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嵐の後

静まり返った戦場には、風のうなりと崩れ落ちる瓦礫の音だけが響いていた。


ニーナはセスの傍らに膝をつき、両手を彼の胸の上にそっと重ねる。足元には青い魔法陣が静かに広がっていった。


目を閉じ、小さく呟く。


「――治癒魔法。」


温かな青い光が彼女の手のひらから溢れ出し、セスの傷を少しずつ癒していく。


数秒後――


セスの指先がぴくりと動いた。


やがて彼はゆっくりと目を開き、何度か瞬きをしながら夜空を見上げる。


「……あれ。」


疲れ切ったように小さく笑った。


「なんだ、この気持ちいい感じは……?」


体を起こそうとして、無意識に手を伸ばす。


しかし――


その手が、柔らかな感触に触れた。


無意識のまま、少しだけ力が入る。


その瞬間――


ニーナの治癒魔法がぴたりと止まった。


彼女はゆっくりと視線を落とす。


セスの手は、自分の胸の上に置かれていた。


彼女の顔が一気に真っ赤に染まる。


一方のセスも、


「…………」


目を大きく見開き、


恐る恐る自分の手元を見る。


そして、そのまま固まった。


「…………」


「…………」


次の瞬間――


「この変態ッ!!」


バシィィン!!


ニーナの平手打ちが炸裂し、セスの顔が勢いよく横へ弾け飛ぶ。


しばらく沈黙した後、セスは頬を押さえながら睨み返した。


「わざとじゃない!」


勢いよく立ち上がり、指を差す。


「そもそも、誰がお前に治療してくれなんて頼んだ!」


ニーナは眉を吊り上げた。


「だからって女の子の胸を触っていい理由にはならないでしょ!」


「だから事故だったって言ってるだろ!」


「この最低!」


「そっちのほうが失礼だろ!」


「バカ!」


「お前のほうがバカだ!」


「あんたよ!」


「お前だ!」


「あんた!」


「お前!」


二人の口論は終わる気配がなかった。



その頃――


少し離れた場所では、


オリオンがゆっくりと意識を取り戻していた。


騒がしい声に眉をひそめる。


「……なんだ、この騒ぎは。」


紫色の瞳をゆっくりと開く。


それに気づいたミラの瞳に涙が浮かんだ。


「オリオン!」


彼女は勢いよく飛びつき、そのまま強く抱き締める。


「死んじゃうかと思った……!」


「ぐっ……!」


オリオンの目が見開かれる。


「み……ミラ……」


だが、ミラはさらに力を込めた。


「本当に無事でよかった!」


オリオンの顔がみるみる青ざめていく。


その様子を見たニーナとセスは口論を止め、


同時に声を上げた。


「ミラ……」


振り向いたミラが首を傾げる。


「え?」


二人はオリオンを指差した。


彼は苦しそうに手を伸ばし、必死に助けを求めていた。


「く……苦しい……」


「はっ!」


ミラは慌てて腕を離した。


オリオンはその場に崩れ落ち、大きく息を吸う。


「はぁ……はぁ……」


疲れ切った表情でミラを見る。


「君の抱擁で……本当に死ぬところだった……」


ミラは顔を真っ赤にして俯いた。


「ご、ごめんなさい……」



しばらくして、


セスがゆっくりとオリオンの前へ歩み寄る。


視線を伏せたまま立ち止まり、


静かに口を開いた。


「……悪かった。」


少しだけ顔を上げる。


「理性を失って、お前たちまで殺しかけた。」


オリオンは小さく微笑み、


そっとセスの肩を叩いた。


「戻ってきてくれて、それで十分だ。」


「体は大丈夫か?」


セスは静かに頷いた。


「ああ。」

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