オカタイ鉱石はどこ?
「……なんで一人で突っ走って行っちまうかねあいつは……」
「「……」」
決断力もあって決意もあるのは結構だが……マジで割に合わない仕事を引き受けるもんだ。少しは見返りってもんを求めねえのかあいつは……
「……」
そして、すごすご逃げ帰って来た4人も何やら言いたそうな目で俺を見ている。けど俺の方からはかける言葉も無い。だから仕方なく……追う!走りだす!
「本当にアホだなぁあいつはよ……!」
「でもやっぱりシノっぽいね。ああいう所大好き。シドもそうでしょ?」
「何も得られる報酬が無い仕事に首を突っ込むのは大嫌いだ。せめて交渉とかしてからならともかく……あいつらが何も寄越さなかったらそれで終わりだぞ。」
仕事をするにしても、やはりそれに値する対価ってものが必要だ。金額の大小だけじゃない。危険に対しての保険のようなものだ。それが妥当でなければ仕事に懸ける気持ちってのも薄くなりかねない。前にブリアの野郎の時も同じような事を言ったはずなんだがどうにも学習してねえなあいつは……
「シノが求めてるのはお金やアイテムじゃない……もっと何か違うものなんだよきっと。」
「……んな事、分かってるよ。」
きっと目に見えないハート的な何かなんだろう。それがあいつにとっては何より大事と……その辺りは実に気が合わないもんだ。
「それに一緒に付き合ってくれるシドが居るからシノも安心してみんなの為に頑張れるんだよ。」
「……」
やがて、先走った帽子の人影に追いつく。
「おいコラ暴走娘止まれ。」
「止まったらシド様に怒られてしまいます。」
「……怒らねえから止まれ。」
「ぴた。」
すぐ止まったよこいつ。
「……はぁ……安請け合いしやがってからに……」
「私本気です。」
「……約束通り、ゴーバスに行くのは先送りだからな。」
「一度決めた事には責任を持ちます。それにどうしてもという時は一人で行ってきます。」
……何でこいつは自分以外の相手の為とかになるとこうも頑固なのだろうか。こうなると頑としてきかない。
「……ちっ……」
どうやらゴーバスに行く日も、そう遠くはならないだろう。
……
地図を見ながら小一時間もしない間にそれと思わしき洞窟の内部に入る事に成功した。
「宝箱から出て来るって言ってましたね。」
「どの辺りの階層で出るとかどのぐらいの頻度で出るとかそういう情報も聞かないでただ突っ走りやがってからに……」
「う……」
それは確かに。つい勢いで走っちゃったけど、あの人達が知る限りの情報は知っておいても良かったかなぁ……
「手探りでグリグリ探すのは面倒だなぁ……第一洞窟に来るなんて想定してなかったから大して準備もしてないし。」
「……遅くとも夜には帰りましょう。そうしないとお腹が空いちゃいます。」
……皆さんとの約束も大事だけど……私のお腹の虫ちゃんも大事なのです……うぅ、弱い私を許してください。
「とりあえず適当に降りてみようよ。5階層ぐらい降りてみて探してダメだったらまた下に行けばそのうち見つかるよ。」
「そ、そうですね。タンザナイトちゃんが言うならその通りです。」
「一番下まで行く必要は無いとしても、下に行くほど良いものが出やすいのは確かだろうしな……」
「そうですそうです。(そうだといいな)」
……
「バックンバックン!!」
カプリーチョ。可愛らしい名前と裏腹に大きな口と狂暴な歯でこちらに噛み付こうとしてくる狂暴な魔物……それでいて中々に素早いと結構手強いのである。
「容赦無しで叩きます!」
「バクゥ!!」
……おまけに若干硬いと。鱗のせいだろうか。あまり隙の無い相手だ。
「真っ二つにしてやりゃあ大人しくなるだろうが!!」
「バグ……!」
とにかく一撃でも貰ったら致命傷となりかねない。こいつとの戦いは先手必勝、やられる前にやるが定石。というわけで私達の周りには大量の死骸が並ぶ。
「ったく。わらわらと鬱陶しい奴らだ。」
「お疲れ様です。あふ。この階層でこのレベルの魔物が出て来るのは中々ですね……」
