パーっと行く?
「わぁ、小手丸だぁ。珍しい。」
何を置いてもやっぱり気になるのは宝箱の中身。さっさと確認したものの……入っていたのはそれなりの長さの刀だった。
「軽いですね。」
「ほーう、良い光沢だ。刃も上質だなこりゃ。」
「軽くて丈夫で取り扱いやすいから初心者から上級者まで幅広く扱えるんだよ。もし使わなくても売ったらいい値段になるよ。」
刀かぁ……カラマの奴にでもやろうか。これを引き換えに体を要求出来る程のものでは無いだろうけど。つーかあいつが俺に心開いてそんな事を許すなんて多分有り得ないだろう。
「ちっ、正直苦労の割にはって感じだったな。」
「まぁそうですね……これでまたオカタイ鉱石を探さないといけないですし。」
どこにあるんだよマジでよぉ……
「んで?俺はこのまま自己紹介も無く去った方がいいのか?それとも少しぐらい駄弁っても?」
俺に回答権があるなら回れ右してとっとと消えろと言うんだが、シノが居る限りそうはならない。
「あふ。お礼の一言も言わない内に行っちゃ嫌です……というわけで助かりました。レイナードさんが居なかったら私があられもない姿で魔物にひん剥かれてしまう所でした。」
「そこまでのピンチだったようには見えなかったが……まぁ、感謝は素直に受け取っておくぜ嬢ちゃん。そっちの兄ちゃんにとっては迷惑だったか?」
「……ま、結果に免じてお咎め無しの不問にしてやるよ。一応手を貸してもらったわけだしな。」
「珍しい。シドが男の人相手に突っかからない!」
「……そう言われると突っかかりたくなるからそれ以上言うな。」
どうせ難癖付けたとて止めに入る癖に……
「はは、ま、急に知らない奴に割って入られたら少しは驚くし不快感もあるわな。悪い悪い。けど当然ながら手柄や礼なんかもいらないからよ。俺も手応えのありそうな相手とやり合えただけで十分なんだ。」
「それって修行?」
「んなとこだな。ちょーっと休暇中てなもんであちこち回って腕試し的な事をして回ってんのさ。」
戦闘狂か。たまにいるわなこんな見るからに脳筋な奴。
「スカーダさんとクロウズさんはどちらに?」
?誰だそいつら……
「お?あいつらを知ってんのか?ひょっとすると嬢ちゃん……あいつらの知り合いなのか?だとしたらあいつらから聞いてたから俺の事を知ってたとかか?それなら納得だ。」
「あ、えーと……そういうわけでも無いんですが……でもレイナードさんのご高名やお噂はかねがねという感じで……」
「そっか。まぁいいさ。あいつらはこないだまで一緒に旅してたんだがクロウズの奴が旅先で食ったイカに当たっちまって腹を壊しちまったんだよ。運の悪い事にそのせいで一回帰らなくちゃいけないとかでスカーダも付き添ってゴーバス本国に戻ってったんだ。んで俺はというともう少しブラブラしてから帰るって事で今日ここに居たらたまたま嬢ちゃん達の所に出くわしたってわけだ。何か分からない事とかあるか?」
「いえ。おかげさまで大体納得出来ました。」
勝手に話が進んでるけど俺は案の定蚊帳の外だ。まぁ今の会話から分かるのはこの野郎には連れが居たって事とそいつらがゴーバスに身を置いてるって事ぐらいか。身なりからすると兵士とかなのかもしれん。
「これで話は終わりか?ならさっさと次行こうぜ。このままじゃ洞窟に居る間に日が暮れちまう。」
少々分からない点はあっても知りたいとも思わない。これ以上付き合う必要が無いなら俺としてはとっとと探索を続行したい。
「探し物があるってんなら俺も手伝うぜ?何だっけか、オカタイ鉱石か?」
げっ、余計な事を……
「うん。ずーっと探してるんだけど中々見つからないんだよ。」
「私達の帰りを待ってくれている人達が居るんです……よよよ……」
こんにゃろう……いつも自分でどうにかしようとする癖に今回はやけに頼ろうとしてやがる……
「探し物なら人の手は多い方が良いな。おし、分かった。ここで会ったのも縁だ。少しの間俺も手伝わせてもらうぜ。」
「本当ですか。レイナードさんが居てくれるととても頼もしいです。」
「見た目以上に強いもんね。」
「おいおい、そこまでもてはやされる程のもんじゃないっての。」
「……」
何か、悔しい……
……
「なぁタンザナイト。」
「?なぁに?」
「……シノの奴、あいつを見つけてから目の色が変わったように見えないか?」
「レイナード?ああ、そうかも。信頼してる感じだよね。」
……やはり、そう見えるのか。前を歩いているその姿を見ても俺と歩いている時のような不安気な感じが薄れている。
「頼りになりそうだもんね。でも、シノの事だからそれだけじゃないのかもしれないけど。」
「それじゃあまるで俺が頼りにならんみたいではないか……」
「シノも色々思う所があるんだよ。たくさん悩んでるから……シドももう少し歩み寄ってあげたらシノ喜ぶよ。」
