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25 誠、結婚相手を探す

「――本当?」

「本当だが?」

 訝しむ誠に、反応の理由がわからないと玲奈は眉を寄せていた。

 親子の次は姉弟、この世の中どうなっているんだと、誠の心の中は暴走気味である。

「姉弟って、恋愛感情にならないでしょ」

「そうでもないぞ。血が繋がってないから別に忌避することもないし、彩花の場合は弟が好きすぎるけどな」

「あ、血は繋がっていないんですね」

 ひとまず安心材料を見つけて誠は一息つく。なにもよくないのだが、少しでもいいところを見つけていかないとこの先、精神が持たないような気がしていた。

 それにしても、とため息をつく。もう言葉も出ない、複雑怪奇な世の中にいつか慣れる日は来るのだろうかと、心配になっていた。



 その翌日である。

 誠はせっかくもらった助言のとおり行動を開始しようとしていた。

 が、しかし。早くも壁にぶつかることとなる。

 将来の伴侶のための、気心の知れた仲になるための、親友となるための友人探しの旅は、そもそもから難航していた。友人の作り方が分からないのである。

 友人になるための許可証などあるわけもなく、ガイドブックもない。前提として友人とは何かと考え始めた時点で、彼が友人を作ることは絶望的だった。

 前世でも友人と呼べる人は少なかったが、いなかったわけではない。その誰もが知らずのうちに話をするようになり、いつの間にか一緒にいることが当たり前になっていた。自分から仲良くなろうと働きかけていなかったので、この手は使えなかった。

「友達ってなんだろう?」

 いつものベンチに座り独りごちる。今日は亜弓もおらず、しかし答える人はいた。

「友達は友達だろ」

 AイコールAという、公式でも答えるように言ったのは迅だった。関わるなという約束はもはや過去のものとなり、時折こうして集まることも増えていた。

 危害を加えないならと、誠が折れた結果である。しかし同年代の子よりは話しやすく、悪くない気分だった。

「そうなんだけど……友達いないし」

「……僕たち、友達じゃなかったの?」

 そう言うのは取り巻きの背が高いほう――大河(たいが)だった。背だけは高学年にも負けずと劣らないのに、不安そうに震える声は幼児のようだった。

 友達、友達とは? 確かに親世代以外で一番会話をしているのは彼らだった。しかしカツアゲの前科がある相手でもあるのだ、そう簡単に受け入れられるものではなかった。

 ゆくゆくは一緒に住むことになる人と考えると、誰でも二の足を踏むことだろう。今だけ適当に付き合うでもいいのだが、馬鹿がつくほど真面目な誠にその考えはなかった。

「保留かな」

「”ほりゅう”ってなんだ?」

「まだ決められないってこと」

 応答し、「難しい言葉だな」と感想を漏らしたのはもうひとりの取り巻き――まさるだった。小太りな彼は、会話よりも早く身体を動かして遊びたいと言わんばかりにボールで手遊びをしていた。

 見た目とは裏腹に、一番スポーツのセンスがあるのは彼である。走る・跳ぶのみならず、取る・投げる・打つ・蹴る、どれもが抜きん出ている。逆にどれもうまくいかないのが誠だった。まだ手足も短く筋力も発達途中なのだから仕方ないのだが、本人は密かに悔しさを滲ませていた。

 結局その後も誠の中での考えはまとまらず、適当に三人と遊ぶこととなった。

 そのさなか、上手いこといかないキャッチボールに誠が躍起になっていた時だった。

「そういや、おばあちゃんに会ったやついる?」

 適当な話題振りに、誠含め全員が首を横に振る。

 ……あれ?

