酔った勢いで……
「美味い!美味過ぎる!!世界一美味い!!!」
「あぁそうかよ……」
追加追加で頼む酒がテーブルに来た一分後には空になっている。何なんだよこいつ……飲みすぎだろ。ついでに酔い過ぎ。
「どうしてこう……体を動かしまくった後の酒ってのはこんなに美味いもんかね!?」
「知るかよ……つーかもう少し静かに飲めよ。」
こんな野郎が一緒に居たら酔えるもんも酔えるか。元から酔うなんてほぼほぼ無い俺にとってはどっちでも同じだとしても……
「はふ、ウーロン茶下さい。」
「うぉおい!!俺も同じ酒3杯追加でー!」
「……」
そのままアルコールで体を満たして死んでしまえばいい。
「(奢るだ何だ言ってこっちはチビチビつまんでるだけじゃねえか……)」
脇でバカみたいに盛り上がられてるとどうにも気分が乗らねえんだよな……てか野郎率高すぎ。
「「うはははは!!!肉と酒お代わりぃ!!」」
……俺の周囲に居る女がもはやシノかタンザナイトしか居ない。この二人が居なくなったらどれ程地獄かと思うと今だけはそこに居てくれる事がとても嬉しく思える。
「いや本当に気前の良い人だぁ!偶然居合わせた俺達の分も金を出してくれるなんて仏だぁ!!」
「タダとは言ってねえさ、全員でパーッと盛り上がれりゃあいい。だから存分にこの場を盛り上げてくれりゃあ金なんか惜しくはねえさぁ!どうせ貰った忠金なんてこんな時ぐらいしか使い道もねえしなぁ!」
「羽振りがいいけどレイナードさん一体何の仕事を?まさか裏で怪しい取引をしてるヤバい人とか……」
「バカ言ってんじゃねえよ!裏どころか表を胸張って歩くこちとらゴーバス軍の兵隊さんだってえの!」
「ご、ゴーバスの!?」
「バカお前レイナードって名前なら下手な有名人より知られてるゴーバス軍きっての猛将だろうが、ちっとは覚えとけ……しかもその強さからついた通り名が……あれだ……あれ……戦場の巨人だ!!」
「誰が巨人だ!いくら体がデカいと言っても巨人ではねえわ!巨神だ巨神!!その酔いどれた頭でちゃんと覚えとけが!」
「い、いでででで!!!!痛い痛い!!!頭をグリグリしないでくれえええ!!!」
……やかましい。飯食ってる気分じゃねえよ。
「酒ってのはやっぱり人を変えるなぁ……」
「……だいぶキャラが崩壊してますけど……きっとそれだけ楽しいんですよ。シド様と会えたのが。」
「なんでそこで俺なんだよ……」
「レイナードさん強い相手と戦いたいって言ってました。いつかシド様と手合わせしたいって言ってましたよ。」
「絶対嫌だな……あんなのと戦ってたら酷く疲れそうだ。」
負けるとは思わないが……それでも苦戦するのは正直目に見えている。あの大剣もさることながら野郎自身の自力も相当なものだ。
「お前らあれだからな……冒険者が飽きたらゴーバスに来いよ……俺の所で面倒見てやるからなぁ……」
「勧誘してる。」
「俺の下に来たら毎日毎日飲み会だぁ!!!」
「「うぉおおおおお!!!」」
「……勧誘してる。」
「あほらし。」
飲みたいかどうかはその日その日で決めるもんだ。決まりきったように毎日どんちゃん騒ぎなんてめんどくさい。
「う……ぉぃ。シドの兄ちゃんと嬢ちゃんよぉ……」
そして酔っ払いが絡み始めて来る。最悪だ。
「お前ら二人共ゴーバスに来いよぉ……きっとお前らならゴーバスでもいい感じに……」
「行かねえよ。何が好きで誰かに使われなくちゃいけねえんだ。」
「そんな私はいつもどこでもシド様と一緒なので。」
「……なんだよぉ……そんな連れねえ事言わねえでくれよぉ……今すぐじゃなくても考えといてくれよぉ……」
実に不愉快だ。こういう酒癖の悪い奴とは一ミリたりとも仲良くしたいと思わない。
「もういい……ここで飲んでても逆に疲れる。俺は先に帰るぞ。」
「お、おい……」
「それじゃあ私も行きますね。レイナードさん、今日はごちそうさまでした。すすす。」
