第三話 君と、友達に
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「じゃ、行こっか」
一ノ瀬さんの一言で、俺たちは校門を出た。
女子四人と男子一人。
……いや、この並びおかしくないか?
周りを歩く生徒たちの視線が、痛いほど分かる。
「ねぇ見て、綾部じゃない?」
「一ノ瀬さんたちと帰ってる……?」
「なんであいつが……」
ほら見ろ。
絶対そうなると思ったんだ。
俺なんかがこの輪の中にいていいわけがない。
そう思い、少しだけ歩く速度を落とすと、
「綾部くん?」
一ノ瀬さんが振り返った。
「なんで後ろ歩いてるの?」
「いや……なんとなく」
「なんとなくじゃないでしょ」
そう言うと、彼女は少しだけ困ったように笑う。
「ほら、隣」
「え?」
「嫌なの?私の隣で歩く権利、せっかくあげてるのに」
「いや意味分かんないって」
「あはは!」
女子たちが一斉に笑う。
結局、俺は一ノ瀬さんの隣を歩くことになってしまった。
◇
「そういえば綾部くんって一人暮らしなんだよね?」
星野さんが思い出したように聞いてくる。
そういえば、自己紹介の時に話したような。
「うん」
「えー! すご!」
「全然すごくないよ」
「料理とかできるの?」
「まぁ生きていける程度にはね」
「私達より女子力高いんじゃない?」
桜井さんが笑いながらみんなに問いかける。
「私は目玉焼き焦がす自信ある」
水瀬さんが胸を張る。
「威張ることじゃないからね?」
一ノ瀬さんがすぐツッコむ。
「いやでもナツも前に──」
「ナギ?」
「はい、ごめんなさい」
何か秘密でもあるんだろうか。
珍しく水瀬さんが大人しくなった。
◇
駅へ向かう途中、小さな公園の横を通る。
ブランコで遊ぶ子どもたちを見ながら、一ノ瀬さんがぽつりと呟いた。
「高校生になったんだなぁ」
「急にどうしたの?」
「いやさ、中学卒業した時は実感なかったけど、制服も違うし、友達も増えたし」
──そこで俺を見る。
「隣の席の人ともちゃんと話せたしね」
「……俺?」
「うん」
そんな当たり前のことのように言われると困る。
「私さ」
一ノ瀬さんは少しだけ笑って続けた。
「高校では誰とでも話そうって決めてたんだ」
「へぇ」
「だから綾部くんにも話しかけたの」
……そうだよな。
特別な理由なんてあるわけない。
誰にでも優しい。
ただそれだけ。
なのに少しだけ胸が締め付けられるのは、きっと気のせいだ。
「でも」
「うん?」
「思ってたより話しやすかった」
その一言で、さっきまでの考えが全部吹き飛んだ。
「え?」
「もっと無口な人かと思ってた」
「いや、実際そんな感じだよ」
「違う違う」
一ノ瀬さんは首を横に振る。
「ちゃんと返事してくれるし、優しいし」
優しい。
そんなことを言われたのは、いつ以来だろう。
◇
「ねぇねぇ!」
水瀬さんが急に俺たちの間へ割って入ってくる。
「二人だけの世界入ってない?」
「入ってない!」
一ノ瀬さんが慌てて否定する。
「えー?」
「ほんとだって!」
「じゃあ綾部くんは?」
「えっ!? 俺!?」
急に振られて頭が真っ白になる。
「……一ノ瀬さんが気を使って話を振ってくれてただけだよ」
「だってさ」
「もう!綾部くん、気を使ってな訳ないじゃん。私が綾部くんと話したかったから話してるんだよ。だから、そんな自分のことを卑下しないで!」
「分かった。ごめん」
「そうだよ綾部くん。私は綾部くんと今日初めて話したけど、綾部くんはまた話したいって思えるような人だよ」
一ノ瀬さんと水瀬さんが同時に息を吐く。
「綾部くんはもう少し自信を持つべきだと思うな」
「そう言われても俺なんてなんの取り柄もないし……」
「ていうか綾部くんって別に悪い要素なくない?」
「それは思った。なんでこんなに自信ないんだろうって」
星野さんと話していると桜井さんと水瀬さんが割って入ってくる。
「え?だって地味だし友達も少ないし、得意なこととかもないし」
勉強も運動も平均くらいだし。
「別に綾部くん地味なわけじゃないと思うけどなぁ」
え、誰が?俺が?
