裏七夕物語・第五章〜橋を失った鳥たちの怒り〜
むかしむかし――
牛たちに叱咤され、
ようやく少しだけ前を向こうとした彦星は、
天の川のほとりを歩いておりました。
そこへ、
黒い影が数羽、ひらりと降り立ちました。
鵲A
「よぉ〜彦星ぃ。今日も飲もうぜぇ〜」
鵲B
「いつもの酒場でさぁ。お前、最近来ねぇじゃん」
鵲C
「ほら、星の雫の酒、奢ってやるよ」
いつもの軽い調子。
いつもの悪友のような誘い。
しかし彦星は、
牛たちとの約束を思い出し、
小さく首を振りました。
彦星
「……悪い。俺、もう変わるんだ。
牛たちと約束したんだよ。
酒にも賭け事にも逃げないって」
その瞬間――
鵲たちの笑い声が、
ぴたりと止まりました。
鵲A
「……変わる?」
鵲B
「お前が?」
鵲C
「ははっ……冗談だろ?」
鵲たちの目が座り、
ゆっくりと“真顔”になっていきます。
鵲A
「変わる……だと?」
鵲B
「お前だけ?」
鵲C
「ふざけんなよ、彦星」
空気が一気に冷えました。
鵲A
「俺たちがどれだけ変わったか、知ってるか?」
鵲B
「七夕の橋を架ける仕事……
あれが俺たちの誇りだったんだよ」
鵲C
「それが、お前らのせいで無くなったんだ」
彦星
「……俺らの、せい……?」
鵲A
「そうだよ。
お前らが勝手に駆け落ちして、
勝手に壊れて、
勝手に七夕を終わらせた」
鵲B
「天帝が“七夕廃止”って言った時、
俺たちの仕事は全部消えたんだ」
鵲C
「橋を架けるために鍛えた翼も、
技も、誇りも、全部だ」
彦星は言葉を失いました。
鵲A
「それをよ……
お前だけ“変わる”?」
鵲B
「俺たちは変わりたくて変わったんじゃねぇ」
鵲C
「変わらざるを得なかったんだよ。
お前らのせいでな」
その声には、
軽蔑でも嘲笑でもなく、
積もり積もった“恨み”が滲んでいました。
鵲A
「いいか、彦星。
お前が立ち直るのは勝手だ」
鵲B
「でもな、
“お前だけが前に進める”なんて思うなよ」
鵲C
「俺たちはまだ、
あの日のまま止まってんだ」
彦星
「……俺……そんなつもりじゃ……」
鵲A
「知ってるよ。
お前はいつも“そんなつもりじゃない”んだ」
鵲B
「でも結果はいつも、
誰かを巻き込むんだよ」
鵲C
「織姫も、牛たちも、俺たちもな」
その言葉は、
酒よりも、
賭け事よりも、
何よりも重く、
彦星の胸に突き刺さりました。
鵲A
「……変わりたいなら勝手にしろ」
鵲B
「ただし、忘れんな」
鵲C
「お前の“変化”の裏で、
変わらざるを得なかった奴らがいるってことを」
そう言い残し、
鵲たちは翼を広げ、
夜空へと飛び去っていきました。
彦星は、
天の川のほとりにひとり残されました。
牛たちの言葉は優しかった。
鵲たちの言葉は厳しかった。
どちらも、
真実でした。
彦星
「……俺は……どうすれば……」
行動には責任が伴います。
改心したからといって、
すべてが許されるほど天界は甘くありません。




