影の意志
数週間後――
深い森の中にある洞窟。その場所は、影のギルドの仮拠点となっていた。
岩肌の壁には淡い光のランプが灯され、冷たく湿った空気の中にも、人の気配と活気が満ちている。訓練の掛け声、密やかな会話、そして組織員たちの絶え間ない動き。
高く突き出た岩の上に、一人の男が立っていた。
モーガン。
片腕を掲げ、その声は洞窟全体に響き渡るほど力強い。
「我々は、ただの殺戮者ではない!」
一度言葉を切り、鋭い視線で全員を見渡す。
「我々の目的は、弱者を踏みにじる腐敗した者たちを打倒することだ!」
声がさらに強まる。
「法を名乗り村を焼き払う貴族……人間を実験材料として売る魔術師……恐怖で民を支配する王たち!」
拳を握りしめる。
「我々はこの世界の均衡を保つ“影”だ!英雄ではない……だが、怪物でもない!」
一瞬、洞窟が静まり返る。
そして低く、重い声で続ける。
「この道を選ぶ者は……すべてを失う覚悟を持て。」
ざわめきが広がる。頷く者もいれば、拳を強く握る者もいる。
モーガンは手を振り、奥を指した。
「では各自、訓練に戻れ。未来は待たない。」
――――――
少し離れた場所。
オリオンは岩の上に横たわっていた。片腕を枕にし、何も気にせず眠っている。
銀色の髪は乱れ、顔は不自然なほど穏やかだった。
そこへミラが足早に近づき、腕を組んで目の前に立つ。
「大事な演説中なのに、ここで寝てるの!?」
オリオンは片目だけを開け、だるそうに彼女を見る。
「別に……あの爺の話なんてどうでもいい。」
ミラは頬をふくらませる。
「どうでもいいって……彼はギルドの長よ? あなたを見つけて、育てて、強くした人でしょ?」
一瞬の沈黙。
オリオンは再び目を閉じる。
「分かってる。」
ゆっくりと片目を開け、ミラを見る。
「俺が恩を忘れる人間に見えるか? 裏切ったことがあるか?」
ミラは言葉に詰まる。
オリオンは淡々と続ける。
「奴を殺そうとする連中は山ほどいた。その全部を片付けたのは俺だ。」
静寂。
ミラは視線を落とし、小さく息を吐いた。
「……そう。」
オリオンは再び横になる。
まるで会話は終わったと言わんばかりに。
ミラはしばらく彼を見つめた後、小さく呟いた。
「一つだけ……」
オリオンは片目を開ける。
「結婚の話なら帰れ。」
ミラの顔が一瞬で真っ赤になる。
「ち、違うわよ!!その話は後で!!」
慌てて顔を背ける彼女を横目に、オリオンは小さくため息をつく。
少しして、彼女は落ち着いた声で尋ねた。
「ねえ……ギルド長の左目の傷の理由って何?」
オリオンはゆっくりと目を開け、天井の岩を見上げる。
「昔だ。若い頃……“七つの大罪”の一人と戦ったと言っていた。」
ミラの目が見開かれる。
「七つの大罪!?誰と!?」
オリオンは冷静に答える。
「“憤怒”だ。」
洞窟の空気が一瞬、重くなる。
ミラは息を呑む。
「……じゃあ、ギルド長はその一人と戦って生き延びたってこと?」
オリオンは淡々と肩をすくめる。
「生き延びたのか、逃げ延びたのかは知らない。」
そして再び目を閉じる。
「どうでもいい。」
静かに横になり、そのまま眠りに落ちる。
まるで“憤怒”という言葉すら、警戒する価値がないと言うように。
あとがき
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