俺の目配せを受けて理解したのかシノも同じように立ち上がってくれたので俺達はさっさと騒がしい宴会場と化した店を後にした。
……
「うぉーい……待ってくれーい……」
ゾンビみたいに呻き声を上げながらダラダラ後ろからついて来ている。
「よっぽど気に入られたみたいですねシド様。」
「俺じゃねえよ……てか俺だったら困る。」
「シドの兄ちゃんよぉ……待ってくれーい……」
「そこでなんで俺を呼ぶ!鳥肌が立つからやめい!!」
不本意ながらも流石に足を止めて振り向いて言ってしまった。
「いやぁ……わりぃわりぃ……初対面の奴らと飲むとついつい楽しくなっちまって……羽目を外し過ぎちまうんだなぁこれが……」
「……普段はもう少し大人しいですよね。」
「そうそうそうそう……もう少し節操のある場を弁えた紳士的なたtwぃえゎhrまい……」
……文字になっていない、いやさ……言葉になっていない。
「もういいからついてくんじゃねえよ。俺達はもう帰るんだ。」
バカな酔っぱらいはその辺に転がってればいいので置いていく。俺はシノと食い直すか遊び倒すか……
「待ってくれい……宿に連れてってくれい……」
「勝手に一人で行けよ。」
「うぃぃぃ……この町どこに何があるのかよー分からんだ……上に建物下に建物地面が隣で空が明日で……」
……もう無理。翻訳不能。
「私達の泊っている宿まで一応案内してあげた方が良いんじゃないでしょうか……」
「……やだ。」
「無いとは思いますけど……夜の町で大暴れなんて事になったら大変ですよ?」
「そんなのこいつの酒癖の悪さが招いた事だ。責任はこいつが取るだけだ。」
「そんな冷たい事言わねえで知り合いのよしみで助けてくれよ……このままじゃ野宿する事になっちまう……」
「……」
どのみちいつまでもストーキングされてしまうなら……宿屋に放り込んで隔離した方が良いかもしれない。そうすればこんな鬱陶しい野郎から解放される。気持ち早足で俺達は宿屋へ向かった。
「(早く追っ払いたい……)」
……なのだが……
「何!?部屋が空いてない!?」
「時間も遅いしちょっと悪いねぇ……ああ、もちろんあんた達のいつもの部屋は使えるよ?あれだったらあんたらの部屋にその兄さんを……」
「ふざけるな!!どうしてこんなアルコール臭漂う男を神聖な俺の部屋にあげられるか!!」
「と言ってももうこの時間じゃあ他の宿も多分いっぱいだと思うけどねえ……」
……諦めきれぬ俺は他の宿も回ってみたが……結果は残念な事に一切の空室も無かった。
「うぃぃ……そwrgえpp酒mt……」
聞き取れないうわ言からただ一つ酒という単語だけははっきり聞こえた。まだ飲みたいのかこいつは……
……
「それでここに連れて来たと……」
「……やむを得ないんだ。もう他にこいつを放り投げられる場所がない。」
「……ここは依頼所であって酒場でも宿屋でもないのよ?分かってる?」
「分かってる……十分に分かってる。でも恥を忍んで頼む……もうこいつと一緒に居たくない。空いてるスペースに転がしておくだけでいいから今晩はここに置いておかせてくれ……頼む……」
俺ともあろうものがまさかラミを最後の頼みの綱にする日が来るとは……これも全てこの野郎のせいだ……
「……あんたがそこまでするなんて、珍しいわね……いいわ。一晩だけここに置かせてあげる。」
「ほっ……」
ようやく解放された……
「その代わりアンタもここに居なさい。」
「?!」
「起きて来た時に周りに誰も居なかったら困るでしょ?それにこれだけお酒を飲んだ後だから急に体調が悪くなったりしたらマズいわ。誰か見てなくちゃいけないわよ。」
「い、言ってる事は理解出来るが……それじゃ状況変わらねえじゃねえか!俺はこいつから解放されたいんだ!」
「2795873938%……」
もはや寝言でも無くなって来た。何かわけの分からない数字の羅列をぼやき出した……こんな奴とどうして一晩一緒になど居られるか!!
