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別れの前の任務

セスが影のギルドに加わってから数時間後――


ギルドの本部は、ようやく普段の落ち着きを取り戻しつつあった。


ある者は訓練に励み、ある者は次の任務について情報交換をしている。


洞窟の岩壁には松明の淡い炎が揺らめき、その光が静かに広がっていた。


その頃――


モルガンの私室。


簡素な木製の机の向こうで、モルガンは積み上げられた報告書に目を通していた。


コンコン。


扉が叩かれる。


灰色の瞳を上げたモルガンは短く答えた。


「入れ」


扉がゆっくりと開く。


入ってきたのはオリオンだった。


銀髪は珍しく整えられており、紫の瞳にはいつもの冷静な静けさが宿っている。


モルガンは向かいの椅子を指差した。


「座れ」


だがオリオンは立ったままだった。


モルガンは小さくため息をつく。


「好きにしろ」


短い沈黙が流れる。


そして先に口を開いたのはオリオンだった。


「前回の任務から気になっていることがある」


モルガンは片眉を上げる。


「村の件か?」


オリオンは頷いた。


「ああ」


一瞬だけ視線を落とす。


「あの村へ行った時……遠くから誰かに監視されている気配を感じた」


モルガンの目がわずかに細くなる。


オリオンは続けた。


「それに、あの貴族たちだ」


脳裏に蘇る。


血を流す瞳。


自らの身体を引き裂いた人間たち。


そして、その後に生まれた異形の怪物。


「奴らは自分の意思で動いていなかった」


腕を組む。


「誰かが操っていた」


沈黙。


だがモルガンは驚いた様子を見せなかった。


むしろ別のことを考えているようだった。


そして静かに言う。


「今はそれより重要な話がある」


オリオンが視線を向ける。


モルガンは一枚の報告書を机の上に置いた。


「オレミス王国に潜伏しているギルドの仲間たちが次々と姿を消している」


声がわずかに重くなる。


「そして何人かは……不可解な形で殺されていた」


部屋の空気が静まり返る。


オリオンは報告書を手に取った。


「オレミス王国?」


「フィアルマハル王国の南にある国だ」


その名を聞いた瞬間――


オリオンの手がわずかに止まった。


フィアルマハル。


家族を失った国。


そして弟シロンが最後に目撃された場所。


紫の瞳が再びモルガンへ向けられる。


「なら俺が行く」


迷いのない声。


「ミラと一緒に調べる」


モルガンは薄く笑った。


「そう言うと思った」


オリオンは踵を返し、扉へ向かう。


だが――


「オリオン」


呼び止められた。


足を止める。


「何だ?」


モルガンは椅子にもたれた。


「新入りについてどう思う?」


オリオンはすぐに理解した。


「セスか」


モルガンは頷く。


「ああ」


オリオンは少し考えた後、答えた。


「まだ評価はしていない」


短い沈黙。


「だが……連れて行くつもりだ」


モルガンの眉が上がる。


「お前にしては高評価だな」


「勘違いするな」


オリオンは淡々と返した。


「騒がれるだけの価値があるか確かめるだけだ」


モルガンは小さく笑う。


だがその笑みはすぐに消えた。


オリオンがまだ立ち去らないことに気づいたからだ。


「まだ何かあるのか?」


再び沈黙。


数秒後――


オリオンは静かに口を開いた。


「この任務が終わったら……」


言葉が一度止まる。


「影のギルドを抜けたい」


モルガンの表情から笑みが消えた。


部屋の空気が凍りつく。


松明の炎さえ止まったように感じられた。


オリオンは続ける。


「俺には昔からの目的がある」


燃え盛る故郷。


あの日の炎が紫の瞳の奥に映る。


「フィアルマハルの王に復讐する」


拳をゆっくり握る。


「そして弟を探す」


重い沈黙。


モルガンは長い間オリオンを見つめていた。


やがて報告書を閉じ、静かに息を吐く。


「その日が来ることは分かっていた」


灰色の瞳がオリオンを見据える。


怒りもない。


驚きもない。


ただ静かな理解だけがあった。


「路地裏でお前を拾ったあの日からな」


オリオンの瞳がわずかに揺れる。


モルガンは続けた。


「お前は最初から影のギルドの人間じゃなかった」


かすかな苦笑が浮かぶ。


「ただ、しばらく同じ道を歩いていただけだ」


再び静寂。


そしてモルガンは真剣な声で言った。


「まずはオレミスへ行け」


「任務を終わらせろ」


「その後で……改めて話そう」


オリオンは数秒間黙っていた。


そして静かに頷く。


扉へ向かう。


しかし部屋を出る直前――


再びモルガンの声が背中に届いた。


「オリオン」


立ち止まる。


振り返らない。


「影のギルドに残ろうが、去ろうが――」


モルガンは一瞬だけ言葉を止めた。


そして静かに言う。


「弟を見つける前に死ぬな」


沈黙。


その言葉を聞いた瞬間――


オリオンの口元に、ごくわずかな笑みが浮かんだ。


本当に小さな笑みだった。


そして彼は何も言わず、静かに部屋を後にした。

あとがき

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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