第四話 八人での昼休み
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翌朝
「おはよう、柊真!」
校門で待っていたのは蓮だった。
「おはよう」
昨日一ノ瀬さんと改めて友達になったからだろうか。
教室へ向かう途中も、何となく足取りが軽かった。
◇
ガラッ。
「おはよう!」
教室へ入ると、一番最初に聞こえたのは明るい声だった。
「お、おはよう」
一ノ瀬さんがいつもの笑顔で手を振る。
すると、その隣から水瀬さんがニヤニヤしながら顔を出した。
「おー。ナツ、お目当て来たよ」
「ちょっとナギ!」
「事実じゃーん」
「違うもん!」
朝から騒がしい。
でも、そのやり取りを見ていると自然と笑ってしまう。
「おはよう、綾部くん」
「おはよう」
星野さんと桜井さんも笑顔で挨拶してくれる。
昨日までなら緊張していたはずなのに、不思議と少しだけ自然に返せた。
◇
昼休み。
「柊真ー!」
蓮が勢いよくやって来た。
「一緒に食おうぜ!」
「おう」
「朔哉と翼も誘ってある」
「了解」
いつもの四人で机を寄せようとした、その時だった。
「柊真くーん!」
教室中に響く声。
振り向くと、一ノ瀬さんたち四人がこちらへ歩いてくる。
「一緒に食べてもいい?」
「えっ」
俺より先に反応したのは蓮だった。
「もちろん!」
「ちょ、お前が返事するのかよ」
「いいじゃんいいじゃん」
あっという間に机がくっつけられた。
男子四人、女子四人。
八人の輪ができる。
「改めまして!」
水瀬さんが立ち上がる。
「私、水瀬渚!」
「いや自己紹介終わってるから」
桜井さんが即座にツッコむ。
「あはは!」
教室中に笑い声が広がった。
◇
俺たちは大半が初めてなので趣味、特技等で話題が尽きなかった。
陽キャ、恐るべし。
「ところで」
蓮が急に真面目な顔になる。
「一ノ瀬さん」
「ん?」
「柊真、どう?」
「どうって?」
「友達として」
突然すぎる質問だった。
「ちょっと蓮!」
俺が止めようとするより早く、
「優しいよ」
一ノ瀬さんは即答した。
「話しやすいし、ちゃんと人の話聞いてくれるし」
「へぇ」
蓮は嬉しそうに笑う。
「やっぱそうだよな」
「俺たちもそう思う」
そう言う蓮の横で、東条も翼も頷いていた。
「でも」
星野さんがふっと笑う。
「自己評価だけ異常に低いよね」
「うんうん」
桜井さんも同意する。
「そこは直した方がいいかも。」
「昨日もずっと『俺なんか』って言ってたもんね」
水瀬さんが笑う。
「みんな……」
ここまで言われると、逆に恥ずかしい。
「じゃあさ!」
桜井さんがぱんっと手を叩いた。
「今日から禁止!」
「え?」
「『俺なんか』って言うの!」
「言ったら?」
「罰ゲーム!」
「何そのルール」
俺たちの間で笑い声が響く。
なんだこれ。
でも悪くない。
こんな昼休み、今まで一度もなかった。
「お、じゃあさー罰ゲームなんだけどナツのことを可愛いって言うとかどーよ」
「ナギー?」
「さ、さすがにそれは……」
「お、それいいねぇ」
「確かに!綾部くんの自信もつくかもだし!」
「柊真の可愛いなんて激レアやん!」
「綾部に言えるのかー?」
「ちょーおもしろそうじゃん」
俺と一ノ瀬さんの抵抗も虚しく、次々賛成の意見が出て、押し切られてしまった。
◇
放課後。
チャイムが鳴る。
蓮たちはサッカー部へ向かう準備を始めていた。
「じゃ、行ってくる!」
「頑張れ」
「おう!」
蓮、東条、佐々木の三人が教室を飛び出していく。
桜井さんが呟く。
「私たちもそろそろ行こっか」
水瀬さんと星野さんも鞄を持った。
「じゃあね!」
「また明日!」
三人が教室を出て行く。
静かになった教室には、俺と一ノ瀬さんだけが残った。
目が合う。
「じゃあ……帰ろっか」
昨日交わした約束を思い出すように、一ノ瀬さんが柔らかく笑った。
「うん」
自然と頷く。
中学の時は、一人で帰るのが当たり前だった放課後。
だけど今は違う。
俺は鞄を肩に掛け、一ノ瀬さんと並んで教室を出た。
教室の窓から差し込む春の夕日が、二人の影を少しだけ長く伸ばしていた。
「行こっか、柊真くん」
「うん」
二人並んで校門を出る。
「今日も楽しかったね」
「そうだね」
「けど俺なんかがみんなと仲良くさせてもらってほんとにいいのかなぁ……」
「あ……」
「どうしたの?一ノ瀬さん」
「今、俺なんかって」
「あ、ほんとだ」
しまった!
すっかり忘れてた!
これどうするべきなの?言うべき?
──よし。
「えっと……」
逃げられない
「一ノ瀬さん」
「ん?」
「……可愛いよ」
「……ありがと」
一ノ瀬さんは少し視線を逸らしながら、小さく笑う。
「ちゃんと言ってくれるとは思わなかった」
「決めたことだしね……」
一ノ瀬さんの頬は少し赤く染まっていた。
少しぎこちなくなりながらも、他愛ない話をしながら歩いていると、駅はあっという間に見えてきた。
「じゃあ、また明日、」
「うん。また明日」
笑顔で改札へ向かう一ノ瀬さんを見送り、俺は一人帰路につく。
春風が心地いい。
明日もまた、この帰り道を一緒に歩く。
そう思うだけで、少しだけ学校へ行くのが楽しみになっていた。
でも、なるべく俺なんかとは言わないようにしないと、俺がもたない……
そして気づけば──
いつの間にか、俺の日常には「八人で笑う時間」が当たり前になり始めていた。
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