「そんな媚びるみたいな真似したくない。それに何があろうとあいつは最終的には俺の所に戻って来る。お前だってこっそり聞いてたろうが。」
「でもそんなシノの想いに胡坐をかいて他の人にばっかり目移りしてたらシノだって悲しくなって他の人の所に行っちゃわないとも限らないよ?人の気持ちは変わっちゃうものだもん。」
「むぐ……」
……そう言われると、否定出来ない。
こんな時ばかりは相手の気持ちが知りたいと思ってしまうのは……ちょっとワガママという奴なのだろうか。
……
半ば回り道をしてしまったかな、なんて思ったけれど思わぬところで出会いがあった。まさかこんな所でレイナードさんと出会えるなんて。
前はオイデオイデ洞窟に行った時に会ったんだっけ。その時は銀固めを倒すのを手伝ってもらったんだ。懐かしい話だなぁ。
なんて気持ちに浸るとついつい自分から喋りに行ってしまう。レイナードさん話も上手いし聞き上手だから楽しい。
でも一番好きなのはいつだってシド様……あふぅ。
「ちら。」
「……(ふいっ。)」
……ぐすん……そっぽを向かれてしまった……何か悪い事しちゃったかな……
しかし、これは何の偶然だろうか。以前洞窟にて銀固めと遭遇した時にレイナードさん達と出会った。そして今回は1ランク落ちるも鉄固めと出会った洞窟にてレイナードさん一人と出会った。どちらも規模が一回りぐらい小さくなったような感じだ。
……よく分からないが、私達とレイナードさんはどこかで会うような運命が決められているのだろうか。かと言ってそれがどんな意志によるものかなんて分かりもしないんだけど……
「嬢ちゃんはずっとあの兄ちゃんと旅してんのか?」
「ずっと……そうですね。シド様とずっと一緒に旅をしています。最近はタンザナイトちゃんも一緒ですね。」
ずっと……そう。ずっとなのだ。永い間……ずっと。
「あの妖精も珍しいではあるが、あの兄ちゃんも中々の腕前だろ?」
「あふ、分かりますか?」
「何となく身のこなしでな。ありゃ俺より凄腕な予感がするぜ。」
「そこまでですか……どうでしょう。」
しかしソーラから聞いた話ではあるが、実際にシド様はレイナードさんとの戦いを制した事がある。闘技大会という競技の中ではあるから真剣勝負の場でどうかまでは分からないが……
「後で手合わせしてもらえるように頼んでみるかな。」
「残念な事にシド様は男性があまり好きでは無くて多分お願い事は聞いてもらえないと思います……ついでに無駄に疲れる事も好きではありません……」
「ははは!なるほどなるほど。そりゃ分かりやすくていい。」
変に期待させても良くないと正直に答えたら逆に好感を持たれたようだ。
「レイナードさん、その……リアンさんは知ってますか?」
「リアンって言うと……あの魔法研究所の才色兼備さんか?」
「です。」
「知ってると言えば知ってるが……たまに見かけたりするぐらいだな。何せ持ち場が違うから接点もさほどねえしな。まぁ俺みたいな戦うしか能の無い男とは畑違いの所に居る人だわな。」
「……それでは、ソーラの事は……?」
「……確か、リアンの所に一緒に暮らしてるって子がそうだったな。あの子がどうかしたのか?」
「……いえ、ちょっと気になっただけです。」
「……そうか。」
ソーラの話を出すと急に空気が重くなったのを感じた。きっとまだ……あの見ていて心苦しい状況に身を置いているのだろう。
ソーラが自分の力に自信を持てるようになるにはやっぱり……シド様の協力が必要だと思う。
だから会いに行こう。そう遠くない内に……だって、私の親友だもん。
……
「や……やっと見つかった……」
今日だけでいくつ宝箱を開け……どれだけの魔物達と戦った事か……もう1週間分ぐらい動いた気がする……万歳する気にもならないし達成感も皆無だった。
「間違いなくこれがオカタイ鉱石だよ。」
「いやはや随分と手こずったなぁ。けど見つかりゃあ何よりだ。」
「はい。レイナードさんのおかげですありがとうございます。」
「はは、何も手伝っちゃいないって。」
謙虚さをアピールしやがってからに……今思ったがこういう奴が傍にいるから俺の評価が下がるんだ。本当に迷惑だ。
「そんじゃあ俺も適当に帰るとするかな……」
「(おお、そうだそうださっさと帰れ帰れ。)」
「せっかくここまで手伝ってくれたんだしどうせだったら一緒にエイスの町まで行こうよ。」
「(おい!何トチ狂った事言ってやがる!!)」
「あふ、レイナードさんさえよければもう少し一緒に居て欲しいです。お話なんかももっとしたいですし。」
「(ガーン!!!)」
シノの奴がここまで直接的に好意を表す相手が居るなんて……まさかまさかと思うけど……俺って所詮2番手のキープ君で本命はこのデカくて頑丈そうなのが取り柄のこの男……だと……?
