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レンタルシンデレラ~灰まみれの少女と、資格切れの妖精~

むかしむかし。

シンデレラは継母と義姉たちにこき使われ、

朝から晩まで掃除・洗濯・料理の毎日だった。

ある日、王子主催の舞踏会の招待状が届く。


義姉

「もちろん私たちだけで行くわよ」

継母

「あなたは灰でもかぶってなさい」


シンデレラはひとり庭で泣いていた。

そこへ、青い光がふわりと降りてくる。


妖精

「泣かないで、シンデレラ」

シンデレラ

「妖精さん……もしかして、魔法でドレスを……?」

妖精

「魔法?使えないわよ」

シンデレラ

「えっ」


妖精は気まずそうに目をそらした。


妖精

「魔法資格の更新……忘れたのよ。

更新料が高くてね……つい後回しに……」

シンデレラ

「資格制なんですか……?」

妖精

「そうよ。だから今日は物理で頑張るわ」


そう言うと、妖精はドサッと大きな箱を置いた。


妖精

「はい、返却用BOX」

シンデレラ

「返却用……?」

妖精

「ドレスも馬車も馬も御者も全部レンタルなの。

返却期限は“12時”。

その時間になったらこの箱に入れて返してね」

シンデレラ

「魔法じゃなかったんですか……」

妖精

「魔法使えないから物理で頑張ったのよ。

徹夜で。腰痛めながら」


そう言うと、妖精は次々とアイテムを取り出す。


妖精

「ドレスは“舞踏会プランA”。馬車は“かぼちゃ改造モデル”。

馬は“短期レンタル”。御者は“日雇い”」

シンデレラ

「日雇い……」

妖精

「そしてこれ」


妖精はガラスの靴を取り出した。

光を受けて、靴は青白くきらりと輝く。


妖精

「“妖精界最高峰のガラス職人クリスタロ・エルフ製”。

半年待ちの一点もの。……で、これは“特別レンタル”。」

シンデレラ

「れ、レンタルなんですか……!?こんな高級そうなのに……?」

妖精

「そうよ。買うなんて無理よ。わたしの年収の三年分はするんだから。

だから“超高額オプションレンタル”。紛失したら即・買取扱い。

返却忘れたら……わたしの財布が死ぬわ」

シンデレラ

「(重い……!)」

妖精

「絶対に忘れないでね?返却期限は12時。

遅れたら延滞金が跳ね上がるから。ほんとに高いから。

笑えないレベルで」

シンデレラ

「……はい……(怖い……)」


その夜、シンデレラが舞踏会に現れると、

会場はざわついた。


王子

「……なんて美しい人だ」


王子は純粋に恋に落ち、二人は夜通し踊り続けた。

しかし——

時計が12時を告げる。


シンデレラ

「いけない!!返却!!」

王子

「えっ!?返却!?何を!?」


シンデレラは全力で走り出し、

階段でガラスの靴を片方落としてしまう。


王子

「待って!名前を……!」

シンデレラ

「靴返さないと妖精さんが破産するんです!!」

王子

「破産!?どういうこと!?」


説明する暇はなかった。


──翌朝。


妖精

「……シンデレラ。座って」

シンデレラ

「ごめんなさい……」


妖精はレンタル明細書を机に叩きつけた。


妖精

「ドレス返却OK。馬車返却OK。馬返却OK。

御者も帰った。……で」

シンデレラ

「……で?」

妖精

「ガラスの靴だけ返却されてません」

シンデレラ

「あっ……」

妖精

「“あっ”じゃないのよ!!遅延料金、本体価格の10%よ!!」

シンデレラ

「ご、ごめんなさい……!わかってたんです……!

でも時間ギリギリで……パニックになって……!」

妖精

「説明書にも書いてあったし、わたしも何回も言ったわよね!?

