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『転生したら最弱ダンジョンマスターになったので、サーカスを始めたいと思います!』  作者: フミンチュ
5章 相克の双里―ユグドゥーラ/ドゥラレヴィ

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12.矢の届く距離

 最初の矢は、柵の支柱に刺さった。

 木が裂ける音を聞いた瞬間、大地は走り出した。


「フラン、家へ戻れ!」


 広場の端で立ち尽くした彼女を、ジャンヌが抱き上げる。次の矢が、二人のいた場所へ落ちた。

 大地の視界が狭くなった。

 誰が射た。

 柵の外の影を探して、右手が上がる。


『マスター! まだ人がいます!』


 ラステリの声で、大地は足元を見た。

 井戸へ水を汲みに出た子供が、桶を抱えてしゃがみ込んでいる。

 大地は柵の前へ低い壁状の舞台を出した。矢を止めるための厚みを取ると、コアの奥からDPが目に見えて削れる。


「今だ、下がれ!」


 子供の腕を引き、家と家の間へ飛び込む。

 背中で、木を叩く音がした。


     *


 ドゥラレヴィの一隊が、里へ通じる道を押さえていた。

 ネイアス側の弓も撃ち返している。

 大地は子供を母親へ渡すと、警備の男へ掴みかかりそうになった。


「ここで射ち合うな! 家があるんだぞ!」

「下がれば、中まで入られる!」


 その声も震えていた。

 大地は歯を食いしばり、手を下ろす。男の肩には、血が滲んでいた。


「じゃあ、家の人を先に下げる。通る場所を一つ空けてくれ」


 ネイアスが来て、広場の奥へ退くよう住民に指示を出した。

 リオルが戸を叩いて回る。大地たちは舞台用の布を持ち出し、道の端へ張った。見通しを切るためだ。矢を防ぐ力はない。


「この内側を、頭を低くして進んで!」


 マルディが骨の兵を二体呼び、倒れた荷を持ち上げる。

 フランは空き家の戸口で、来た人を数えていた。


「とと、ひとり、足りない」

「誰だ」

「小さい子と、一緒にいた、おじいちゃん」


 彼女は指を折り直した。

 ジャンヌが家の列を振り返る。


「私が行く。お前は、この道を守れ」


 大地は頷いた。追いたい足を、そこで止めた。


     *


 矢の音が遠ざかったのは、空が暗くなる頃だった。

 敵の一隊は柵を破れず、森へ退いた。追う者をネイアスが止めた。

 広場には折れた矢が落ち、明かりを持った里人が名前を呼び合っている。

 ジャンヌが老人を背負って戻ってきた。足を捻り、物置から出られなかったという。

 大地は老人が下ろされるのを待ってから、彼女の腕を見た。


「血が」

「掠っただけだ。先に、その人の足を」


 そう言われても、腹の底の熱は消えなかった。

 仲間へ矢が向いた。子供へも。

 大地は、血の付いた袖から目を離せなかった。


「大地」


 ジャンヌが、彼の手首を掴んだ。


「怒るなとは言わない。だが、その顔で一人で行くな」


 大地は息を吐いた。吐いたつもりで、うまく出なかった。


「……ああ」


     *


 夜更け、白い布を棒へ結んだ男が柵へ来た。

 ダレンだった。

 大地は、警備の者と共に外へ出る。ジャンヌも付いてきた。


「俺は、射ってない」


 ダレンの最初の言葉だった。

 それから自分の口を、手で覆った。


「……違う。そんなことを、言いに来たんじゃない」


 大地は、返事をしなかった。


「女王様は明日、世界樹へ続く古い道を通る。今日の一隊も、そちらへ集め直すそうだ」

「それを、なぜ俺に」

「道のそばに、古い根の世話場がある。里の者が、そこにも避難していると聞いた」


 ネイアスの顔が変わった。

 広場の裏から抜けた家族の行き先だった。


「今なら、まだ間に合う。女王様も、子供を狙わせるつもりはない。だが、そこにいると知らない者が通る」

「今日も、知らなかったで済ませるのか」


 大地の声が低くなった。

 ダレンは言い返さなかった。


「俺が案内する。疑うなら、手を縛ってもいい」


 ジャンヌが大地を見た。

 大地は拳をほどき、警備の男へ向き直る。


「ネイアス。人を迎えに行きたい。道を知っている者を、一人付けてください」


 返事を待つ間、ダレンは、白い布を下げずに持っていた。

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