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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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異世界少女はよく出来た子

「……俺、そんな事言ったか……?」


「言いましたよ。セリアもシノちゃんもみんな聞いてましたから。」


「……」


翌朝、すっかり酒も抜けた様子で二日酔いなどの後遺症も残らない様子の野郎だったが……昨夜の記憶がすっぽり抜け落ちているというもっともありがちな弊害が発生していた。


「……すまねえ。みっともない話だが酒に酔い過ぎてて全く記憶にねえ……俺が……子供を一人預かるなんて……」


「二言は無いとか嘘は無いとか揺らぎは無いとか言ってたよ。」


「……」


どうやら完全に不本意な事のようだ。


「逆に良かったじゃねえか。中途半端な気持ちの奴が引き取ったっていい結果にはならねえ。今ならまだ間に合うんだからよ。」


「……って、こいつは言ってるけれど……レイナードさんもやっぱりそうなんですか?あの子を引き取るって言う言葉はその場の勢いで言ってしまっただけですか?」


「……俺はずっと独り者で通して来ちまった……子供ってのがどうすりゃちゃんと育つのか……どうやりゃあ不自由ない暮らしをさせてやれるのかとか……そんな事もよく分からねえ……そんな俺が引き取ったとして……その子供ってのは幸せになれるもんなんだろうか……」


「幸せになるかどうかでは無く……幸せに出来るかどうかですよ。」


「……っ……」


「面倒を見る……子供を育てるって言うのはそういう事です。人は放っておいても成長するかもしれませんが……正しい方向に成長するにはちゃんと導いてあげる存在が必要なんです。そういう存在に自分が成れるかどうか……大事なのはそこです。」


「……」


ラミの珍しい敬語だ……そして、実にシリアスな口調で喋っている。子供を育てるって事については一言あるようだ。


「……その子供ってのは、今、どんな様子なんだ……?やっぱり、不安に怯えてるのか……?」


「……なら、会ってみますか?一度話してみないと……何も分かりませんからね。」


「……引き取る引き取らない云々は置いておいても……確かにその通りだ。気にならないってのは嘘になる。」


そして、聞いてしまったらもう他人ごとでは無くなってしまう。こいつだけでは無く、俺達も……同様だ。


……


「皆さんはじめまして!そしておはようございます!私はナナって言います!どうぞよろしくお願いします!」


「「……」」


「……あれれ……私のあいさつ……おかしかったですか……?」


「……い、いや、そんな事は無い……むしろ歳の割に……しっかりしているなと面食らったぐらいだ。」


「でしたか!失礼が無くて良かったでした!」


「「……」」


何か、思ったより……明るいな。


「見た目はちっこくて年相応だが……しっかりしてそうな奴だな。」


「私よりしっかりしてるかもしれません。はふ。」


それはそれでどうなんだ……


「さぞかし両親の教育が良かったんだろうな。」


「……」


「……あ……?」


野郎がそう口にした瞬間、ラミがしまったという感じで顔を顰める。今さっきまでハキハキ喋っていたガキも……ほんの少し表情に影を落とす。そしてやがて、こう言った。


「私お父さんとお母さんは居ません。産まれた頃から居なくて……」


「……」


「あっ!でもいいです!こんな話をしたらきっと暗いムードになってしまうのはもう分かってますし、私も気にしない事にしていますから!」


「……」


いっそ落ち込んでくれた方が慰めの言葉もかけやすかったかもしれない。そんなにも明るく振る舞われた方が俺達は辛かったりするのである。


「(なんと言うか……重いな。色々……)


……


酒の勢いってのは恐ろしいな……これまでもそんな経験無いわけでないが……後で謝って済むような事しか無かった。超えちゃいけない一線だけは越えないという自負がどこかにあったのかもしれないが……たまたまラインを越えて来なかっただけらしい。


「わぁー!こんな甘くて美味しい料理初めて食べました!」


「そう言ってくれると嬉しいなぁ。良かったらもっと他にも作ってあげようか?」


「そ、そんなにご馳走になっちゃって……罰が当たったりしないでしょうか……」


「そんな事気にしなくていいよー。食べたいだけ食べて?あ、でもあんまり食べてばかりでも良くないから適度に運動するといいよ。」


……あの居た堪れない空気を察してか、今は同性達であの子の面倒を見てくれている。ああして見ている分にはとても微笑ましいが……ずっとこうしているわけにもいかないという今後の事を考えるとどうしても気が重い。