「並みの冒険者ぐらいじゃ苦戦するのも分からんでも無いな。ここは中級者でも手こずるだろう。」
私もシド様が居てくれなかったら流石に無理だろうな……こんなにたくさんよってかかられたらひとたまりも無い。
「でも丁度いい所に宝箱だよ。」
「おお、本当ですね。開けてみましょう。」
もしもオカタイ鉱石だったら嬉しいな。日頃の行いが良いからきっとそうに違いない。
「そう上手くいくもんかね……」
いくもん。きっといくもん。
「ぱか。」
……開けてみたけれど……
「……どう見ても鉱石の類ではありませんね。」
「んだよこれ。袋に粉がたくさん入ってるぞ。」
もしかして吸うと気分が良くなる危ない粉でわ……
「これはねぇ、スヤミンって言って眠り薬なんかを使う時に使う素材だね。残念ながらこれだけじゃちょっと使えないけど。」
「敵はそれなりの癖に宝箱の中身がしょっぱいな……」
「でも製薬会社なんかに持ってけばそこそこの値段で買い取ってくれるよ。それか合成で使っちゃうとか。」
「……一応持っていきますね。すすす。」
何に使うかも分からないけど困ったら袋の中にぽい。
「こりゃ先が思いやられる……」
……シド様の想像通り、それから私達はあれこれ探索して魔物と戦いながらもいくつかの宝箱に遭遇するが……一向にオカタイ鉱石が出て来る気配は無かった。
「雲行きが怪しくなって来たな……」
「うぅ、この階層じゃ出ないんでしょうか……」
「もうすぐ10個目ぐらいになるけど出て来ないもんね……もう少し下に行ってみる?」
一概に確率の問題とも言えないけど……それが妥当だった。
……
「実に気乗りしねえな。せめて美人の気配でも漂って来れば話は違うんだが……」
「隣にこんな可愛い美少女が居るじゃないですか……と思ったら私でした。てれ。」
「(スルー)せめてあのパーティに一人でも美人が居りゃあなぁ……」
「けれどどんな女性を見ても結局最後は私の所に戻って来てくれるのがシド様です。私もシド様から離れません。ひしっ。」
「(スルー)なぁタンザナイト。もう少しどの辺りにありそうとか分からないか?」
「う~ん……流石にそんな詳しくは難しいかな……少なくともこの洞窟で手に入るって事ぐらいは分かるけど……」
「確率はゼロじゃないなら……後は試行回数の問題か。目当ての者が手に入るかばかりは運だもんなぁ。」
「シド様が私を手に入れる事が出来たのはきっと日頃の行いが良かったからですね。私もシド様と出会えて本当に嬉しくて……」
「あー!!うるせえ!!探すつもりがあるならもう少し真面目な話しろ!!お前より俺の方がよっぽど必死に探してんじゃねえか!!」
最初は探し物なんてどうでも良かった俺がどうしてこんな気苦労をしなけりゃならんのだ!
こうなったら絶対見つけたる!
「あ、わんわんとにゃんにゃんだ!」
「いつもセットで行動している仲の良い動物なんですよね。」
「後凄く子だくさんなんだよ。」
「どうでもいいわ!」
何故か非常に洞窟という場所に似つかわしく無いそいつらを尻目に更に下へ下へと向かって行く。
……
「うおいシノ!逃すなよ!トドメをさせ!」
「いくら私でも……ここでヘマはしません!」
思い出したがわんわんとにゃんにゃんは幸せを呼ぶ動物とも言われていた。もし見かけたらラッキーかも、と。
「やったぁ!鉄固めを倒したね!」
「ふぅ……逃げられなくて良かったです。」
俺ぐらいの頻度でさまざまな場所に入り浸っていてもこいつと遭遇するのは珍しいものだ。
そう、倒せば何かしらの珍しいものが確定で手に入る魔物。鉄固め。これまで倒してきた中で役立つアイテムが出てきたのは大体半分くらいと悪く無い数字。
果たして今回は何が出るのか。
「もしかしてオカタイ鉱石が出たりして。」
「それならラッキーですね。」
……オカタイ鉱石はここで粘ってりゃそのうち手に入るわけだし、それをわざわざ珍しい鉄固めから手に入れるのはあまりラッキーとは思えない。口にはしないが出来れば他のもの……
