死の宗教を超えて
影のギルドの拠点に戻ると、そこはもはや以前の場所ではなかった。
壁はひび割れ、いくつもの柱が崩れ落ち、マナの残滓が重い煙のように空気中に漂っている。中央の大広間の半分は完全に破壊されており、まるで何かが通り過ぎただけで全てを引き裂いたかのようだった。
それでもオリオンの足取りは揺るがない。
銀色の髪は汗と血でわずかに濡れ、紫の瞳は異常なほど静かだった。まるで先ほどの戦いが、何の痕跡も残していないかのように。
その時――
一人の少女が彼へと駆け寄った。
「オリオン!!」
ミラだった。
同年代の魔術師。黒い長髪に、深い黒の瞳。その表情には強い動揺が浮かんでいる。だが彼女はそれ以上何も気にせず、彼に飛びついた。
強く抱きしめる。
彼女の身体が震えていた。
「死んだかと思った……!本当に……!」
オリオンはしばらく動かなかった。
手を回すこともなく。
抱き返すこともなく。
ただ前を見つめたまま、冷たく静かに言う。
「何度も言ったはずだ……お前とは結婚しない」
ミラの動きが止まる。
ゆっくりと顔を上げると、目を見開いた。
「どうして!?どうしてなの!?どうして私じゃダメなの!?」
声は怒りと悲しみの間で揺れていた。
しかし彼女は彼から離れない。
オリオンは一度だけ目を閉じる。
そして再び開いた。
「今は……恋愛をしている時間はない」
その声は冷たくはない。
だが、揺るぎなかった。
その瞬間、空気が静まり返る。
――背後から、落ち着いた足音が響いた。
「無事か……少なくとも、表面上はな」
全員が振り返る。
モーガンだった。
乱れた黒髪、目元の傷跡。その灰色の瞳は冷静に周囲の被害を観察している。崩壊した拠点を見ても、動揺の色はない。
小さく息を吐く。
「拠点を移す」
周囲を見渡す。
「ここはもう使えない」
そして視線をオリオンへ向ける。
「それで……あの女はどうなった?」
オリオンは一切の躊躇なく答えた。
ゆっくりと顔を上げ、紫の瞳でモーガンを見据える。
「“債務”になった」
一瞬の沈黙。
ミラでさえ言葉を失い、彼を見つめた。
モーガンはわずかに目を細める。
「……債務?」
オリオンはそれ以上説明しない。
ただ静かに背を向ける。
まるで、その話題はすでに終わったものであるかのように。
その内側で――
何かが、まだ動いていた。
囁き続けるように。
待ち続けるように。
あとがき
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