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『転生したら最弱ダンジョンマスターになったので、サーカスを始めたいと思います!』  作者: フミンチュ
5章 相克の双里―ユグドゥーラ/ドゥラレヴィ

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7.女王からの招待

 玉を箱へ戻すと、木の底で乾いた音がした。

 さっきまで競うように手を叩いていた子供たちが、広場の入口を見ている。大地は箱の蓋を閉めた。


「片付けを頼む。ジャンヌ、一緒に来てくれ」

「ああ」


 ネイアスに続いて柵へ向かう。リオルも来た。

 外に立つ使者は一人だった。腰に剣があるが、手は離している。大地を見ると、懐から二通目の書状を出した。


「ドゥラレヴィの女王、ジーリア様より。ソル・フロールの団長殿に」


 封を切る前に、ネイアスが自分宛ての紙を畳んだ。


「三日後の日没までに、世界樹へ通じる道を開けよ、とある」

「公演への招待も、その話ですか」

「お読みになれば分かる」


 使者の答えは硬かった。

 大地の書状には、公演を望むこと、その前に直接会いたいことが記されていた。里へ入る許可と、道案内を明朝ここへ寄越すという言葉もある。

 末尾の名前だけ、筆圧が強い。


「ダレンという人は、無事に帰りましたか」


 使者が顔を上げた。


「ああ。針を届けるより先に、歌と骸骨の話をしていた」

「それならよかったっすね」


 ここにはいないマルディの声が、頭の中で勝手に聞こえた。

 大地は紙を折った。


「伺います。ただし、公演は話を聞いてから決めたい」

「そのように伝える」


 使者はネイアスにも一礼した。返礼を待ってから、森へ去っていく。

 足音が消えるまで、誰も柵を閉めなかった。


     *


「止めはしない」


 空き家へ戻る途中で、ネイアスが言った。


「だが、こちらの警備や道筋を伝えないでもらいたい」

「里を攻める手伝いはしません。向こうから何を聞いても」

「……向こうで、こちらの味方だとも言わないのだな」


 大地は頷いた。


「俺たちは、ここで公演をさせてもらった。それは隠しません」


 ネイアスは唇を結んだ。納得できないのかもしれない。それでも、里の外までの案内は付けると言った。

 大地が礼を言うと、彼は広場の方を見た。


「子供たちは、明日もお前たちがいると思っている」


 それには、すぐ返せる言葉がなかった。


     *


 空き家では、夕食が冷めかけていた。

 フランが大地の椀を両手で守っている。マルディは、その横で湯気の消えた鍋を覗いていた。


「使者さん、怖い話だったっすか」

「期限が付いた」


 大地は聞いたことを全員に話した。

 フランの羽が、身体の方へ寄る。


「けんかになる?」

「ならないように話している。けど、まだ分からない」


 大地は椀を受け取り、彼女の隣に座った。


「明日は、もう一つの里へ行く。嫌だったら言っていい」

「わたしも行く。歌、待ってる子がいるんでしょ」


 ダレンが言ったことを覚えていた。

 ジャンヌは食べ終わると、荷の紐を点検し始めた。大地も手を伸ばす。


「公演の話だけでは済まないだろうな」

「ああ。だからって、お前を交渉の盾にはしない」

「私も、そのつもりで来たわけではない」


 彼女は緩んだ結び目を解いた。


「人を逃がす時は、荷を捨てる。あらかじめ決めておいた方が迷わない」


 大地は一番上の箱を見た。

 初めてラステリが立った、あの小さな舞台から持ち続けてきた道具もある。


「……分かった。馬のそばは、常に空けておく」


     *


 皆が休んだあと、大地は外へ出た。

 世界樹の枝が月を隠している。隣に立ったジレンツが、腕を組んだ。


「他所の争いを背負いきれると思うなよ」

「思ってない」

「なら、なぜ行く」


 大地は、昼にジャンヌが立った広場へ目をやった。


「向こうの客の顔も見ておきたい。それから、逃げるにしても決める」


 ジレンツはしばらく黙っていたが、やがて指輪の姿へ戻った。

 大地は戸に手をかけ、足元を見た。

 小さな木の実が、一つ落ちている。

 ダレンからもらった袋の口が、運ぶ途中で緩んだのだろう。拾って、指の間で土を払った。


 翌朝、荷車の脇に来たリオルは、挨拶を二度言いかけた。

 最後に、こう言った。


「帰りも、この道を使っていい」


 大地は御者台から頷いた。


「ありがとう。向こうの公演が決まったら、伝えます」


 返事はなかった。

 けれど柵の内側で、リオルは馬車が見えなくなるまで立っていた。

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