ぱわぁぁぁ〜……
やがて現れたそれは……箱のような……いや、箱だなこれは。
「はふ……なんでしょうこれは。」
普通ならば正体を知るのは町に持って帰ってからとなるが、俺には動くアイテム鑑定士とも言える頼もしい奴がいる。
「なんだこれはタンザナイト。」
「これはね〜、三つ星お菓子三点セットだよ!美味しそう(じゅるり)」
「お菓子ですか……」
シノはちょっとガッカリしてるがタンザナイトは食いたくて仕方がないといった感じだ。
「流石にレアアイテムなんだろ?まさかその辺で売ってるわけじゃ……」
「売ってない売ってないよ!3種類とも普通じゃ手に入らないよ。そもそも普通に作れないもん。とっても美味しいんだって。食べた事ないから早く食べたいなぁ……(じゅるり)」
「あふぅ、タンザナイトちゃんにそう言われると私も興味が……(じゅるり)」
デザートか……
「ルーチェとかなら作れないのか?」
「あー、どうかな。ルーチェぐらい上手なら素材があれば作れるかもね。」
「そしたら持って帰ってみんなで食べるのはどうだ?そんでルーチェにも食べさせて再現してもらえば今後も食べられるかも知れん。」
「そっかぁ!それいいね!」
「それに美味しいものはみんなで食べた方が嬉しさを分け合えますもんね。シド様素敵です。」
思いの外喜ばれてしまった。ただ単に一回切りよか何回もという欲が働いただけなんだが……まぁいいや、ここは素直に乗っかっておこう。
「はっはっは!」
いい機会だしこれでラミの野郎にまたわけの分からない出禁を言い渡される事も無いだろう。なるほどね。こういうのが定期的に必要だと。面倒な女だ。
と……気分良くしてすたすたと進んでいくのだが……思わぬところで難敵にぶつかる事となる。
……
「通路通路。通路を通る際は後ろからの襲撃に注意しましょう。」
よく分かっている。広い場所なら前衛が大事だが細い道は最前列と最後列が大事なのだ。
「もうそろそろ見つかっても良さそうだが……ん?」
道の先には……やや開けた部屋。そしてその奥側にはやや豪華な宝箱。
「あれに入ってるかな?」
「開けてみましょう。きっと中身も期待出来ます。」
本来なら浮かれ喜ぶところだが……ある程度のレベルの洞窟で且つこの階層……普通に宝箱のみがポンと置いてあるとは俺には考え辛く……
「どうやら……そうもいかないようだぞ。」
「?」
宝箱ばかりに気が向いていた俺達の前に、奥の暗がりから何やらペラペラな魔物がゆっくり姿を現わす。
「……」
「うわぁ……紙だ。紙が動いてる。」
「あれは……もしかすると……」
シノはフッと何かを思い出した様子でいつもの荷物の中から一冊の小冊子を取り出す。
「心当たり有りそうなのか。」
「……多分、これです。」
そう言って俺に見せるはとある1ページ。どうやら魔物について書かれている図鑑のようだ。
「紙切り達人……?」
それがあの魔物の名前のようだった。
「あんなヒョロヒョロな体で一体どんな攻撃を……」
「わぁわぁ!!シド、シノ!!あれ見て!!」
「……なんだぁ!?」
次の文章を読もうとする間に奴は何やら大量の紙をこの空間に解き放ち……気がつけば同じような人型の紙きれが立ち並び、俺達を取り囲んでいた。
「……なんだよこれは。」
「「……」」
「紙だから表情が見えないのがまた逆に不安になりますね。」
「逃げたいけど……来た道にもたくさんいるね。」
これ系のパターンは……大本の奴を倒せば大抵傀儡は消えるってのが定番だ……
「ちょっと底が見えねえ部分はあるが……あれを目の前にして一目散に逃げるのはちょっと無いな。つーわけで……ぶっ倒すぞ。」
俺は合図を促し、シノは了承する。
「様子を伺いながら……あの本体と思わしき魔物を倒すんですね。」
「そうだ。」
たかが紙、腐っても紙。数で押してくるタイプなら個々の能力はさほどでもなかろう。
……と、何とも高を括ってしまっていた事を1分後には思い知る事となる。




