裏七夕物語・第六章〜天界の夜を支配する女〜
むかしむかし――
織姫は天界に戻ってから、
昼は機を織り、
夜はそっと星灯通りへ姿を現すようになりました。
最初はただの“気晴らし”でした。
しかし――
日に日に、
織姫は美しく、
そして妖艶になっていきました。
下界で覚えた化粧。
夜の街で身につけた視線の使い方。
男を転がす間の取り方。
それらが天界の空気と混ざり、
織姫は“天界の夜の女王”のような存在になっていきました。
そしてある夜、天界の歓楽街・星灯通りの片隅で、
酔いどれの鵲たち三羽は、
偶然、織姫と鉢合わせました。
鵲A
「あんたと彦星のせいで……
俺たちの橋の仕事は全部なくなったんだぞ……!」
鵲B
「七夕が廃止されてから、
俺たちの誇りはどこにもねぇんだよ……!」
鵲C
「悪いと思ってんなら俺たちに償えよ……!」
酔いと鬱憤が混ざり、
胸の奥に溜めていた本音が溢れ出しました。
しかし――
織姫はふわりと微笑みました。
織姫
「……そうね。
本当に、ごめんなさい。
どうしたら償えるかしら?」
その声は甘く、
夜風のように柔らかく、
鵲たちの胸に染み込みました。
そして織姫は、
そっと手を伸ばしました。
鵲たちの翼へ。
羽根の根元に指先を触れ、
そこから先端へ向かって――
ツーッ……
羽根の流れに沿って、
ゆっくり、ゆっくりと撫でていきました。
鵲A
「……っ……!」
鵲B
「や、やめ……いや……やめないで……」
鵲C
「そ、そこは……敏感なんだよ……!」
鳥にとって翼は誇りであり、
触れられるのは特別な相手だけ。
その“禁断の場所”に、
織姫の白い指先が触れた瞬間――
鵲たちの恨みは、
音もなく崩れ落ちました。
織姫は微笑み、
もう一度、翼を撫でました。
そして――
静かに囁きました。
織姫
「それじゃあ……ついてきて?
あなたたちに、ちゃんと償わなきゃ……」
その一言で、
鵲たちは完全に抗えなくなりました。
織姫は夜の街の奥へと歩き出し、
三羽の鵲は吸い寄せられるように後を追いました。
四つの影は、
星灯通りの闇へと静かに消えていきました。
それから数日後――
天界のあちこちで、妙な噂が流れ始めました。
「最近、鵲たちの様子がおかしい」
「仕事もせず、夜になるとどこかへ飛んでいく」
「織姫様の姿を見かけると、目がとろんとしてるぞ……」
鵲A
「織姫様……今日も来るかな……」
鵲B
「翼……また触ってくれるかな……」
鵲C
「俺たち……もうあの人なしじゃ……」
かつて織姫を恨んでいた三羽は、
今や完全に織姫に依存していました。
夜の街で、
織姫の後ろをついて歩く三つの影。
天界の住民たちは、
その光景を遠巻きに見ながら囁きました。
「……あれはもう、誰にも止められないねぇ……」