「でもラミさん~、あの子の事はどうするんですか~?」
「……そうね……あの子も……しばらくはここに泊めてあげるしか無いわよね……」
「?」
「……私も今日はここに泊まるしか無いわね……」
セリアの言葉にどうにも困った様子のラミ。何やらおかしい。視線はラミがたまに引っ込む奥の部屋へ。
「何だ?誰か居るのか?」
「……シノちゃんと同じよ。」
「私と同じ?それってもしかして……」
「……別の世界から来た子。」
「ほう、そうなのか。今日来たのか?」
「はいそうなんですよ~。ただちょっと珍しいパターンといいますか……その子まだ7才なんですよね~……」
「7才……」
「それは……」
……確かに幼い。そしてそんな年で自分が他の世界に来てしまったなんて状況を受け入れられるのか……なんて色々考えたらキリが無い。
「そういう場合ってどうなるんだ?普通にこの世界で暮らしていけるのか?」
「……普通に自立して生きていけるような大人ならそこまで世話を焼くまでも無く自分のしたい事をするし……あるいは誰かについていったりするわね。シノちゃんみたいに。けどあの子は……そうね……私の方から引き取って育ててもらえるような相手を探す事になるかもしれないわ。ここでずっと預かってあげる事は流石に難しいし……何よりあの子自身……相当に不安を抱えているはずだもの。」
「その子、今は……?」
「……とりあえず寝てるわ。今のところはそんなにショックを受けたり取り乱したりして無さそうなのが救いね。実際の所……心の中でどう思ってるかは分からないけれど……」
「……その子、可哀そうだね……どうにかしてあげたいけど……」
「……シド様……」
「……」
俺が引き取って何不自由ない生活をさせてやれれば……多少は良いのかもしれないが……現実的でないのは俺自身分かっている。
シノを引き取ったのは……ある程度俺の感情によるところが大きいが……それでもあくまで俺が面倒を見切れると判断したからだ。それだって一人が限度だろうと思う。ましてや7才の年端も行かない子供を冒険に連れ歩くなんてそれこそ幼児虐待というか……
「……ようぅし……分かったぁぁぁ……」
「?」
突然酔っ払いが唸った。
「……そいつをぉぉぉ……俺が引き取るぅぅぅぅ……!!」
「「……」」
「引き取るぅううううう!!!」
「「……」」
耳を疑った。
「……おい、お前……話の流れ分かってるのか?つーか理解してんのか?」
「……こんないつもと違う場所に急に連れて来られてどうしたらいいか分からねえ子を……どうして放っておけるってんだよ……だから俺が引き取ってそいつを立派に世話してやる……そんでもって元の世界にちゃーんと返してやるぅ!!!」
「……」
こいつ絶対理解してねえ……酔った勢いでただ息巻いているだけなんてここに居る誰もが理解している。
「……この人、レイナードさんよね。」
「ですよね。確かゴーバス軍の隊長さんですよね~。」
「お前ら知ってんのか。」
「ある程度は有名人ですし~、たま~にこの町に依頼を受けに来る時もありますしね~。ほんと、たま~にですけど~。」
「……レイナードさん。」
「……んんぅ?」
「……今の言葉、本気ですか?」
「……」
「自分の言葉に、責任を持てますか?」
「……男の言葉に二言はねえ……男の約束に嘘はねえ……男の決意に揺らぎはねえ!!」
「……なら、明日あの子と話してあげてくれますか?もしあの子が望むなら……あの子の面倒はレイナードさんにお願いしようと思います。」
「「?!」」
「……」
「お、おいラミ……お前本気で言ってんのか?こんな酔っ払った状態の奴とそんな大事な交渉を……」
「レイナードさんはこの世界でも確かな地位を持ってる人だわ。レイナードさんの下で預かるというのならあの子はゴーバスという国の元で保護されるのと同じ事。確かな安全性が確立されると言ってもいい。もっとも……あの子が望んだらの話よ?」
「……7才なんだろ?そんな重大な事決められる判断能力あるのかよ……」
「それも……明日話せば分かる事よ。」
……あれよあれよと、急展開の連続だ……
一体この事態……どう収拾がつくというのか……俺にはその未来がまるで見えなかった。
「……男に二言はねぇえええ!!一度言った言葉は引っ込めねぇえええ!!!」
……こんな奴の所に預けられると知ったそのガキが果たして……なんと言うのやら……
「うぐぉおおおおお……」
兎にも角にも最終的に俺達は酔っ払いを隅っこに追いやったまま……依頼所にて一夜を過ごす事となった。
クソみたいないびきがBGMとして付随して来たせいで寝つきは最悪だった。