“靴だけは絶対に忘れないで”って!!」

シンデレラ

「はい……本当に……ごめんなさい……

返却BOXに全部入れようとして……靴だけ……!」


妖精は頭を抱えた。


妖精

「……私、破産寸前よ……」


王子は朝から上機嫌だった。


王子

「この靴に合う女性を探すんだ。

彼女こそ、私の運命の人だ」

家臣

「はっ!」


王子はレンタルの“レ”の字も知らない。

ただただ純粋に、階段に落ちていた靴を“奇跡の証”だと信じていた。

そしてついに——


家臣

「王子!靴がぴったり合う娘が見つかりました!」

王子

「やはり君だったのか!私と結婚してほしい!」

シンデレラ

「……はい」


王子は幸せの絶頂。

シンデレラは胃が痛い。

妖精はすでに胃が死んでいる。

王子はシンデレラの手を取り、

例のガラスの靴を大切そうに抱えながら言った。


王子

「この靴は、私たちを結びつけた奇跡だ。

城に飾って永遠に大切にしよう」

シンデレラ

「え?…(返却……できない……)」

妖精

(ちょ、ちょっと待って……飾る!?

飾る=返却不能=紛失扱い=即買取……

本体価格、年収三年分……

あ、終わった……わたしの人生……)


妖精は王子に説明したかった。

「それレンタル品なんで返してください」と言いたかった。

でも——


妖精

(掟で……手助けした人間以外に正体を明かせない……

王子に“レンタル”なんて言えない……

詰んだ……完全に詰んだ……)


こうして、

“運命の靴”は王子の宝物となり、

“紛失扱いの靴”は妖精の破産を確定させた。


王子様とシンデレラが結婚してしばらくたった朝の城。

シンデレラが廊下を歩いていると、

床を磨く青い髪の清掃婦がいた。


妖精

「……おはようございます、王妃さま」

シンデレラ

「よ、妖精さん……おはようございます……」

妖精

「ええ、私は今日も働いてますよ。“紛失扱いのせいで”ね」

シンデレラ

「本当にごめんなさい!!」

妖精

「いえいえ、いいんですよ。あなたが靴を返し忘れたせいで、

私のクレカが爆発しただけですから」

シンデレラ

「すみません!!」

妖精

「大丈夫。魔法資格も更新できなくなって、

魔法使えないただの清掃員になっただけですから」

シンデレラ

「本当にごめんなさい!!」

妖精

「ええ、ええ。あなたは王子と結婚して幸せでしょうしね。

私は床を磨いてますけど」

シンデレラ

「ごめんなさい!!」


嫌味は止まらない。


妖精

「この床、ガラスの靴で歩くと傷つくんですよねぇ……

“返却されなかったガラスの靴”で」

シンデレラ

「ごめんなさい!!」

妖精

「王子さま、あの靴を宝物みたいに飾ってましたよ。

“返却物”なのにね」

シンデレラ

「ごめんなさい!!」

妖精

「紛失扱いの買取金、まだ払い終わってませんからね。

あなたのせいで」

シンデレラ

「ごめんなさい!!」

妖精

「まあ、あなたが幸せならいいんですけどね。

私は今日もモップと雑巾で生きていきます」

シンデレラ

「ごめんなさい!!」


──ある日の昼休み。


城の裏庭で、清掃員の制服のままお弁当を食べていた妖精の耳に、

ひそひそ声が聞こえてきた。


妖精A

「ねぇ聞いた?あの青い妖精、魔法資格切れてるんだって」

妖精B

「なのに“魔法で舞踏会に送った”って見栄張ったらしいよ」

妖精C

「全部レンタルで、しかも返却忘れで紛失扱いなんだって」

妖精A

「うわぁ……見栄っ張りの末路……」

妖精B

「妖精界の恥じゃない?」

妖精C

「“レンタルフェアリー”って呼ばれてるらしいよ」

妖精

(聞こえてるわよ……全部聞こえてるわよ……!!)


