裏七夕物語・第四章〜軽蔑と情のあいだで揺れる天界の牛〜
むかしむかし――
天の川のほとりで、
彦星はまたひとり、膝を抱えて座り込んでおりました。
織姫の噂が耳に入り、
胸が締め付けられ、
酒の匂いをまとったまま、
ただ星の流れを眺めていました。
そこへ、
ゆっくりと蹄の音が近づいてきました。
牛A
「モォォ……(またここで落ち込んでいるのか)」
彦星
「……放っておいてくれよ」
牛B
「モォォォ(放っておけるか。お前、最近ひどすぎるぞ)」
牛Cは、
彦星の前にどっしりと立ち、
低く、重い声で言いました。
牛C
「モォォォォ……!(いつまで織姫さんを想っているつもりだ)」
彦星
「……だって……俺は……」
牛C
「モォ!(お前がぶち壊したんだろうが)」
その言葉は、
天界の風よりも冷たく、
しかしどこか温かさを含んでいました。
彦星
「……っ……!」
牛A
「モォォ(織姫さんは、もう前に進んでいる。お前の知らない夜を生きている)」
牛B
「モォ(それを止める権利なんて、お前にはない)」
牛C
「モォォォ(だからと言って、いつまでも沈んでいるのは違うだろう)」
彦星は顔を上げました。
牛たちの目は、
軽蔑と、
怒りと、
そして――
ほんの少しの“情”で濡れていました。
牛A
「モォ(お前、昔は良かったんだぞ)」
牛B
「モォォ(雨の日も風の日も、文句ひとつ言わずに俺たちの世話をしてくれた)」
牛C
「モォォォ(だからこそ、完全に見捨てられんのだ)」
彦星
「……牛たち……」
牛A
「モォォ!(だがな、織姫さんはもう戻らん。これは事実だ)」
牛B
「モォ(受け入れろ。逃げるな)」
牛C
「モォォォォ!(さっさと立ち直って、別の幸せを見つけろ)」
その声は、
天界のどこよりも厳しく、
そしてどこよりも優しかった。
彦星は、
涙をこぼしながら、
小さくうなずきました。
彦星
「……俺、変われるかな……」
牛A
「モォ(変われ)」
牛B
「モォォ(変わらなきゃ、また同じことを繰り返すだけだ)」
牛C
「モォォォォ!(立て、彦星。お前はまだ終わっていない)」
天の川の流れが、
その言葉を静かに運んでいきました。