「参ったなぁ……って顔をしてるわ……」


「……顔だけじゃなく、実際にそう口にしようと思ってたところだ。」


「はん。軽い口叩きやがるからそういう事になるんだよ。無責任野郎め。」


「そのセリフあんたが言えた事じゃないでしょうに。この世で一番の薄情男なんだから。」


「いでで!!抓るな抓るな!!!」


……しかし、シドの兄ちゃんの言う通りだ。デカい口を叩いてもいい相手とそうでない相手ってのがある。いい相手ってのはそれを言ったところで俺が恥をかいて終わる自分だけで完結する場合。けど今回の事で傷つくのはあの子だ。他人を傷つけるような言葉は……言っちゃならねえよな……


「……なぁラミさんよ。あの子の貰い手ってのを探すとして……どれぐらいかかるんだ?」


「どうでしょうね。案外2、3日で見つかる場合もあるかもしれないですし……まぁ、遅くとも一月もあれば十分と思います。見た通り素直で良い子ですしね。」


「……」


つー事は……わざわざ俺が絡まなくてもやがては幸せになれる可能性は高いって事か。


「ヤバい趣味嗜好を持った金持ちの所に間違って行ったりしないんだろうな?」


「そんな相手の所に送ったりしたら私は命を絶つわ。確実に信用のおける相手にしか任せるつもりは無い。それが私の仕事。」


「……なら、なんで俺に任せようとしたりしたんだ。ラミさん……酒の勢いで出来もしない事を言っちまうような信頼出来ない男に……」


「……そうですね。でも、私はレイナードさんを信用しています。あの子を預ける事が出来る資格があると。昨日も少しお話ししましたけど、あなたはゴーバス軍の隊長という極めて高い社会的地位を持っている。そんなあなたの元に行くという事は彼女はゴーバスの管理下に置いて安全を約束されると同じです。そして何より……あなたは自らが引き受けた事柄を途中で放棄するような人間では無いですよね。」


そうありたいと、願ってこそいるが……実際に出来ているかというと胸を張って言えはしない。


「その責任感があるからこその地位と立場なはず。そこを見込んでそう思ったんです。もっとも……レイナードさん自身の意志が一番でしょうから……そこまでの責任を背負いきれないと感じているのでしたらこの話は無かった事にしても全然構いません。まだあの子にもこの話はしていません。今ならまだ……何も無かった事に出来ます。」


「……」


……この出会いは、無かった事にした方が良いんだと俺は思う。あの子の幸せを考えるなら。


人一人を面倒見て育てるなんて……俺にはきっと無理だ。


ラミさんは俺を信用してくれている。俺にはそれに応える自信は無いが……同様に俺もラミさんの人間性を信用している。この人が認めた人ならきっとあの子を立派に養ってあげられるのだろう。


「……何も無かった事に、した方が互いの為……だわな。」


「……分かりました。私も押し付けるような真似をしてすみませんでした。レイナードさんが隊長という立場柄お忙しいのも分かっていた事ですし……これ以上の重荷を背負う事が出来ないというのは当然の判断です。」


……これで、正しいんだよな。


……


結局元の鞘に収まる形というか、あの子はラミさんに任せる事となった。正しいあるべき道に決まってからは逆にスッキリしたというか、よそよそしい態度で無く自然体であの子に接する事が出来るようになった。人としての在り方としては実に褒められたものでは無いが。