妖精、悔しさで震える。


妖精

「……魔法資格が切れてただけよ……更新忘れただけよ……

ちょっと忙しかっただけよ……!」

妖精A

「忙しいって、何してたの?」

妖精B

「どうせまた通販で魔法グッズ買ってただけでしょ」

妖精C

「資格更新より買い物優先する妖精なんて聞いたことないわ」

妖精

「うっ……!」

妖精A

「しかも紛失扱いで即買取って本当?」

妖精B

「返却忘れたのシンデレラでしょ?」

妖精C

「でも請求は全部あの妖精に行ったんだって」

妖精

「うぐぐぐぐぐ……!!」


妖精、ついにキレる。


妖精

「……あのねぇ!!私は見栄なんて張ってないの!!

シンデレラを助けたかっただけなの!!

魔法資格が切れてたのは……その……

ちょっとした手違いよ!!買取金は……まあ……

確かに痛かったけど……!!」

妖精A

「痛かったどころじゃないって聞いたけど」

妖精B

「クレカ限度額ギリギリだったって」

妖精C

「魔法資格更新どころか、生活費も危ないって」

妖精

「やめてぇぇぇぇぇぇ!!」………


──そして現在。


妖精

「…と、いうことがあったのよ…」

シンデレラ

「妖精さん、本当にごめんなさい!!全部私のせいで……!!」

妖精

「そうよ!!あなたのせいよ!!でもあなたに怒れないのよ!!

だから余計に悔しいのよ!!」

シンデレラ

「ごめんなさい!!」

妖精

「“レンタルフェアリー”って、呼ばれてる私の気持ちがあなたにわかる!?」

シンデレラ

「ごめんなさい!!」

妖精

「魔法資格もないくせに見栄張って、レンタルで全部揃えて、

返却忘れで紛失扱いになって、破産寸前になった妖精ってね!!」

シンデレラ

「ごめんなさ……ぷっ……」

妖精

「…………」

シンデレラ

「ぷ、ぷふっ……ふふっ……」

妖精

「笑ったわね?」

シンデレラ

「ち、違うんです!!“レンタルフェアリー”って響きが……

なんか……可愛くて……ふふっ……」

妖精

「可愛くないわよ!!あれは侮辱よ!!

妖精界で一番言われたくないあだ名よ!!」

シンデレラ

「ごめんなさい!!でも……ふふっ……レンタルフェアリー……」

妖精

「笑うなぁぁぁぁぁ!!」


妖精、怒りのネチネチモードMAX


妖精

「あなたねぇ!!私がどれだけ恥をかいたと思ってるの!?

仲間に指さされて笑われて、

“あの人、レンタルで舞踏会やったらしいよ”って!!」

シンデレラ

「ごめんなさい!!本当にごめんなさい!!

笑うつもりじゃ……ふふっ……」

妖精

「まだ笑ってる!!」

シンデレラ

「ごめんなさい!!」

妖精

「あなたのせいで私は妖精界のSNSで晒されたのよ!?

“レンタルフェアリーの末路”ってまとめ動画まで作られたのよ!!」

シンデレラ

「ごめんなさい!!(でもちょっと見たい……)」

妖精

「今“見たい”って思ったでしょ!!」

シンデレラ

「ごめんなさい!!」


その後、妖精は清掃員として働きながら、

六年かけてガラスの靴の買取金を完済した。

返済の最終日、

妖精はシンデレラに向かってこう言った。


妖精

「まったく……あなたのせいで六年も雑巾とモップ生活よ。

でもまあ……返し終わったから、許してあげるわ

……一生忘れないけどね」


そう言いながら、

最後までネチネチ嫌味を言い続けたという。

そして妖精は、

ようやく魔法資格の再取得に向けて妖精界へ帰っていった。

シンデレラは王子と末永く幸せに暮らした。

ただ——

城の中央に飾られた“あのガラスの靴”を見るたびに、

妖精に対して申し訳ない気持ちになるのだとか。

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