百の首と一人の男
数日後――
新たな拠点となった洞窟の奥深くで、影のギルドはいつも以上にざわついていた。
ひそひそ話、慌ただしい足音、そして一箇所に集まる視線。
その中心に――
一人の青年が立っていた。
漆黒の髪は無造作に垂れ、顔の輪郭を隠している。
そしてその瞳は赤。
ただの色ではない――危険を宿した色だった。
鋭く整った顔立ち。
静かだが、その奥には明らかに“人ではない何か”が潜んでいる。
彼の前には――
山。
首。
無造作に積み上げられた、無数の切断された首。
血はまだ完全には乾いていない。
鉄のような臭いが、空気を満たしていた。
重い沈黙。
一人が小さく呟いた。
「……冗談だろ?」
別の者が息を飲む。
「百人……?一人で全部殺したってのか……?」
青年は何も言わない。
ただ静かに立っているだけ。
まるで、これが特別なことでもないかのように。
やがて――
群衆の中から、ゆっくりと歩み出る影。
モルガン。
彼は首の山を見下ろし、そして青年へと視線を移した。
灰色の瞳が細められる。
「名前は?」
青年は視線を上げた。
「セス。」
静かな声。
だが、わずかに荒さを含んでいる。
「半分が人間……半分が魔族だ。」
ざわめきが広がる。
「半魔……?」
「だからマナが異質なのか……」
モルガンは動じない。
「そいつらは?」
セスは首の山を一瞥した。
「腐った連中だ。貴族、奴隷商人、実験好きの魔術師。」
一拍。
「影のギルドが探しているのは、こういう連中だと聞いた。」
モルガンの口元に、わずかな笑み。
「違うな。」
一歩近づく。
「俺たちが探しているのは――お前のような奴だ。」
短い沈黙。
「合格だ。」
ざわめきが爆発する。
「こんな簡単に!?」
「狂ってる……でも使える……」
「まるで――」
視線が自然と一方向へ向く。
洞窟の片隅――
そこにいたのは、オリオン。
いつものように床に寝転び、腕を枕にして目を閉じている。
まるで何も聞いていないかのように。
だが――
片目がゆっくりと開いた。
セスを見る。
無表情。
興味も、感情もない。
ただ――
一瞬の評価。
そして――
わずかに手を上げた。
小さな合図。
挨拶。
それだけ。
再び目を閉じる。
まるで――どうでもいいことのように。
その様子を、セスは見ていた。
一秒。
そして、薄く笑う。
「……あれがオリオンか。」
その時――
ミラが近づいてきた。
セスの前で立ち止まり、警戒を隠さずに見つめる。
だが、その奥には好奇心もあった。
「あなた……新入りね。」
セスは彼女を見る。
「そのようだ。」
ミラは腕を組む。
「百人殺しなんて、ここでも普通じゃないわ。」
セスは静かに答えた。
「その中で生き残るのもな。」
一瞬の間。
そしてミラは小さく笑った。
「ミラよ。」
「セスだ。」
握手はない。
視線だけが交わる。
わずかな緊張が空気を走る。
その背後――
オリオンが、ほんの一瞬だけ再び目を開けた。
二人を見る。
そして閉じる。
だが今回は――
完全に眠ってはいなかった。
なぜなら――
久しぶりに、何かを感じたからだ。
直接的な危険ではない。
だが――
無視できない“何か”を。
あとがき
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