裏七夕物語・第一章〜天の国で一番情けない男の話〜
むかしむかし、
天の国のはるか高みに、
織姫と彦星という若い夫婦がおりました。
織姫は働き者で、
天の国じゅうの着物を織り上げる名手。
彦星は牛の世話を任された青年で、
牛たちからも慕われておりました。
……そう、むかしは。
ある年のこと。
天帝さまが「年に一度だけ会うがよい」と決めたのに、
二人はそれがどうにも気に入りませんでした。
彦星
「もっと一緒にいたい!」
織姫
「毎日そばにいたい!」
天界を飛び出し、
勢いだけで下界へ駆け落ちした織姫と彦星。
二人が住み始めたのは、
家賃の安い四畳半のボロアパート。
織姫
「……まあ、最初はこんなもんよね」
彦星
「愛があれば大丈夫だって!」
しかし、現実は甘くはありませんでした。
彦星は牛の世話しかしたことがありません。
天界では学歴も職歴も関係ありませんが、
下界では当然そうはいきません。
面接官
「最終学歴は?」
彦星
「……天界の“星の学校”です」
面接官
「……は?」
面接官
「職歴は?」
彦星
「牛の世話です」
面接官
「……他には?」
彦星
「牛の世話です」
面接官
「……」
結果:全滅
彦星
「なんでだよ……俺、牛の世話なら誰にも負けないのに……」
織姫は機織りの技術がありましたが、
下界では需要がほとんどありません。
織姫
「……働かないと家賃が払えない」
悩んだ末、
夜の街で働くことを決意します。
織姫
「……いらっしゃいませ」
慣れない仕事に疲れながらも、
なんとか収入を得ていました。
最初は「俺も頑張る」と言っていた彦星でしたが、
就活に落ち続け、
次第に心が折れていきました。
彦星
「……今日もダメだった」
織姫
「……そっか。お疲れさま」
しかし、ある日を境に――
彦星
「……もう無理。働きたくない」
織姫
「え?」
彦星
「織姫が稼いでるんだし、俺は家にいるよ」
織姫
「……は?」
気づけば彦星は、昼まで寝て、ゲームして、
織姫の稼ぎで生活するようになっていました。
ある夜、織姫が遅く帰ると――
彦星
「なんでこんな時間なんだよ!」
織姫
「仕事よ。お客さんが多くて……」
彦星
「嘘つくな!
どうせ男と一緒にいたんだろ!」
織姫
「はぁ!?仕事だって言ってるでしょ!」
彦星
「俺を置いて夜遅くまで働いて……
浮気してるんだろ!!」
織姫
「……あんた、働きもせずに何言ってんの?」
彦星
「俺は……俺は……!
お前が遅く帰るのが嫌なんだよ!!」
織姫
「……じゃあ働けよ」
二人
「…………」
織姫の心は、
少しずつ削られていきました。
下界での生活は苦しいものでした。
織姫は夜の接客業で働き、
疲れ切った体で帰ってきます。
一方、彦星は――
働かない。
家事もしない。
嫉妬だけは一人前。
そしてある日、
織姫の財布から“見覚えのない出費”が増えていきました。
織姫が働いている間、
彦星はこっそり外へ出ていました。
• 飲み屋で豪遊
• 他の女性と一緒に飲む
• タクシーで帰る
• 高い料理を奢る
全部、
織姫の稼ぎでした。
店の女性
「彦星くんって優しいね〜」
彦星
「まあね、俺、天界のエリートだったからさ」
そして、織姫が帰宅すると“嫉妬で暴走”します。
織姫
「ただいま……」
彦星
「遅い!どこ行ってた!」
彦星
「男といたんだろ!」
織姫
「仕事よ……」
彦星
「嘘つくな!
俺のほうが知ってるんだぞ!
夜遅く帰る女は信用できない!」
織姫
「(いや、あなたこそ何してるの……?)」
そして、ある日、織姫は見てしまいました。
• 彦星のポケットから出てきた飲み屋のレシート
• 女性の名前入りのメモ
• タクシーの領収書
• そして、織姫の財布から消えたお金
織姫
「……これ、何?」
彦星
「え?あぁ……その……」
織姫
「私のお金で、誰と遊んでたの?」
彦星
「違う!誤解だ!
お前が夜遅く帰るから、俺だって寂しくて……!」
織姫
「(あぁ……終わった)」
その夜、
織姫は静かに座り込み、
ぽつりと言いました。
織姫
「……もう無理」
彦星
「は?」
織姫
「働かない。疑う。責める。
そして……裏切る。
そんな人と一緒にいたら、
私が壊れてしまう」
彦星
「俺は悪くない!
お前が夜遅く帰るからだ!」
織姫
「……自分の行動を、
全部私のせいにしないで」
彦星は何も言えませんでした。
その日の内にボロアパートを出て、天界に戻った織姫と彦星。
彦星は、かつて自分が世話していた牛たちのもとへ戻ってきました。
彦星
「…ただいま…」
牛たちはじっと見つめています。
その目は、最初から軽蔑でいっぱい。
牛A
「モォ……(織姫さん泣かせたって本当か)」
牛B
「モォォ……(しかも下界で遊び歩いてた?)」
牛C
「モォォォ……(お前、牛以下だぞ)」
彦星
「……っ……!」
牛A
「モォ(働きもしないで、何してたんだよ)」
牛B
「モォ(織姫さんがどれだけ疲れてたか知ってるか)」
牛C
「モォ(裏切り者が牛舎に戻ってくるな)」
その目は、
“お前は仲間じゃない”
と静かに告げていました。
彦星
「……俺だって……寂しかったんだよ……」
牛A
「モォ(だからって裏切っていい理由にはならん)」
牛B
「モォ(織姫さんはお前のために働いてたんだぞ)」
牛C
「モォ(最低だな)」
彦星
「……やめろ……
そんな目で見るなよ……
俺だって……後悔してるんだ……!」
一方そのころ
織姫は天帝さまの前に立ち、
静かに言いました。
織姫
「……もう、彼とは会いたくありません」
天帝さまは深くうなずきました。
天帝
「……ならば、七夕の儀式は廃止とする」
天界の住民たちはざわめきました。
「天帝様の“年1回ルール”、厳しいと思ってたけど……」
「今の二人を見ると、あれが正解だったのねぇ……」
「距離があったほうが、うまくいってたんだねぇ……」
こうして七夕は、
静かに消えていきました。




