裏七夕物語・第七章〜娘の変貌と、父の崩壊〜
むかしむかし――
天帝は天界の秩序を守るため、
日々厳しく目を光らせておりました。
しかし最近、
天界のあちこちで妙な噂が流れていました。
「織姫様が夜の街に出入りしている」
「男たちを手玉に取っているらしい」
「鵲たちまで虜になっているぞ……」
天帝は信じませんでした。
天帝
「我が娘が……そんなはずがない」
しかしある夜、
星灯通りの入口で、
天帝は“その姿”を見てしまったのです。
妖艶な笑みを浮かべ、
光をまとったように美しく、
後ろには翼を震わせながらついてくる三羽の鵲。
天帝
「……織姫……!」
織姫は振り返り、微笑みました。
織姫
「お父様。こんばんは」
天帝
「なんという姿だ……!
天界の姫が、夜の街をうろつき、
男どもを惑わせるとは……!」
怒りで声が震えていました。
しかし織姫は、
まるで子どもをあやすように静かに言いました。
織姫
「でも、お父様。
私は昼の仕事はちゃんとこなしていますよ。
織物のノルマも、以前より早く終わらせています」
天帝
「仕事の問題ではない!
お前は……どうしてこんな……!」
織姫は一歩近づき、
天帝の目をまっすぐ見つめました。
そして――
静かに、しかし鋭く言いました。
織姫
「……お父様が“年に一度しか会ってはならぬ”と決めたからです」
天帝
「……!」
織姫
「私はずっと、ずっと寂しかった。
あの人と会えない夜が、どれほど辛かったか……
お父様には分からないでしょうね」
天帝は言葉を失いました。
しかし織姫は、
さらに続けました。
織姫
「でも、今は感謝しているんです」
天帝
「……感謝……?」
織姫
「ええ。
お父様のおかげで、彼の本性が分かりましたし――
私自身も、こんなに変われたんですもの」
その笑顔は、
かつての優しい織姫のものではありませんでした。
妖しく、
危うく、
どこか壊れたような笑み。
天帝
「……織姫……お前……」
織姫はくるりと背を向け、
夜の街の奥へ歩き出しました。
織姫
「それでは、お父様。
私はこれから“償い”に行かなくてはなりませんので」
鵲たちが、
吸い寄せられるように後を追います。
そして――
四つの影は、星灯通りの闇へと静かに消えていきました。
天帝はその場に立ち尽くし、
呆然と呟きました。
天帝
「……これが……我が娘の姿なのか……」
夜風が吹き抜け、
天帝の衣を揺らしました。
しかし、
織姫の姿はもうどこにもありませんでした。