「レイナードさんの番ですね。」


……今はこうして、みんなで囲んでゲームをやっている。遊んであげるなら人数が多い方が楽しいだろうという事だ。


「俺はあんまり頭を使うのが得意じゃないからなぁ……こういうゲームはどうにも……んじゃあこれ出してみるか……」


考え無しに適当に強そうなカードを出してみるが……


「下手くそめ。そこでそれは無い。ほらよ。」


「いぎっ……!?」


……どうやら考え無しに勝てるゲームでは無いようだ。さっきからことごとく俺の出すカードはやられていく。


「またレイナードがビリだー。」


「……マジかよ。これで3連続ビリだぜ……」


何を賭けているわけでも無いし悔しいわけでも無いが……


「ビリが決まってるゲームはつまらん。スリルが無いだろうが。もう少し頭を使え頭を。」


そういう事だよな……俺が圧倒的に弱いせいでゲームにおける意気込みなんかが半減してしまうのだろう。


「もう少し全体の状況を把握した方がいいよ?場に出たカードをある程度覚えておいて他の人の手持ちのカードが何か考えたり……」


……と、言われてもなぁ。


「それじゃあ私がレイナードさんと一緒に協力するのはどうでしょう!」


「……え?」


「及ばずながらだけど、二人で力を合わせたら出来るかも知れませんし、何よりその方がきっとレイナードさんも楽しいと思います!」


思いがけないアプローチがかかる。


「確かにナナちゃんはこのゲーム既に把握している感じですね……1位も1回取ってますし……」


「そうだな。お前よりナナの方がよっぽど上手い。少しはコツを学べ。」


と、まさかの……


「よろしくお願いします!」


「……あ、ああ。悪いな。」


協力プレイ……何か立場的に、申し訳ない。


……


「んー……そんじゃあ強そうだからこいつを……」


「レイナードさん、そこはこっちのカードを出した方が良いかもですよ。」


「え……」


でもこいつは一番弱いカードじゃ……


「どっちでもいいですけど、お任せします!」


「……」


この子は俺の事を気遣って助言してくれてるんだ。たとえ結果がどう出ようと……ええい!


「……んお。それが出て来るか……」


「むむ……」


……あれ?なんで悩んでるんだ?


「……しゃあねえ……こいつを出すしかない。」


「……すすす。」


こっちはめちゃんこ弱いカードなのに、何故か周りはべらぼうに強そうなカードを出してくる。ちょうどさっきの俺のような感じに……


「そうしたらこのカードを出したらいいかもしれません。」


「……これか?」


次に提案されたのは、中ぐらいの強さのカード。それを言われるがままに出す。


「……やはり隠し持ってたか。強襲の可能性を考慮しておいて正解だったぜ。」


強襲ってのは2枚目に出したカードに適応される効果で、攻撃力が2倍になるというもののようだ。


「これで攻撃力は同等になりましたね。」


「だから3枚目のカードに命運託されるわけだが……悪いな。このゲームは貰った。」


「……そいつは……」


「シド様……そんな強いカードをまだ温存していたんですか……」


「これぐらいにもつれ込む展開は予想していたからな。こいつに勝てるカードは1枚しかない。かと言ってここまで温存するなんてよっぽど先が見えていない限り有り得ない。つー事はどいつも持っていない。」


「レイナードさん。」


笑顔でそう問いかけられる。


「……ああ。」


流石にバカな俺でもどのカードを出せばいいのかぐらい分かった。


「……その不敵な表情……ま、まさか……」


「……悪いな、兄ちゃんよ。」


俺にもようやく、分かった気がする。ゲームの楽しさって奴が。


バシン!


「なんと……!」


「も、持ってやがった……!!!」


この大勝負を制したのは……デカい。デカすぎた。


「これで一気にこっちの戦力は増強された。」


強いカードは軒並みこちらにある。どうやって攻めるも自由自在。守りは鉄壁。流石にここまでお膳立てされたら後は俺のプレイングでも結果は揺らがなかった。


「うっしゃあ!!ようやく初勝利頂いたぜ!」


「ぐは……ナナがいるとは言え……脳筋野郎に負けるとは……」


「あふ……手札は良かったのに……」


「やりましたねレイナードさん!」


「中盤の大勝負を勝てたのがデカかったな。あれが無きゃ同じ結果になるとこだった。ありがとよ。」


大事な部分だけ口添えしてくれたこの子の力がこの結果の全てだ。この子は小さくとも俺なんかよりずっと頭が良いのだろう。


「レイナードさん楽しかったですか?」


「ああ。悪くないもんだな。」


勝てた時の快感を味わったらただ漠然とゲームに挑むってのがもったいないと感じた。真剣に挑まなければいいゲームにはならないんだと。この子は俺にそれを教えてくれたのだ。


そっからはまた俺一人の個人として何回もゲームを繰り返した。あの子の助力無くしてあれから再び1位を取る事は出来なかったものの、どうにか自力で2位を取る事は出来た。

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