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『転生したら最弱ダンジョンマスターになったので、サーカスを始めたいと思います!』  作者: フミンチュ
5章 相克の双里―ユグドゥーラ/ドゥラレヴィ

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3.二つの帰り道

「これから話を聞きたいんです。二人とも」


大地の言葉に、二人の旅人は黙った。

広場には、荷車の軋む音だけが続いている。


「……私はリオル。ユグドゥーラへ戻るところだ」


エルフが先に名乗った。

続いて、褐色の肌の男が短く言う。


「ダレン。ドゥラレヴィの者だ」


「大地です。サーカス団、ソル・フロールの団長をしています」


大地は椅子を二つ下ろした。

無理に並べず、少し間を空ける。

自分も、その前に腰を下ろした。


「森で、何が起きているんですか」


リオルの視線が、ダレンから大地へ戻る。


「里長のネイアス様が、出入りの確認を厳しくしている。知らない一団を、そのまま里へ通すわけにはいかない」


「だから、何をしに来たのか確かめたかった?」


「ああ。舞台で見たもの以外に、何を運んでいるのかも」


背後の荷台には、幕や木箱が積んである。

その隅で、マルディが帽子を押さえた。


「骨まで数えられそうっすね……」


大地は軽く手で制し、話を続けた。


「警戒している相手は、ドゥラレヴィですか」


リオルは頷いた。


「世界樹を取り戻すと言っている。だが、あそこには今、私たちの家がある」


ダレンの顔が強張った。


「俺たちには、帰ることさえ認めないのか」


「それを私一人に言われても、答えられない」


声は静かだった。

けれど、膝の上の手は硬く握られている。


「私にも、里で待っている家族がいる」


ダレンが何か言いかけた。

大地は、その前へ言葉を挟んだ。


「昔のことは、どこで聞けますか」


二人の目が向く。


「どうして一緒に暮らせなくなったのか。まだ、そこを知らないんです」


リオルが長く息を吐いた。


「里の者に、話を聞くといい。ネイアス様へ取り次げるかは、戻って確かめる」


「俺も、里へ戻って話す」


ダレンが言う。


「勝手に招くわけにはいかない。ただ、子供たちに公演を見せたいと思った。それは本当だ」


大地は頷いた。

二人とも、里のすべてを決められる立場ではない。

それでも、暮らす者の顔は少し見えた。


*


道については、二人の話が重なる部分もあった。


大地の地図へ、リオルが指を置く。


「町を出て、この街道を進む。森へ入る手前までは同じだ。そこから、道が分かれる」


「ユグドゥーラへは?」


「こちらだ。入口で名を伝える。通してもらえる保証はないが、私も一緒に行ける」


ダレンは、もう一方を指した。


「俺はこっちへ帰る。買った物を届けないといけない」


袋の口から、布の包みが覗いている。

彼はそれを押し込み、大地を見た。


「先に向こうへ行くからって、俺たちの話をそこで終わりにしないでくれ」


大地は地図を畳まなかった。

二つの道を、もう一度見た。


「聞いたことを、そのまま全部信じるとも約束できません」


ダレンの眉が動く。


「でも、あなたの話も忘れません。ドゥラレヴィへ行けるかどうかも、確かめたい」


彼はしばらく大地を見てから、頷いた。


「……それでいい」


出発は、明日の朝。

今日はこの町で、約束した公演がある。

二人とも用事を済ませ、夕方にまた広場へ来ることになった。


*


「疲れたか?」


支度へ戻る大地に、ジャンヌが聞いた。


「少し。言葉を選ぶのは、舞台より難しいな」


「私も、取り戻したいという話だけなら頷いていたと思う」


彼女は空の椅子を持ち上げた。


「だが、あのエルフにも家族がいる」


「ああ」


「何も知らないまま、剣を向ける相手を決めなくてよかった」


大地も立ち上がった。


「まず、俺たちの仕事だ」


『はい、マスター!』


ラステリが荷台から跳ねる。

フランも、畳んだ布を抱えて来た。


「とと、これ、ここ?」


「ああ。ジャンヌと一緒に頼む」


朝に試したライオンの姿は、今日の演目には入れなかった。

変われることと、観客の前で演じられることは違う。

ジャンヌは布を受け取り、ラステリと合図を確かめた。


*


夕方。

広場には、昨日より多くの人が集まった。


「さぁ、開演だ!」


大地が右手を掲げる。

舞台の灯りに、子供たちの顔が浮かぶ。


ラステリが玉を投げる。

今度は、一つを大地へ返した。

大地が受け損ねかけ、大げさに両手を回す。

やっと掴んだ玉の上へ、ラステリがもう一つ乗せた。


「まだ来るのか!」


笑い声。

最前列の子供が、膝を叩く。


マルディは帽子を追いかけ、ついに両手で押さえ込んだ。

得意げに掲げる。

すると、その頭には別の帽子が乗っていた。


「どっから来たんすか、これ!」


ジャンヌが真顔で、自分の持っていた帽子も差し出す。

骸骨の道化が、がくりと膝をついた。


客席の端で、ダレンが吹き出した。

少し離れた場所では、リオルも口元を緩めている。


最後に、フランが歌った。

通りを歩いていた人が立ち止まり、荷台に腰かけていた商人が顔を上げる。

歌が終わると、広場いっぱいに拍手が返った。


大地は仲間たちと頭を下げた。

指輪の奥に、温かな感情が流れ込んでくる。


*


終演後も、二人が並んで話すことはなかった。

ダレンは先に広場を離れ、リオルは明朝の待ち合わせを確かめて宿へ戻る。


「……同じ舞台を見たくらいじゃ、変わらないっすね」


マルディが、客席を見て言った。

大地は椅子を畳む。


「でも、二人とも今日も来てくれた」


「そうっすね」


それ以上のことは、まだ分からない。

大地は地図を荷物の上へ置いた。

明日は、紙の上の線を実際に辿る。


片付けの途中、ダレンが戻ってきた。

見慣れない木の実を包んだ、小さな袋を差し出す。


「旅の途中で食べてくれ。里で採れるものだ」


大地が礼を言うと、彼は少し困ったように笑った。


「……俺は、里の子供があんなふうに笑うところを見たいだけなんだ」


その言葉を残し、今度こそ去っていった。


大地は袋の口を結んだ。

地図と一緒に、落とさない場所へしまう。


ジャンヌが隣で、荷台の留め具を閉めた。


「行こう。まずは、見てからだ」


「ああ」


森へ向かう準備は、整った。

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