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『転生したら最弱ダンジョンマスターになったので、サーカスを始めたいと思います!』  作者: フミンチュ
5章 相克の双里―ユグドゥーラ/ドゥラレヴィ

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11.紙に残った名前

 女王が差し出した紙には、食べ物の数が書かれていた。

 粥を三椀。薪を二束。乾いた布。

 その下へ、違う筆跡で短く付け足してある。


 生まれたら、この子には外を見せたい。


 大地は、指が紙へ触れないようにして読んだ。


「母の字よ」


 ジーリアは、机の端を押さえていた。


「匿った家の者が残してくれた。私が生まれる前に書いた、これだけ」


 彼女の声に、昨日までの棘はなかった。

 ネイアスが持参した記録を開く。戦いの経緯を記した紙には、ダークエルフの家々を包囲したことが書かれていた。

 女を引き渡せ。

 家の者が拒み、矢が放たれた。

 誰の矢が先だったのか、その頁には書いていない。


「里では、向こうが先に武器を取ったと教わりました」


 リオルの声がした。

 ネイアスは、開いた頁を閉じなかった。


「私も、そう聞いた」

「記録があったのに」

「あった。読まなかったことを、知らなかったとは言えない」


 護衛のエルフが顔を背けた。

 大地は何も言わず、次の頁を待った。


     *


「我々の側が、その女性を追い詰めた」


 ネイアスは、机に両手を置いた。


「この記録を里へ持ち帰り、隠さず伝える。道についても、世話人たちを含めて話す。昨日の訪問案を、最初の一度として受けてほしい」

「その後は?」

「帰還して暮らす人数や場所は、双方の者を交えて決めたい」

「何年かかるの」


 ジーリアの問いに、ネイアスは詰まった。


「ここまで待った。あなたたちが話し合っている間に、あちらの里で生まれ、あちらの土に埋められた者もいる」

「だからといって、今の家を壊してよいことにはならない」

「私たちの家は、壊してよかったのね」


 大地は、ジーリアへ身体を向けた。


「よくなかった。今、見た記録のことは、俺も忘れません」

「なら――」

「だから、同じことを始めないでほしい」


 彼女の目が細くなった。

 大地の言い方が、気に入らなかったのだろう。自分でも、口にした途端に平たい言葉になった気がした。

 それでも、引っ込められなかった。


「昨日、パンを配っていた人たちを、ここへ連れてくるんですか。剣を持たせて」

「彼らは、帰りたいと願っている」

「戦いたくない人にも、そう言える?」


 ジーリアが立った。

 椅子が地面へ倒れ、護衛が拾おうとする。彼女は手を出して止めた。


「あなたの仲間は、あなたと来ると決めた。私の里の者には、決める力がないと言うの?」


 大地は立ち上がらなかった。


「決めるために、ほかの道があると伝えてほしい」


 ジーリアは、母の紙を丁寧に畳んだ。

 それを懐へ収め、倒れた椅子を自分で起こす。


「日没までよ」


     *


 会談が終わっても、大地は机の前を離れられなかった。

 ジャンヌが水筒を置く。


「言い方が、ほかにあったかな」

「あるかもしれない。だが、分かれば必ず聞いてもらえるものでもない」


 彼女は、女王が帰った道を見た。


「私も、一度決めたことを変える時、腹が立つ。自分が間違ったと認める前に、止めた相手へ」

「お前も?」

「私を、何だと思っている」


 大地は少しだけ笑い、すぐ口元を引き結んだ。

 ダレンが残っていた。手紙を受け取るためだ。


「里へ戻ったら、子供たちを広場に集めないでください。家から離れるなら、こちらの道を避けて」

「……本当に、始まると思うか」

「分かりません。でも、始まってからでは遅い」


 ダレンは拳を握った。

 それから、母の紙が置かれていた場所を見る。


「俺は、あの方が里を守ってきたのを知っている」

「ええ」

「だから、今度は俺からも言う。剣を取れない者を、先に逃がそうと」


 彼は手紙を受け取って走り出した。


 日が傾いた頃、ユグドゥーラへ戻った大地は、馬に水を飲ませていた。

 森の奥で角笛が鳴る。

 短い音が、二度。

 入口へ走る警備の足音を聞き、大地は桶を置いた。

 ネイアスが、まだ開かれていない柵の前にいた。

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