 いつもの戯言かと話半分に聞いていた誠は動きを止めていた。

 そして気付いたのだ、祖父母という存在に。

 前世では、物心ついた時にはもう鬼籍に入っていたので祖父母というものに縁がなかった。それをそのまま引き継いで今世も生きていたため疑問すら抱かなかったが、孫を可愛がる祖父母という構図が目に浮かぶほど、ありふれた情景なのに今の今までそんなイベントは発生していない。子が子なら親も親。誠の親にもそれぞれ複数の親がいるはずなのに、一切連絡がないのは不思議を通り越して不自然だった。

「ねぇそれで――」

 迅の言葉の続きを聞こうとした誠だったが、意識を向けた瞬間、目の前が赤に染まっていた。何が、と思うまもなく「うげっ」と言葉を吐き出して、額から走る鈍痛に頭を悩ませることとなった。

「おーい、ぼうっとしてんじゃねえよ」

 考えてみれば、今はキャッチボール中。他のことに気をとられボールの行方を把握していなかった誠には当然の末路が待っていた。

 悪態をつく迅はもう祖母の話などどうでもよくなったらしく、遊びの再開を求めていた。「待ってくれよ」と誠が訴えたところで多数決には勝てず、仕方なく転がっていったボールを追うしか道は残されていなかった。



 消化不良に顔をしかめる誠が家に帰ると、珍しくリビングに人がいた。

 まだ夕暮れにも早い時間、休日は夕飯時まで自室にこもるのが恒例となっている大人にしては異例のことで、誠も興味をそそられて声をかけていた。

「亮さん、どうしたの?」

「あぁ、誠くんか。今日はいつものように読書かな?」

 物腰柔らかな言い方をするのは五郎――先日話に出た亮である。

 この時間、リビングにほとんど誰もいないことを知っている誠は、よく図書館で借りた本を読んでいた。子供部屋はあるのだが、あそこは大輝を含め多数の子どもがひしめき合う魔境であるから、落ち着いて読書をするには向かないからである。

「うん――あ、そうだ。ちょっと聞きたいことがあるんですけど、時間は大丈夫ですか?」

「いいよ。なんかこうして話すのは初めてだったかな?」

「そうですね」

 親子なのに、微妙に開いた距離感は埋まらない。前世ほど家族という枠組みが強固ではないのが、この世界の特徴だった。

 ソファーに横並び、誠はぼうっとテーブルを見つめながら、何について話そうか悩んでいた。

 聞きたいことはふたつ、どちらから聞くのがいいか一呼吸の間に考えて、長くなりそうなほうから話すことを決めた。

「姉と結婚するって、どんな気持ちなんですか?」

「彩花さんのこと?」

 聞かれ、頷く。他にいることを想定していなかったが、亮が候補を出してこないところをみるに、いないのだろう。

 彼は、質問の意図をかみ砕くようにゆっくり腕を組んでから、首をかしげていた。

「どういう気持ちか……考えたこともなかった、かな」

「そういうもんなんですか?」

「楓ちゃんが気になるの?」

 亮が誠の姉の名を口にする。どうしてそうなるのか、理解に苦しむ誠は不愉快さに口をへし曲げていた。

 首を勢いよく横に振って否定する。やめろ、そういう趣味はない。

「だよね。誠くんはなんというか、そういうことに興味なさそうだし」

「興味ないというか、正解がわからないんです」

 それはあえて濁した言葉だった。正解が何を指すのか、この世界に生きる人と前世の価値観ではとらえ方が違い、勝手に納得してくれることを期待していた。

「正解かぁ……誠くんはどう思った?」

「……怒らないでくださいね」

「え、あ、うん」

「気持ち悪いです。同じ家族だと思われたくないくらいに」

「そんなに? けっこうずけずけ言うんだね」

 あくまで誠の常識と照らし合わせた場合の発言は非常に過激だった。それこそ折檻を受ける可能性もあるくらいには。

 初めて吐露した感情に、亮は笑うことすらできずにいた。彼からすればむしろなぜそんなに誠が忌避しているのかわからないはずである。

「いくら血がつながっていないとはいえ、兄弟姉妹として生活していたわけじゃないですか。その線引きが崩れるってことは明日襲われる可能性もはらんでいるわけで、止める人もいないってなれば日々気の休まることがないって意味ですよね?」

「そう、かな? 流石にお互いの意思は尊重するとは思うけど」

「人間信じすぎじゃないですか? 何が起こるか、相手が何を思っているかなんてわからないですよ」

「……去年拉致された子が言うと説得力あるね」

 皮肉である。それくらい誠にも理解できていた。

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