一ノ瀬さんの呟きに固まっていると一ノ瀬さんの顔が近くなる。
「なんだろ、顔は悪くないんだけどなぁ。生気がたりてないのかもね」
「俺は死んでると?」
「あはっ!」
何故かうけた。
女子、分からん。
「それに友達だっているじゃん綾部くん」
「え?いやいや友達なんて蓮や東条と佐々木くらいだし、仲良くさせてもらってるって感じだし」
「その言い方は良くないなー。それに……」
「それに?」
確かに今の言い方は良くないなと思っていると、
「私は?」
「え?」
頭が真っ白になる。
──いやだって一ノ瀬さんだよ?あの一ノ瀬さんクラスどころかもう既に1年生の間で噂になるくらいに人気の。
そんな人と俺が……。
「違うの?」
「いや、一ノ瀬さんは俺なんかが友達でいいのかなって……」
「また卑下するぅ。はぁ……俺なんかじゃなくて《《君だから》》だよ、柊真くん」
ああ、そうか友達ができるってこんなに嬉しいことだったな。
久しく忘れてた。
──よし。
「改めて一ノ瀬さん、俺と友だちになってくれませんか?」
「もちろんだよ。柊真くん!」
夕日に照らされた一ノ瀬さんの笑顔はとても綺麗に輝いていた。
その様子を見て、星野さんと桜井さんは顔を見合わせて笑っていた。
「青春だねぇ」
「うんうん」
「違うから!」
俺と一ノ瀬さんの声が綺麗に重なる。
一瞬だけ目が合って、お互い吹き出した。
「あははっ!」
「ははっ……」
自然に笑えた。
こんなふうに女子と笑い合ったのは、いつぶりだろう。
◇
「じゃあ私たちはこっち!」
星野さんと桜井さんと分かれる。
「また明日ねー!」
二人が手を振って歩き出す。
「綾部くんさぁー。明日からナツと一緒に帰ってくれない?」
「「え?」」
水瀬さんの突然の問いかけに俺と一ノ瀬さんは2人そろって同じ反応をする
「ちょ、ちょっとナギ?急に何言ってんの!?」
「いやだってさ、明日からは私もまひろも紬も部活があるから一緒に帰れないじゃん?」
あーそうか、明日からは入った人は部活が始まるのか。
となると……
「一ノ瀬さんは部活には入らないの?」
「あ……うん。私は特にしたいこともないしいいかなーって」
「そっか、俺と同じだね」
「ナツは人気だからね。1人で帰ってると何が起きるか分からないでしょ?ほんとは私が一緒に帰ってあげたいけどね。仕方がないから綾部くんにこの権利をさしあげよー!ってこと」
「なるほど、確かに一ノ瀬さんは可愛いから1人だと不安だね」
「あ、た、確かに!柊真くんがいてくれると心強いかも!」
そういう一ノ瀬さんの頬は少し赤くなっているように見えた。
夕日のせいかな?
「じゃあ綾部くんよろしくね。もちろん私達も部活ない時は一緒に帰るからね!あ、もしかしておじゃま?」
「邪魔だなんて、そんな」
「もう、ナギー?」
「ごめんごめん」
2人の楽しそうなじゃれあいを見ていると、いつの間にか駅前に着いていた。
「あ、俺こっちだから、じゃえさあね」
「バイバーイ」
「また明日ー」
2人と別れ、家に帰る
はぁ、まさかあんなことになるなんて……
──そう俺は、隣の席の美少女と放課後帰ることになってしまったのだ。
これからどうしよう。
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