってすぐに隠れるには家の中の物の配置が分かっていなくちゃいけないはずです。」


「それは……確かにそうなのですが……でも、それしか考えられません。私達がミスをしてしまい男の侵入を許してしまったと……」


「……いや、そうとばかりも言えねえんじゃねえか。」


「……シド様……」


「こうして雪美がさらわれちまった事で自分を責める気持ちは分からんでも無いが……それにとらわれ過ぎて考えの幅が狭くなったら元も子もない。俺はお前らの取った行動に落ち度は無かったと考えている。そんな神経を集中させていた人間数人の目をかいくぐって家に入って身を隠してそっと雪美とケイのところに不意打ちをかけたってのは……そっちの方が考え辛い。」


「……」


違和感を自分の不注意のせいにして片付けてしまう事は……実は簡単な事である。しかしそれが根本的な解決に繋がるのかと言われると……そうでは無い。


私達は責任の所在を決める為に話しているのではなく、雪美さんを助けるべく最善を尽くす為に話し合いをしているのだ……


「ケイが背後を取られたのだってそうだ。どれ程注意して後ろから近寄ったとしても明らかに不審人物の気配がある中でそれに気がつかないってのはちょっと妙だ。」


「……うゆぅ……でも私、ドジだから……」


「んな事分かってる。けどそれとこれとは分けて考えるべきだ。つーか俺達は見たはずだ。あの野郎の姿が消えて雪美だけが浮いている意味不明な光景を。」


「あ……そういえば……」


「あん時は何が起こったのか意味不明だったが、これである程度察しはついた。あの野郎は自分の姿を消すアイテムか能力があるんだ。」


そう。二つの事象を重ねてみればそれが一番しっくりくる結論なのだ。


「……姿を消す……」


「世界中にはそんなアイテムも無くは無いからね。」


「厄介な話じゃねえか……」


「だが手口が分かっただけでもデカい。後は対策を考えるだけだ。」


だんだん話が明るい方向へと向かっていく。何も成果が無かったと思っても、こうしてみんなで話し合えばそうでなかったと分かるのだ。決して無駄な事など無かったと。


「そんでもって……誰もお前一人のせいだなんてこれっぽっちも思っちゃいねえから……あんまり凹むなよ。」


「えっ……」


まさに、おそらくそう思っていた矢先に直接口で言われたものだから、驚いたのだろう。そんな表情だった。


「誰のせいとか責任の所在を問いだしたらんなもんは分かり切ってる。雪美をさらっていったあの野郎に決まってる。なのにあの野郎のしでかした馬鹿な事に責任を感じて俺達がしょい込む必要サラサラねえ。とっととあの野郎に落とし前つけさせてやろうじゃねえか。」


……自分のミスを反省するのも大切ではあるが……思いつめてしまうばかりに本当の敵を見失ってはいけない。


そうだ。悪いのはあいつらなのだ……


シド様流に言うなら……全ての出来事は奴らに繋がるように、奴らのせいになるように考えるべきなのだ。そうする事で奴らの手口に繋がる何かを見つけ出し……近づける。


「……そうだよ。私達やケイが悩んでも仕方ないんだよ。こうなったらとっとと次の手がかりを探しに行こう!なんかジーっとしてられなくなって来たし!」


「……そうですね。二人がさらわれて、少し気が弱ってしまっていたのかもしれません……けど、肝心な事を見落としていてはいけなかった。今やるべき事は……悔やむ事では無く、前に進む事。」


「全部にケリがついて、そしたらあれこれ終わってパーティをして……それが全部片付いたらそん時に……少しだけ振り返って反省すりゃいい話だな……だからそれは今やるべきじゃねえ。」


一旦しょげていたみんなの気持ちが、再び前を向いたのを感じる。


「……これで、あらかた元通りだな。」


この空気を見て、ようやく準備完了と悟ったのかシド様は、立ち上がる。


「……行くのか。」


「ああ。行くに決まってる。」


クロックさんの問いかけに強く、そう答えるシド様の姿。そこには何の曇りも迷いも見受けられなかった。


「……クロックさん、まさかその怪我で雪美さんを助けには……」


「行くつもりだったが、この男に傷口を抉られたせいでそれにはもう少しかかりそうだ……余計な事をしてくれる。」


「せめて傷を治してからにしろ。お前みたいな奴でも死んだら雪美が悲しむ。」


「この程度の傷なら……数日あればじきに治る……それに、俺は死なん。」


「ああ、そうかよ。」


結果的には、きっとこれで良かったんだと思う。少々心苦しいだろうけど……しっかり傷が完治してからでないと事は始められない。


……たとえわずかな手がかり程度しか手に入らなかったとしても、私達は進もう。


助けなければならない人が待っている限り……この歩みを止める事はしてはならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