裏七夕物語・最終章〜天の川のほとり、光を失った者たち〜
むかしむかし――
天界の片隅。
天の川のほとりに、
小さな影が四つ並んでいました。
ひとつは、
かつて織姫に愛された青年。
今は段ボールの中で膝を抱え、
空を見上げることしかできなくなった彦星。
そしてその隣には、
三羽の鵲。
かつて七夕の橋を架け、
天界の誇りを背負っていた鳥たち。
今は、
織姫に依存しすぎて星の欠片(通貨)を使い果たし、
翼を震わせながら、
同じ段ボールの影に身を寄せていました。
鵲A
「……なぁ、彦星……
ここ……寒いな……」
彦星
「…………あ……」
鵲B
「……おい、話しかけんなよ。
そいつ……もう壊れちまってるよ……」
鵲C
「……俺らも……もうすぐだろうけどな……」
返事はない。
彦星は、
ただ天の川の流れを見つめていました。
時間の感覚も、
言葉も、
感情も、
すべて薄れていく。
鵲たちも同じでした。
依存の熱が冷めた後に残ったのは、
空虚と疲労と後悔だけ。
四つの影は、
まるで天界の“忘れられた者たち”のように、
静かに並んでいました。
少し離れた場所で、
牛たちがその光景を見つめていました。
牛A
「モォ……(あいつら……全員……壊れちまった……)」
牛B
「モォォ……(七夕が……全部を奪った……)」
牛C
「モォォォ……(誰も……救われなかった……)」
牛たちは近づけませんでした。
声をかけても、
もう届かないと分かっていたから。
織姫はもう、
昼に機を織ることすらしなくなっていました。
かつて天界を照らした織物の光は消え、
織姫の機は埃をかぶり、
静かに沈黙していました。
そして織姫は――
家にも帰らなくなりました。
天帝の宮殿に戻ることもなく、
父の顔を見ることもなく、
夜になると星灯通りの奥へと姿を消す。
妖艶に笑い、
天界の闇を支配し、
誰の言葉も届かない場所へ堕ちていく。
織姫は、
天帝を恨んでいました。
織姫
「……あの人が決めた“運命”が、
私の人生を壊したのよ」
しかし、
その恨みは天帝だけに向けられたものではありませんでした。
織姫
「……そして、あの人も。
私を愛していると言いながら、
何ひとつ守れなかった……」
天帝も、
彦星も、
七夕も、
天界も。
織姫はすべてを恨んでいました。
天帝は、
娘の名を口にすることすらやめました。
まるで最初から、
織姫という娘など存在しなかったかのように。
臣下が織姫の話題を出そうとすると、
天帝は静かに手を上げ、
その名を封じました。
天帝
「……その名を、もう言うな」
それは命令ではなく、
祈りにも似た弱い声だった。
天帝は、
自分の心を守るために、
娘を“記憶から消す”という選択をしたのです。
天界の片隅で、
四つの影が並んでいます。
誰も話さず、
誰も泣かず、
誰も笑わず。
ただ、
天の川の音だけが、
静かに流れていました。
まるで、
この世界のすべてを洗い流すように。
そして――
誰も気づかないまま、
天界の夜は更けていきました。
物語の中では仲良しでも、
現実の天界では、
もう誰も戻れない。
めでたしめでたし。




