死後の世界でも、同じ痛みが
「ははっ、こっちだ!」
「待ってよ、オリオン!」
七歳のオリオンは、息を切らしながら笑っていた。銀色の髪が風に揺れ、小さな足が土を蹴る。
その後ろを、五歳の弟が追いかけていた。黒い髪に、父と同じ青い瞳。
「兄ちゃん……速すぎるよ……!」
「遅いのはお前だ、シロン!」
二人はただ森で遊んでいただけだった。
平和で、何の変哲もない時間――
だが、そのすべては崩れ去る。
突然、風が変わった。
「……?」
オリオンは足を止めた。
遠くの空に、黒い煙が立ち上っている。
「……村の方角だ」
胸の奥に、嫌な感覚が走る。
「行くぞ、シロン!」
「う、うん!」
二人は森を飛び出した。
そして――見た。
燃えていた。
村が、燃えていた。
「……ありえない」
オリオンの声は掠れていた。
木造の家々は崩れ落ち、炎が空を舐める。悲鳴と金属の衝突音が混ざり合い、まるで地獄の光景だった。王の兵士たちが人々を殺し、家を焼いていた。すべては、オリオンの母の居場所を知ったからだった。
「父さん……母さん……!」
シロンが泣きながら走り出す。
「待て!」
オリオンも後を追う。
家に近づくほど、熱が肌を焼いた。
――そして。
家の前で、それを見た。
父が倒れていた。
地面に横たわり、動かない。
「……父さん?」
返事はない。
「……嘘だろ」
オリオンの拳が震える。
その時、家の中から声がした。
「オリオン……!」
母の声。
「母さん!」
シロンが泣き叫ぶ。
家はすでに炎に包まれ始めていた。
「シロンは外にいろ!」
「兄ちゃん!」
オリオンは迷わなかった。扉を蹴り開け、炎の中へ飛び込む。
熱が一瞬で視界を歪める。
「母さん!」
母は部屋の隅にいた。炎の壁に囲まれ、逃げ場はなかった。
「来てはいけない!」
「でも……!」
「オリオン!」
母は駆け寄り、彼を抱きしめた。その温もりが、現実を突きつける。
「よく聞きなさい」
母の声は静かだった。
「生きなさい」
「そんな……!」
母はオリオンの額に口づけを落とした。
「あなたは……この国の未来。そして忘れないで、オリオン。この怒りを、すべて覚えていなさい。そしていつか――復讐しなさい」
その瞬間――天井が崩れた。
炎が一気に広がる。
「行きなさい!」
母は最後に彼の額に口づけをし、「愛している」と囁いた。
「シロンを守って」
そう言い残し、オリオンを抱え――
窓の外へ投げた。
「母さん!!」
ガラスが砕け、オリオンの体は外へ飛び出し、地面に叩きつけられる。
その直後、家の中から炎が噴き出した。
「母さあああああああああん!!」
炎がすべてを飲み込む。
――そして。
「シロン!」
振り返った瞬間だった。
「離せ!!兄ちゃん!!」
シロンが王の兵士に捕まっていた。
「シロン!!」
次の瞬間、誰かがオリオンを押さえつけた。
「離せ!放せよ、この野郎!!」
男は彼を抱えながら叫ぶ。
「死にたいのか!もう手遅れだ!船に乗らなきゃ間に合わない!」
オリオンは叫びながら、連れ去られていく弟を見ていた。
遠ざかる中、シロンの姿が炎の中へ消えていく。
「兄ちゃあああああん!!」
それが最後の声だった。
――そして。
男はオリオンを抱えたまま村の外へ走った。王の兵士たちが後を追ってくる。
やがて船に辿り着き、二人は乗り込んだ。他にも村人たちが乗っている。
船は動き出した。
オリオンは呆然としながら、燃え続ける村を見つめていた。
すべてが炎の中で崩れていく。
拳が震える。
歯を食いしばる。
「……許さない」
誰にも聞こえない声。
「絶対に……」
夜空を赤く染める炎の中で、オリオンは叫んだ。
「全員殺してやる!!」
「一人残らずだ!!」
王の兵士たちはそれを見て笑った。
「ははっ、ずいぶん勇ましいガキだな」
だが――
船の上の村人たちは違った。
震えながら、彼を見ていた。
「……あれは、本当に子供か……?」
あとがき
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