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04|女神様のオシカケ面接:おはよう契約詐欺の時間です

「ヨロシィイィッ! 確と聞き届けたぞよ!」


 何かにつけ、声がでかい。

 フンッと気合いを入れて、メグちゃん(声デカ)は右手を高らかに掲げた。



 ブワァーッと視界のすべてを搔き消すほどの、強烈な白光が放たれる。

 鼓膜に次いで網膜までやられた俺は、視覚が元の色彩感覚を取り戻すのに数分を要した。


「そろそろ、よいかの?」


 俺が目を押さえている間、幾度も彼女が覗き込んでくる気配があり、そのたび、「もうよいか?」「もうよいかの??」と催促される。

 いいかい。事前に通告していれば、こうはならなかったんだよ。


「モウ、イイデスヨ」


 返事をするや、メグちゃん(悪魔)はフンヌ、フンヌと犬のように鼻息を荒げながら、先のウネウネした黄褐色の木の棒を渡してきた。30センチほどの長さしかない。


「みじかっ」


 しかも細い。菜箸よりは太いが、簡単に折れそうな代物だった。リーチどんだけやねん。

 これは完全にハズレを引いたようだ。素直に剣にしとけばよかった。


 俺のしっぶい顔など気に留めず、メグちゃん(鼻息悪魔)はさも嬉しげに跳ねている。


「ほれほれ、早くめくるのだ!」


 めくるとは。


「根元を見るのだ」


 棒の持ち手の部分を見ると、くるりと薄布が巻かれている。


「早くっ、早くっ!」


 うずうずと横揺れして目を光らせる彼女を横目に、仕方なく俺はその薄布をめくろうとした。

 その指が触れたかどうかという瞬間、どういうわけか、ジュワッと溶けるように薄布が消え去った。


 棒に焼き付いたと言った方が近いかもしれない。薄布の巻き付いていた部分が、飴色に変色していたからだ。

 棒を握る俺の手にも、ほんのりと熱が伝わってくる。


 呆気にとられていると、フワッと花のような香りが鼻腔をかすめ、視界の端から桜色の後頭部が現れた。


 いつのまにか、メグちゃん(鼻息悪魔)が俺の隣に回り込み、食い入るようにその変色した持ち手を見つめていた。


「フォオオォオォオーーーーーーーーッ!!!」

「ぅわっ」


 絶叫した。


「ヤッタァアァアァァアアアーーーーー!!!!!」



 俺の鼓膜はもうズタズタだ。

 メグちゃん(マンドレイク)は狭い部屋でクルクル、クルクルクル、狂喜乱舞だ。


 何がそんなに嬉しいのか。棒を回して、しげしげ観察すると、焼き跡の中に、周りよりわずかに濃く焼けている部分があった。文字か記号かは不明だが、焼き鏝を押し当てたように模様がついている。


「そなた、ラッキーぞよ! ビギナーズラックぞよ!」


 メグちゃん(マンドレイク:喜)は踊りながら歓声を上げる。

 何のビギナーだというのか。それにそろそろ、近隣の部屋から苦情が来るだろう。


 俺が唇に人差し指を当てて(ダマレ!)と合図すると、彼女も俺の前にペタリと座って人差し指を立てた。


「ア・タ・リ、だ!」


 フンヌッと大きく鼻息をひとつ。


「アタリってなんですか」


 もう1本もらえるのだろうか。

 確かに、菜箸に使えるとは言ったが。

 いらん。


「ケ・イ・ヤ・ク、ぞよ(ハート)」

「ケイ……ヤク?」


 悪徳商法だったか。

 強盗の分際で。


「クーリングオフで」

「くーり?」


 メグちゃん(悪徳商法強盗)は、ホニャッと首を横に倒す。


「解除で。破棄で。解約で」


 メグちゃん(悪徳商法強盗)は、フニャラッと目を線にして、微笑む。


「無理ぞよ」

「なんで」


「一度契約を結んだら、1000日は解けぬ」

「なんで」


「知らぬ」

「なんで」


 なぜ、という言葉以外失った俺を無視し、「では、失礼して……」と、彼女はおもむろに距離を詰めてきた。そして、俺の額にペタッと手のひらを押しつける。間髪入れず視界がスパークして真っ白になり、慌てて目を瞑ったが、遅かった。またしても目がやられ、キーーーンと耳鳴りもする。しかし耳を押さえようにも、金縛り状態で、指一本動かせない。


 彼女が手をあてた額はみるみる熱を帯びていき、その手を通して、何かが俺に流れ込んでくる。流入が熱を生んでいる。


 手のひらと額の接面全体に通っていた熱は、やがてジジジッ、と皮膚が焼けるような音を立てながら、中央の一点へと集約し始めた。熱の通り道が小さくなるにつれどんどんと高温になり、それが針先ほどの点になる頃には、発火するのではと思うほどになっていた。


 点は、額の表面を滑らかに動いて、ひとつの模様を描いたようだった。


「デキタッ! デキタヨォーーーッ!!」


 彼女が叫ぶのと、俺の身の呪縛が解けたのとは同時だった。

 人様の身体に何すんねん。俺はすぐに自分の額に触れたが、特に火傷のようなものは触れない。


「大丈夫ぞよ。跡は残らぬから」

「逆に怖くないですか」


 「こうすると視える」と言って、メグちゃん(悪魔)は机上にある黒いモニタの前に俺を連れていき、俺の額に手をかざした。

 すると、アラ不思議。

 電源の入っていない真っ暗な液晶には、俺の額中央(……から微妙に左にずれている気がする)に、淡いピンク色の光を発しながら、奇妙な印が浮かび上がる様子が映った。

 もう一度触れるが、やはり何の跡がついているわけでもない。しかし、彼女が手をかざすと視えるのだ。


「ナニコレ」

「契約印ぞよ」


「待て待て待て!」

「なにぞよ?」


「押印前は、まだ契約未成立ってことじゃないですか?」

「……」


 無言で口を尖らせ、目をそらす。無視すな。


「騙し撃ちですよね」

「…………ダッテ」


 眉尻がペショッと下がる。


「だって、ワタクシはまだ見習いだから……」

「は?」


「まだ、見習い中の女神なのだ」

「半人前ってことか」


 半神前か?


「左様」

「威張るなし」


 そうか、毎回「女神」を名乗る前にモニョモニョ言ってたのは、それでか。


「見習いの身分では、被契約者の同意なしでは契約できんのだ」

「同意……、してませんけど?」




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