「そうか?ん~……まぁ確かに時間的にはエイスの町に帰った方が近いっちゃ近いが……どうしたもんかな。」
「行こうよ~。」
「シド様……」
……ここまで俺は、否定的な事を言ったりしていない。そんな俺にシノはウルウルと視線を投げかけて来る。俺の許可が欲しいとでも言うのだろうか。
「……別に好きにしたらいいじゃねえか。」
……ここでムキになって反対してはただでさえ危うい俺の立場が更に悪くなってとにかくカッコ悪い男のレッテルを貼られてしまう。心の狭い奴と思われるのはもうここらが限界なのだ。
「……まぁ、そう言ってくれるなら、そうだな。今日はエイスの町に行かせてもらう事にするかな。」
……内心では、テンションがた落ちであった。せっかく色々な宝を手に入れたというのに何でこんな浮かない気分にならなければならないのか……
……
レイナードさんの協力もあってか長い間探索したと思ってもなんやかんや町に着いた頃にはまだギリギリ夕方だった。なのですぐさまその足でオカタイ鉱石を探していた人達の所を見つけて渡しに行った。
「ほ、本当に採って来てくれたのか……!」
それを見せた時の驚きと喜んでくれた顔を見れば今日一日の疲労にも意味があったと思える。
「こんな時間までずっと探してくれていたなんて……本当にありがとう……!せめてお礼をさせて欲しい……ええと……」
「気持ちだけで大丈夫ですよ。それよりお爺さんに良い杖をあげてください。」
「え……でも、そういうわけには……!!」
「他の方が困っている時にそっと手を差し伸べてあげてください。それでは失礼します。すすす……」
「ああっ、待って……!!」
……物を貰ったりしたら、気が引けてしまう。だから無理矢理に振り切って私達はその場を後にしてしまう。といってもこの町に住んでるならまたどこかで会ってしまう事もあるかもしれない……その時はまたその時で受け流してしまおう。
「分かり切った通りに無報酬にしやがって……」
「喜んだ顔は何にも代えがたい報酬です。」
「アホ!!」
……くすん。
「無欲な嬢ちゃんだな。優しいのは良い事だが、それでもいくらかは対価を貰った方が良いと思うぜ。その兄ちゃんの立場ってもんもあるしな。」
「……あふ。」
……そうなんだよね……私一人で頑張った結果ならともかく、シド様やレイナードさんにも手伝ってもらったものを私一人で決めるのは本当は良くないよね……
「……次はちゃんとしたお礼を貰いますから今回は許してくださいシド様……」
「……ふん!」
……ぐすん……今日は機嫌を損ねてばっかりだ。
「あー……何か悪いな……俺が変な事言っちまったせいで……」
「いえ、私が勝手な事をしてしまったせいです……ぐすぐす。」
「(つーか俺が言っても中々聞かねえくせにこいつに言われたらすぐに改めるのは何なんだよ!!)」
「……よし!!そしたら飯を食おう!!仕事が終わったらパーッと食って飲んで楽しむ!そうすりゃ気分はリフレッシュ!!今日は俺の奢りだ!出会いを祝して騒ごうじゃねえか!!」
うぅ、私に気を使ってくれている……申し訳ない……
「シド様……どうしますか?」
「……誰が払うとかはともかく、確かに腹は減った。」
「なら決まりだ!ほら行こうぜ?パーッとパーッと!」
……そう言えばレイナードさん、お酒が大好きらしい。
「(絶対こいつ自分が飲みたいだけじゃねえか……)」
レイナードさんの押しの強さに負けてか、シド様もすごすごと背中を押されて行く。ひとまず仕事終わりの一杯を頂きに参る私達であった。




