14.開けておく道
眠ったのは、どれくらいだっただろう。
大地は肩を揺すられて目を開けた。
ジャンヌが、戸口に立っている。
「動いた」
それだけで分かった。
外では、ネイアスが警備の者へ指示を出していた。ジーリアの隊が、古い道を世界樹へ向かっているという。
避難した家族は、まだ空き家で眠っている。
「道の先は?」
「根の張り出す狭い場所がある。そこで止める」
ネイアスの返事を聞き、大地は昨夜の小屋を思い出した。
壁のような根に挟まれた道。荷を背負って歩くだけでも、人とすれ違うのが難しかった。
「両側から挟めば、逃げ場がなくなる」
「通せば、世界樹まで来る」
大地は黙った。
ネイアスは、こちらを見た。
「お前たちは、もう出てもいい。助けてもらった者には、私から礼を伝える」
大地は、空き家の方を振り返った。
戸口へ出たフランが、羽の先で目を擦っている。
*
仲間を集めて話した。
戦いへ近づくことになる。止められる保証はない。退く時は全員で退く。
大地は、それを最初に言った。
「俺は、道を一つ空けたい。押し合った時、潰されずに戻れる場所を作る」
「敵も逃げるっすね」
「ああ」
マルディは帽子を被った。
「じゃあ、追いかけないことを、先に約束してもらわないと」
大地はネイアスへ頼んだ。
里長はすぐには答えなかったが、こちらへ向けて武器を下ろした者を撃たない、と警備の前で告げた。
それが全員の納得を意味するわけではない。
昨日、肩を射られた男は、大地と目を合わせなかった。
*
古い道には、すでに双方の兵がいた。
葉の間を抜けて、矢が飛ぶ。
ジャンヌが剣を抜き、大地の前へ出た。ジレンツは大地の右手で盾の姿になる。戦いが始まってから、その声は聞こえなかった。
「マルディ、右の坂を隠せるか!」
「長くは無理っす!」
幻の枝葉が重なった。
矢を止めはしないが、狙いを定めにくくする。その間に大地は地面の窪みへ低い足場を出した。
段差を埋め、人が一人ずつ抜けられる道を作る。
『ここを通れます!』
ラステリが、落ちた枝を押しやった。
大地は両側へ向かって叫ぶ。
「怪我人を出せ! この道では射つな!」
すぐに信じる者はいなかった。
最初に下りてきたのは、片足を引きずるダークエルフだった。追ってきたエルフの兵が弓を上げる。
ジャンヌが振り向いた。
「約束したはずだ!」
弓が、少し下がる。
その隙に、ラステリが怪我人の足元を示した。
フランは道の下で、空いている場所を声で知らせている。歌う余裕はなかった。大地も、無理に歌えとは言わなかった。
*
ジーリアを見つけたのは、道の中央だった。
護衛を連れ、足を止めた兵へ何か命じている。
ダレンがそばにいた。
「女王様、下へ出られます。今なら」
「私は、まだ進める」
大地は盾を上げたまま近づいた。
「この先に行っても、話は終わりません!」
ジーリアが、こちらを見た。
手には細身の剣があった。刃に、泥と葉が付いている。
「柵を越えなければ、話す席にも着かせない。そういうことだったのよ」
「会った。あんたも、机の前にいた!」
大地の声が荒れた。
昨日フランへ向いた矢を、思い出した。
「足りなかったなら、もう一度座ればいい。子供の頭を越して矢を射た後で、何を取り戻すんだ!」
ジーリアの顔から、表情が消えた。
「そこを、退きなさい」
ジャンヌが大地の横へ立った。
「退けない」
剣の先を、下へ向けたまま言う。
「私の仲間も、あの里にいた。お前の兵が射った」
ジーリアが息を吸った。
木々の上で、風が鳴った。
次に踏み込んできた彼女の刃を、ジャンヌが正面から受けた。




