13.根の下の灯り
リオルは、ダレンへ縄を出さなかった。
代わりに、自分が先頭を歩くと言った。
「道を変えたら、分かる」
「それでいい」
二人の後ろを、大地たちは進んだ。
馬車は里に残した。暗い森で車輪を取られるわけにはいかない。荷は水と布、灯り、それからマルディが選んだ道具だけだ。
フランはジャンヌの横を歩いていた。何度も空へ顔を向けるが、頭上は枝が重なっている。
「飛ぶより、こっちで頼む」
大地が言うと、彼女は頷き、水袋を抱え直した。
古い根の世話場は、太い木の根に半ば抱かれた小屋だった。
戸を叩くと、内側から棒を外す音がした。
灯りの下に、家族が三組と、根の世話をする老いたエルフがいる。
その奥から、ダークエルフの老女も顔を出した。
「お前さんたちか」
ドゥラレヴィで、苗を運んでいた人だった。
足元には、布を掛けた木箱がある。
*
「女王様に、後ろの道から出るよう言われてね。ここなら、根を傷めず箱を休ませられると思ったんだ」
老女の前に、世話人が水を置いた。
「ここへ来た時、随分揉めた。箱を見ていなければ、私も戸を開けなかったかもしれん」
エルフの老人は、そう言った。
ダレンが頭を下げる。その動きを見て、リオルが戸口の外へ目を向けた。
「夜のうちに戻ろう。明るくなってから、この人数を動かせない」
ただ、世話人の膝が悪かった。
子供二人も歩き疲れて眠っている。
大地は荷の中の布を出し、運ぶ順番を決めた。マルディの呼ぶ骨の兵が老人を担ぐ。ジャンヌは子供を一人、もう一人は父親が背負う。
木箱は、大地とダレンで持った。
「苗まで運べるのかい」
「置いていけば、取りに戻るでしょう」
老女は、何も言わず持ち手へ布を巻いた。
*
出発を待つ間、マルディは小屋の奥にいた。
土から覗く根の表面を、淡い光が流れている。
「これが、記録にあったやつっすね」
世話人が頷いた。
「森で死んだ小さな生き物の気配が、根に沿って集まることがある。実の育つ場所へ流れ、混じって、やがて区別がなくなる」
「魂、ですか」
大地が聞くと、老人はゆっくり首を傾けた。
「我々は、そう呼んできた。だが、生まれる妖精は死んだ者の続きではない。名前も、記憶も引き継がない」
老女が、箱の布を開いた。
光る種が、さっきより明るかった。
根へ近づけると、光が揺れる。
「この子も、やっと帰ってこられたんだね」
声が掠れた。
マルディは、手を差し出しかけて止めた。
「自分なら、流れの近くへ霊を導くことはできるかもしれないっす。でも、元の誰かを戻せるって意味じゃない。そこは、間違えちゃいけないっすね」
大地は頷いた。
コアへ戻るマルディの不死とは、仕組みも行き先も違う。
苗の根に、布を掛け直した。
*
夜道は、来た時より長く感じた。
子供が一人、途中で目を覚ました。
自分を背負うジャンヌの肩越しにダレンを見て、顔を隠す。
「大丈夫だ。道を教えに来てくれた」
ジャンヌの声に、子供は答えなかった。
ただ、彼女の服を握る手が緩む。
明け方、ユグドゥーラの裏手へ辿り着いた。
リオルが合図を送り、柵が開く。
中へ入る直前、ダレンが木箱を下ろした。
「俺は、戻る」
大地は、肩を貸していた老女を見る。
「この人も、ここにいていいか」
リオルが、警備の者へ説明した。
すぐに頷く者はいなかった。やがてネイアスが呼ばれ、別の空き部屋を用意すると言った。
ダレンは深く息を吐いた。
「女王様へ、根の小屋は空になったと伝える。それから、里へ戻るよう、もう一度頼む」
大地は彼の手を掴んだ。
「無事に帰ってくれ」
初めて会った町では、互いの名前しか知らなかった。
今は、その手にできた縄の跡まで覚えていた。
箱を運ぶ持ち手で擦れた、赤い跡だった。




