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『転生したら最弱ダンジョンマスターになったので、サーカスを始めたいと思います!』  作者: フミンチュ
5章 相克の双里―ユグドゥーラ/ドゥラレヴィ

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13.根の下の灯り

 リオルは、ダレンへ縄を出さなかった。

 代わりに、自分が先頭を歩くと言った。


「道を変えたら、分かる」

「それでいい」


 二人の後ろを、大地たちは進んだ。

 馬車は里に残した。暗い森で車輪を取られるわけにはいかない。荷は水と布、灯り、それからマルディが選んだ道具だけだ。

 フランはジャンヌの横を歩いていた。何度も空へ顔を向けるが、頭上は枝が重なっている。


「飛ぶより、こっちで頼む」


 大地が言うと、彼女は頷き、水袋を抱え直した。


 古い根の世話場は、太い木の根に半ば抱かれた小屋だった。

 戸を叩くと、内側から棒を外す音がした。

 灯りの下に、家族が三組と、根の世話をする老いたエルフがいる。

 その奥から、ダークエルフの老女も顔を出した。


「お前さんたちか」


 ドゥラレヴィで、苗を運んでいた人だった。

 足元には、布を掛けた木箱がある。


     *


「女王様に、後ろの道から出るよう言われてね。ここなら、根を傷めず箱を休ませられると思ったんだ」


 老女の前に、世話人が水を置いた。


「ここへ来た時、随分揉めた。箱を見ていなければ、私も戸を開けなかったかもしれん」


 エルフの老人は、そう言った。

 ダレンが頭を下げる。その動きを見て、リオルが戸口の外へ目を向けた。


「夜のうちに戻ろう。明るくなってから、この人数を動かせない」


 ただ、世話人の膝が悪かった。

 子供二人も歩き疲れて眠っている。

 大地は荷の中の布を出し、運ぶ順番を決めた。マルディの呼ぶ骨の兵が老人を担ぐ。ジャンヌは子供を一人、もう一人は父親が背負う。

 木箱は、大地とダレンで持った。


「苗まで運べるのかい」

「置いていけば、取りに戻るでしょう」


 老女は、何も言わず持ち手へ布を巻いた。


     *


 出発を待つ間、マルディは小屋の奥にいた。

 土から覗く根の表面を、淡い光が流れている。


「これが、記録にあったやつっすね」


 世話人が頷いた。


「森で死んだ小さな生き物の気配が、根に沿って集まることがある。実の育つ場所へ流れ、混じって、やがて区別がなくなる」

「魂、ですか」


 大地が聞くと、老人はゆっくり首を傾けた。


「我々は、そう呼んできた。だが、生まれる妖精は死んだ者の続きではない。名前も、記憶も引き継がない」


 老女が、箱の布を開いた。

 光る種が、さっきより明るかった。

 根へ近づけると、光が揺れる。


「この子も、やっと帰ってこられたんだね」


 声が掠れた。

 マルディは、手を差し出しかけて止めた。


「自分なら、流れの近くへ霊を導くことはできるかもしれないっす。でも、元の誰かを戻せるって意味じゃない。そこは、間違えちゃいけないっすね」


 大地は頷いた。

 コアへ戻るマルディの不死とは、仕組みも行き先も違う。

 苗の根に、布を掛け直した。


     *


 夜道は、来た時より長く感じた。

 子供が一人、途中で目を覚ました。

 自分を背負うジャンヌの肩越しにダレンを見て、顔を隠す。


「大丈夫だ。道を教えに来てくれた」


 ジャンヌの声に、子供は答えなかった。

 ただ、彼女の服を握る手が緩む。


 明け方、ユグドゥーラの裏手へ辿り着いた。

 リオルが合図を送り、柵が開く。

 中へ入る直前、ダレンが木箱を下ろした。


「俺は、戻る」


 大地は、肩を貸していた老女を見る。


「この人も、ここにいていいか」


 リオルが、警備の者へ説明した。

 すぐに頷く者はいなかった。やがてネイアスが呼ばれ、別の空き部屋を用意すると言った。

 ダレンは深く息を吐いた。


「女王様へ、根の小屋は空になったと伝える。それから、里へ戻るよう、もう一度頼む」


 大地は彼の手を掴んだ。


「無事に帰ってくれ」


 初めて会った町では、互いの名前しか知らなかった。

 今は、その手にできた縄の跡まで覚えていた。

 箱を運ぶ持ち手で擦れた、赤い跡だった。

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