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03|女神様のオシカケ面接:おはよう悪徳商法の時間です

「メグちゃんとお呼びなさい」

「あ、ハイ……」


 いつ終わるんだ、この茶番は。


「では『ミガワリーの服』、受け取るがよい」


 言うなり、メぐちゃん(新・店長)の右手の上に浮かんでいた人形サイズの服が、みるみる巨大化して、バサリと俺の頭に掛けられた。


 あ、意外にいいかも。

 しっとりした手触りは、寝間着によさそうだ。


 そこへ彼女の声が追いかけてくる。


「コチラに取扱いの諸注意が記されておるゆえ、一読するように」


 ペラ紙を渡された俺は、誤光にやられた目でそれに目を通す。


「手洗い推奨、ドライクリーニング不可ぞ」

「めんどくさッ」


 洗濯方法以外にも実にみっちり、細々、書かれている。手書きにしては整った文字だった。前職の仕事柄、この類の書面はどれだけくだらなくとも、隅々まで確認してしまうのが悲しい。


「何々……仲間が攻撃されたらすかさず盾となり、ダメージを肩代わりする実に勇者的、紳士的な衣……、返品で」


 ペラ紙と服をまとめて投げ返した。

 途端、メグちゃん(詐欺師)が憤る。


「なぜぞよ!」

「それはこっちの台詞だ!『ミガワリ』は俺の方なんかぃっ!」


 なんで俺が守る側なんだ。

 こちとら、しがない一般市民ぞ。もっと手厚く保護してくれ。


「寡黙なぼっち者でも、争奪戦になるほど仲間から大人気になれるぞよ!」

「感謝され放題ぞよ!」

「これぞ勇者の鏡ぞよ!」


 信じられない、と憮然とした表情で畳みかけてくるが、俺のHPはおそらく10もないのだ。MPも(しか)り。ワンパンでグぅだぞ。


「被ダメ大幅吸収とか、致命傷時は代わりに散るとか、その手の『ミガワリ』と思ったわ!」


「何を言う! 散ったらパンイチぞよ!」

「パンイチ勇者ぞよ!」

「そなたそれでもよいのか!」


 自称とはいえ、女神からパンイチという言葉を聞く日が来ようとは、世も末よ。幻滅よ。幻覚だけに。

 そうだ。

 ワンパンといえば、コイツ帰ったらフライパンでホットサンド作るか。


「とにかく却下だ、却下!」

「むむぅ、贅沢な奴ぞよ……」


 メグちゃん(パンイチ女神)は眉をへの字に……


「パンイチ女神は嫌ぞよ! やり直し!」

「地の文まで口出ししないでください」


 メグちゃん(パンイチと(のたま)ふ女神)は眉をへの字に寄せて口を尖らせたが、すぐにパッと顔を輝かせて言った。


「じゃ、鎧にするぞよ?」

「遠慮しときます」


「なぜぞよ!」

「どうせそっちも、ろくなもんじゃなさそうですし。だいいち、邪魔です」


「そうか……残念ぞよ。コーネハル随一の名匠と云われし、ハガネー・イッテツの作だというのに……」

「古風! そいつも転移者か? ……とにかく結構ですんで」


 メグちゃん(負け)はショボン顔で手のひらを窄めると、『イノチトリの服』と『ガンコオヤヂの鎧』は、シュルシュルと光球の中へ吸い込まれていった。


「もういいですか?」


 俺はベッドの上に立ち上がって、天井に張り付いたままの憐れな布団を解放してやろうと手を伸ばした。


「ま……待て待て」


 メグちゃん(ショボン)は、その俺の手を両手でひしと掴み、そっと包み込んだ。ホワワァアン……と効果音が聞こえた。


「待って、オネガイ」


 心なしか目が潤んでおり、妙な切実さを漂わせる。


「では武器、武器はどうだ? の? の? 興味あるぞよ? よい品を取り揃えておるぞよ?」


 確かにな。それはちょっと、童心をくすぐられる。

 あ、童心ね、童心。


「お、ダンナ、興味がおありで?」


 メグちゃん(復活)は、いそいそ裾をたくし上げて定位置に戻り、再び両腕を前へと差し伸べた。両の手のひらには、先ほど同様の光球が現れる。


 が、今度は明確な形状をとらずに、フヨフヨと浮いているだけだ。

 嫌な予感しかせぬ。


「では、特別に! 特別にだぞ? 武器も2点、ご用意したぞよ」


 コホン、と改まった調子で続けた。


「『ケーヤキーの棒』と『ハガネーの両手剣』、どちらがよいぞよ?」


 さっきからちょいちょい、語尾がおかしい。方言なのだろうか。


 しかし、何かの二番煎じな初期装備のただの棒と、シンプルノーマルではあっても間違いなしな大剣の2択。背中に背負う両手剣、憧れますなぁ。


 部屋の壁に吊るしちゃったりなんかして。

 マグロ鯖いちゃったりなんかして。


 あ、くれぐれも童心だから、童心。


 ウチ、賃貸だしな。

 そんな重いもんぶら下げて壁剥がれたらマズかろう。ここはやっぱり無難な棒にしとくか。ケヤキというからには耐久性もあるだろうし、菜箸ぐらいにはなるだろ。


「じゃ、棒で」

「えぇっ!?」


 心底驚いたという顔である。


「ほ、ほんとに?」

「まぁ、身の丈に合ったものを選ぼうかと」


 大きな目をさらに見開いて、俺の目を覗き込んでくる。


「ほ、本当にそれでよいのだな?」

「え? あぁ……ハイ」


 地雷、じゃないよな?


「ヨロシィイィッ! 確と聞き届けたぞよ!」


 何かにつけ、声がでかい。

 フンッと気合いを入れて、メグちゃん(声デカ)は右手を高らかに掲げた。




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