復讐の宣戦布告
数秒間、静寂が場を支配した。
そして――
青い外套の男は、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
背筋は真っ直ぐに伸び、金色の髪が額にかかる。
黄金色の瞳は、一度も瞬きをすることなく三人を見据えていた。
彼は薄く微笑む。
「自己紹介は……後回しでも構わないでしょう」
右手を静かに持ち上げる。
その指先から青い魔力の糸が幾筋も伸び、まるで生きた血管のように床や壁を這いながら広がっていく。
オリオンは目を細めた。
「離れろ」
しかし――
もう遅かった。
青い糸は倒れていた死体へ次々と突き刺さっていく。
不気味な静寂。
やがて、一人の死体の指先がぴくりと動いた。
続いて、また一人。
さらにもう一人。
床に横たわっていた《影のギルド》の団員たちは激しく痙攣し、見えない力によって無理やり立ち上がっていく。
ミラの顔から血の気が引いた。
「……そんな……」
全員が立ち上がった。
だが、その瞳には命の光はない。
青白く濁った目。
背中からは青い魔力の糸が伸び、それらはすべて男の指先へと繋がっていた。
男は静かに微笑む。
「私の名は――ミロ。」
指を軽く動かした。
「さあ……友を殺せ。」
次の瞬間――
死人たちは一斉に襲いかかってきた。
「下がって!」
ミラが叫ぶ。
三人は建物の外へ飛び出し、その背後から死体たちが容赦なく追いかけてくる。
外へ出た瞬間――
戦いが始まった。
一人の団員が剣を振り上げ、オリオンへ突進する。
オリオンは一瞬だけ動きを止めた。
その顔を知っていた。
以前、何度も共に任務をこなした仲間だった。
一瞬だけ――迷う。
しかし、その刃はすでに目前まで迫っていた。
オリオンは身をかわし、一閃。
仲間だった男の身体は静かに崩れ落ちる。
オリオンは目を閉じ、小さく呟いた。
「……すまない。」
一方、ミラも苦しそうな表情で戦っていた。
目の前に立つ者たちは皆、見知った顔ばかり。
一人ひとりの名前を知っている。
そのたびに放つ魔法は、彼女の心をさらに重くしていった。
「どうして……!」
震える声で呟きながら、一人を倒す。
しかし――
セスだけは違った。
彼は死体の群れへ一直線に飛び込み、薄い笑みを浮かべながら剣を振るう。
一撃。
二撃。
三撃。
躊躇なく、次々と斬り伏せていく。
それを見たミラが怒鳴った。
「セス!」
セスは一瞬だけ彼女を見た。
「何だ?」
ミラは怒りと悲しみを滲ませる。
「あなたには心がないの!?
この人たちは私たちの仲間だったのよ!」
セスは静かに剣についた血を払う。
「まず一つ。」
人差し指を立てる。
「俺があんたたちに加わったのは、ほんの数日前だ。」
続いて二本目の指を立てた。
「それに――」
冷たい笑みを浮かべる。
「俺の心臓は半分、魔族のものだ。」
一拍置いて続ける。
「だから、お前たちと同じ感情を期待するな。」
ミラは言葉を失った。
オリオンは何も言わない。
ただ静かに剣を振るい続ける。
その表情は変わらない。
だが、その胸の奥には確かな痛みがあった。
数分後――
最後の一体が倒れた。
静寂。
街路には再び死体だけが横たわる。
だが今回は――
二度と立ち上がることはなかった。
三人が荒い息を整えていると――
再び拍手が響く。
「素晴らしい。」
ミロが建物の入口からゆっくりと姿を現した。
穏やかな足取りで歩きながら、ゆっくり拍手を続ける。
「さすが《影のギルド》。
本当に強い。」
拍手が止まる。
その口元に、侮蔑の笑みが浮かんだ。
「だが同時に……臆病者でもある。」
静寂。
ミロは三人を順番に見渡す。
「闇に身を潜め、自分たちを正義だと思い込んでいる。」
その瞬間――
笑みが消えた。
穏やかな表情は消え失せ、胸の奥に押し殺していた憎悪が顔を覗かせる。
拳を強く握り締める。
「三年前――」
低い声。
しかし、その一言一言には底知れない憎しみが込められていた。
「俺の家族は殺された。」
一瞬、沈黙。
「真夜中、黒い服を着た連中が家へ押し入り……」
黄金の瞳が震える。
「父を殺し、母を殺し……幼い妹まで殺した。」
歯を食いしばる。
「誰一人、生き残らなかった。」
再び静寂。
「俺は何年も奴らを追い続けた。」
ゆっくりと顔を上げる。
その視線は真っ直ぐオリオンを射抜いた。
「そして辿り着いた答えが――」
「犯人は、お前たち《影のギルド》だった。」
轟音とともに魔力が爆発する。
「だから――」
冷酷な笑みが浮かぶ。
「お前たちには必ず代償を払わせる。」
オリオンたちを指差した。
「団長だけじゃない。」
「団員だけでもない。」
「《影のギルド》に属する者すべてを――」
「そして、その手を貸す者すべてを殺す。」
魔力がさらに膨れ上がる。
「お前たちの影ごと……この世から消し去ってやる。」
重い沈黙が流れた。
しかし、それは戦いの始まりを告げる沈黙ではない。
――新たな戦争の幕開けを告げる静寂だった。
あとがき
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