裏七夕物語・第二章〜天の国で一番情けない男、その後〜
むかしむかし――
織姫に嫌われ、
牛たちに軽蔑され、
天界の住民からは白い目で見られるようになった彦星は、
天の国の片隅で、ひっそりと暮らしておりました。
かつては牛たちに慕われ、
織姫に愛され、
天帝にも期待されていた青年。
しかし今は――
誰も彼に声をかけません。
天界の道を歩けば、
ひそひそ声が背中に刺さります。
「ほら、あれが織姫さん泣かせた男よ」
「下界で遊び歩いてたって噂の」
「牛たちにも嫌われたらしいわよ」
彦星は耳をふさぎました。
けれど、噂は耳をふさげば消えるものではありません。
ある日のこと。
彦星は天界の片隅にある“星酒場”へ足を運びました。
店主
「……お前さん、また来たのか」
彦星
「……飲ませてくれよ。何でもいいからさ」
店主はため息をつきながら、
星の雫で作った酒を差し出しました。
彦星は一口飲むと、
すぐに二口、三口と続け、
やがて杯を乱暴に置きました。
彦星
「……なんで俺だけ、こんな目にあうんだよ」
店主
「自分でやったことだろうに」
彦星
「……うるさい」
酒は、
現実を忘れさせてくれる唯一の逃げ道でした。
酒場の奥には、
天界の住民たちがこっそり集まる“星賭場”がありました。
星の欠片(通貨)を賭け、
運命を試す遊び。
本来、天帝が禁じている遊びですが、
裏では密かに続いていたのです。
鵲A
「お、彦星じゃねぇか。落ちぶれたなぁ」
鵲B
「織姫に捨てられたって本当か?」
彦星
「……黙れよ」
鳥たちは笑いました。
鵲C
「じゃあ賭けてみろよ。
お前の“運”がまだ残ってるかどうか」
彦星は震える手で星の欠片を置きました。
最初は勝ちました。
次も勝ちました。
しかし――
勝つたびに、
織姫の顔が頭に浮かびました。
彦星
(……俺、何やってんだろ)
その迷いが出た瞬間、
運は一気に離れていきました。
気づけば、
手元の星の欠片はすべて消えていました。
鵲C
「ははっ、やっぱり“落ちた星”は違うなぁ」
彦星
「……っ……!」
酒と賭け事に逃げても、
心の穴は埋まりません。
夜、天の川のほとりで、
彦星はひとり座り込みました。
彦星
「……織姫……」
星々は何も答えません。
牛たちの声も聞こえません。
ただ、
天の川の流れる音だけが、
静かに響いていました。
彦星
「……俺、どうしてこうなったんだろうな」
答えは、
自分が一番よく知っていました。
そして、天界の噂はさらに広がります。
「彦星、また酒場で暴れてたらしいよ」
「賭場で全部すったって話よ」
「織姫さん、正しかったんだねぇ……」
噂は噂を呼び、
彦星の居場所は、
天界のどこにもなくなっていきました。




