三対三 —
重い静寂が辺りを支配した。
だが、それはほんの一瞬だった。
次の瞬間――
ミロの姿が、その場から消えた。
「なっ――!?」
さすがのオリオンも、わずかに目を見開く。
一瞬で、ミロは彼の眼前へ現れていた。
「遅い。」
口元を皮肉げに歪めると、そのまま身体を捻り、鋭い横蹴りを放つ。
「ドォォォンッ!!」
強烈な一撃がオリオンの脇腹を直撃した。
オリオンの身体は砲弾のように吹き飛び、建物の壁を突き破り、そのまま奥の壁へ激突する。
瓦礫と土煙が一気に舞い上がった。
「オリオン!!」
ミラが叫ぶ。
だが、セスは迷わなかった。
剣を抜き、一気にミロへ突撃する。
「その程度じゃ届かない。」
ミロは静かに右手を上げた。
呪文は唱えない。
指を二本動かしただけだった。
瞬間――
「ゴォォォン!!」
圧倒的な魔力の衝撃がセスを襲う。
「ぐっ!?」
巨大な山に激突したような衝撃。
セスの身体は何十メートルも吹き飛ばされ、家屋の壁を砕きながら地面を転がった。
口元から血を吐き出す。
「はっ……冗談みたいな強さだな。」
それでも彼は笑いながら立ち上がった。
一方――
ミロはすでにミラの目の前にいた。
防御魔法を展開する暇すら与えず、その首を片手で掴み、軽々と持ち上げる。
「っ……!」
呼吸が止まる。
ミラは苦しげにもがいた。
ミロは彼女の顔を眺め、穏やかに微笑む。
「君は本当に可愛らしい顔をしている。」
黄金の瞳が細くなる。
「こんな組織にいるには、もったいない。」
少しだけ首を傾け、
「だが――」
握る力をさらに強めた。
「影のギルドの一員である以上、死んでもらう。」
ミラの顔色が青ざめていく。
その時だった。
瓦礫の向こうで、
オリオンがゆっくりと立ち上がる。
口元から血を流しながらも、その瞳は静かだった。
そして――
頭の奥で囁きが響く。
『使え……』
『救え……』
『代償を払え……』
オリオンは目を閉じ、小さく呟く。
「……死の負債。」
空間が軋む。
まるで世界そのものに亀裂が走るように、空気が震え始めた。
誰にも見えない無数の糸が現れる。
二十。
二十人の死者が残した負債。
「……二十ポイント。」
その瞬間。
糸がすべてオリオンの身体へ吸い込まれた。
筋力。
耐久力。
速度。
すべてが一気に跳ね上がる。
しかし同時に――
「がぁっ!!」
激痛が全身を貫いた。
首筋に血管が浮き上がり、身体が激しく震える。
頭の中では死者たちの声が絶え間なく響く。
『俺が先だ!』
『お前が殺したんだ!』
『身体をよこせ!』
『もっと……もっと……』
歯を食いしばる。
「……黙れ。」
次の瞬間――
オリオンは消えた。
「ドォォォン!!」
一瞬でミロの前へ現れる。
ミロが初めて目を見開いた。
「何――!?」
オリオンはミロの腕を掴み、ミラから強引に引き離す。
そして、
渾身の拳を叩き込んだ。
「バァァン!!」
ミロは何十メートルも吹き飛び、建物を次々と破壊しながら瓦礫の中へ突っ込む。
ミラは地面へ崩れ落ち、激しく咳き込んだ。
「ごほっ……ごほっ……!」
オリオンは立ったままだった。
しかし、
両脚は小刻みに震えている。
左手も止まらない。
頭の中では死者の声がさらに大きくなる。
『殺せ……』
『身体を渡せ……』
『俺たちを解放しろ……』
オリオンは額を押さえる。
「……黙れ。」
瓦礫の中からミロが立ち上がった。
口元の血を拭いながら笑う。
その笑みは先ほどとは違った。
純粋な興味だった。
「なるほど……。」
震えるオリオンを見つめる。
「その力には代償があるようだな。」
そして尋ねた。
「もう一度聞こう。」
「君の名前は?」
オリオンはゆっくりと顔を上げる。
苦痛の中でも、
紫色の瞳だけは揺るがない。
「俺の名は――オリオン。」
一瞬だけ沈黙し、
冷たい声で言い放つ。
「その名は、お前が人生で最後に聞く名前だ。」
「このクズ野郎。」
ミロは口角を上げた。
「はは……気に入った。」
その時――
「待たせたな。」
セスが戻ってくる。
オリオンの隣へ立ち、剣を肩に担ぐ。
反対側には、息を整えたミラが並んだ。
三人が横一列に立つ。
ミロはそれを見渡し、肩をすくめる。
「三対一とは。」
ため息をつき、
「それは少し不公平だ。」
そう言って右手を上げる。
――パンッ。
乾いた音が夜の街に響く。
同時に、周囲の魔力が激しく揺らいだ。
ミロの左右に人影が現れる。
一人。
そして、もう一人。
金色の髪。
黄金の瞳。
青い外套。
すべてが本物と寸分違わぬ存在。
三人のミロが同時に笑った。
「これで――」
「ようやく対等だ。」
あとがき
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