支配された村
翌日……
夜明けの最初の光が森を裂くように差し込み、霧が木々の間に絡みついていた。それはまるで、これから起こる出来事を隠そうとしているかのようだった。
仮拠点となった森の洞窟では、すでに任務の準備が進められていた。
オリオンは洞窟の入口付近に静かに立っていた。銀色の髪は冷たい風に揺れ、紫色の瞳には何の感情も映っていない。
そこへミラが小さな荷物を背負って近づく。
「今回の任務は……少し違うわ」
オリオンは振り向かない。
「全部同じだ」
ミラは小さくため息をついた。
「違うの。この村は貴族に支配されているの。重い税、失踪、そして奴隷のような扱い」
一瞬の沈黙。
そしてミラは続けた。
「今回は“殺す”任務じゃない。“暴く”任務よ」
オリオンはわずかに目を上げる。
「なら簡単だ」
「すぐ終わる」
数時間後。
森を抜け、二人は小さな村の外れに到着した。
遠くから見る村は静かだった。しかし、その静けさには違和感しかない。
門に立つ兵士たちは過剰な武装をしており、村人たちは誰も目を合わせようとしない。
ミラは眉をひそめた。
「これは……ただの支配じゃない。恐怖だわ」
オリオンは何も言わず、村の中へ歩みを進めた。
村の中では、異様な光景が広がっていた。
痩せた子供たち、疲れ切った大人たち、そして言葉を失ったように働く人々。
やがてオリオンは足を止める。
視線の先には、大きな建物があった。
ミラが小声で言う。
「村の“屋敷”ね」
入口には重装備の兵士が立っていた。貴族の紋章をつけた傭兵のような男たち。
オリオンはそれを見つめたまま言う。
「ここだ」
ミラは振り向く。
「どうして分かるの?」
しかしオリオンは答えず、ただ歩き出した。
屋敷の前。
兵士が声を上げる。
「立ち入りは禁止だ」
ミラが口を開こうとした瞬間──
オリオンは兵士を見た。
紫の瞳。
冷たく、何も映さない視線。
兵士は一瞬だけ固まった。
そして次の瞬間、扉を開ける。
「……入れ」
ミラは小声で呟いた。
「今の……何?」
オリオンは淡々と答える。
「許可じゃない」
「恐怖だ」
屋敷の中は外見よりも狭く、重苦しい空気が漂っていた。
廊下には香の匂いが充満しているが、その下には腐ったような臭いが隠されている。
奥へ進むにつれて、笑い声が聞こえた。
グラスの音。
そして、何気ない会話。
「今月の搾取は順調だな」
「まだ働けない者は処分だ」
ミラの拳が震える。
「……最低ね」
大扉が開く。
その瞬間──
光景が広がった。
長いテーブル。豪華な服を着た男女たち。
しかしその目には人間らしい感情はない。
ただ“所有者”の目だった。
「誰だ?」
貴族の一人が言う。
ミラが一歩踏み出す。
「この村を支配しているのはあなたたち?」
老人の貴族が笑う。
「支配?違うな」
「管理だよ」
グラスを傾ける。
「この村は我々がいなければ生きられない」
オリオンは静かに部屋を見渡す。
契約書、税の記録、労働記録。
すべてが歪んでいた。
ミラが言う。
「これは……奴隷よ」
貴族たちは笑う。
オリオンが口を開く。
「お前たちは命を奪っている」
笑いが止まる。
老人が問う。
「ではお前は何者だ?」
オリオンは即答する。
「殺す者だ」
空気が変わる。
兵士が動こうとした瞬間──
ミラが手を上げる。
「動かないで」
マナが空間に走る。
緊張が爆発する寸前。
老人が言う。
「面白いな。影の連中か」
オリオンは一歩踏み出す。
「真実を渡せ」
「力づくで」
沈黙。
そして──
一人の貴族が笑った。
「掃除が必要なようだな」
その瞬間。
オリオンが手を上げる。
空気が“割れる”。
マナが変質する。
世界そのものが歪む感覚。
ミラが呟く。
「オリオン……やめて……」
しかし彼の目は動かない。
ただ貴族たちを見つめる。
「お前たちが始めた」
そして──
「終わらせる」
影が動いた。
あとがき
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