血に染まった支部
数日間の旅を経て――
夜の帳の向こうに、ついにオリミス王国の姿が見え始めた。
馬車は小高い丘の上で止まり、三人はそこで初めて王国全体を見渡した。
オリミスはフィアルマハルとはまるで違っていた。
広い石畳の通りが赤い屋根の家々の間を伸び、街灯の光を受けた窓が夜空の星のように輝いている。
細い水路には小さな橋が架かり、月明かりを反射した水面は鏡のように揺れていた。
深夜にもかかわらず、いくつかの店にはまだ灯りがともり、人々の話し声が遠くから聞こえてくる。
街全体が活気と繁栄に包まれていた。
ミラは小さく口笛を吹いた。
「思っていたより綺麗ね。」
セスは黙ったまま街を見つめる。
一方のオリオンは、紫色の瞳で景色を眺めながらも、何の感情も見せなかった。
「見た目に意味はない。」
ミラはため息をついた。
「あなたって、本当に雰囲気を壊す天才ね。」
しばらくして、三人は街へ入った。
目的地は明確だった。
オリミス王国に存在する影のギルド支部。
モルガンの報告が正しければ、何者かが数週間にわたってギルド員を襲っている。
三人は幾つもの通りを抜け、静かな区域に建つ石造りの建物へと辿り着いた。
だが――
到着した瞬間から、オリオンは違和感を覚えていた。
静かすぎる。
見張りがいない。
監視役もいない。
人の気配すらない。
建物の前で足を止める。
紫の瞳がわずかに細められた。
「何かがおかしい。」
ミラも同じ感覚を抱いていた。
セスは無言のまま建物を見つめている。
オリオンは扉へ手を伸ばした。
ゆっくりと押し開く。
ギィ――
軋む音が静寂を切り裂いた。
そして――
三人は凍りついた。
血の臭い。
最初に彼らを襲ったのは、それだった。
重く。
鋭く。
そして生々しい。
ミラの目が見開かれる。
「そんな……」
室内には――
死体が至る所に転がっていた。
床に。
机の上に。
壁際に。
影のギルドの男たちと女たち。
戦って命を落とした者もいれば、
抵抗する暇すらなく処刑されたような者もいる。
床一面が血に染まっていた。
重苦しい沈黙が広がる。
普段なら笑みを浮かべているセスでさえ、表情を消していた。
オリオンは動かない。
紫の瞳だけが静かに室内を見渡していた。
大規模な戦闘の痕跡はない。
だからこそ不気味だった。
「短時間で片付けられている。」
小さく呟く。
その時――
拍手が聞こえた。
パチ。
パチ。
パチ。
ゆっくりとした拍手。
三人は同時に視線を向ける。
部屋の奥。
そこに――
一人の男が椅子に腰掛けていた。
まるでここが自分の家であるかのように。
長い青い外套。
黄金色の髪。
そして灯りを受けて輝く金色の瞳。
脚を組み、まるで最初から彼らを待っていたかのように座っている。
穏やかな笑みが口元に浮かんでいた。
「ずいぶん遅かったな――影のギルド。」
沈黙。
ミラは即座に拳を握る。
周囲にマナが集まり始めた。
セスは逆に、面白そうに薄く笑った。
だが――
オリオンだけは違った。
ただ静かに男を見つめている。
恐ろしいほど冷静に。
そして口を開いた。
「お前がやったのか。」
男の笑みがわずかに深くなる。
「単刀直入だな。」
ゆっくりと立ち上がる。
周囲の死体へ視線を向けた。
「彼らが弱すぎただけさ。」
そして――
金色の瞳がオリオンを捉える。
初めて。
男の笑みが消えた。
「だが、お前には興味があった。」
その瞬間――
オリオンは気づいた。
村で感じた気配。
あの時、自分たちを遠くから見ていた存在。
同じマナ。
同じ圧力。
同じ存在感。
紫の瞳が細くなる。
「……あの時の奴か。」
男は再び笑った。
「ようやく気づいたか。」
そして再び拍手を始める。
ゆっくりと。
静かに。
「会えて光栄だよ、オリオン。」
次の瞬間――
部屋全体のマナが激しく震えた。
オリオン。
ミラ。
セス。
そして金髪の男。
四人の間に流れる空気が一変する。
まるで誰かが巨大な刃を抜いたかのような緊張感。
誰も動いていない。
それなのに、
戦いはすでに始まっていた。
あとがき
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