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『転生したら最弱ダンジョンマスターになったので、サーカスを始めたいと思います!』  作者: フミンチュ
4章 獣帝国―ヴォル・ガイウス

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18.この国を返せ

金色の剣が、舞台の光を反射した。


ゾル・グリードが階段を下りる。

豚の獣人の顔に、冷たい笑みが浮かんでいた。


「父親と同じ末路……だと」


ジュラルの拳が震える。


ジャンヌも剣を握り直した。

左腕には、ジレンツの盾。


「お前が、父と母を……!」


「だからどうした」


グリードは足を止めた。


「王座を守れなかった。それだけの話だ」


ジュラルが踏み出す。


「ジュラル!」


大地が呼んだ。


「横を見ろ!」


回廊の影。

黒装束の男が、短剣を構えていた。


ジュラルが身を引く。

飛んできた刃が、石畳へ突き刺さった。


もう一人。

反対側の柱の陰から、影が動く。


最初の襲撃で、倒れずに残っていた暗殺者たちだった。


「……最後まで、これか」


ジャンヌが低く言う。


グリードは笑った。


「金で買えるものは、すべて使う。当然だろう」


大地は二つの影を見た。


こちらも、消耗している。

マルディの眷属は減り、フランの息も荒い。

長引かせれば、守る場所に穴が開く。


「本隊は近衛を押さえろ! 回廊を抜けさせるな!」


ジュラルの声に、仲間たちが動いた。


大地は舞台の端へ手を添える。


「マルディ、光だけだ。影を消せ」


「それなら、まだいけるっす!」


骸骨の指が鳴る。


柱の周囲に、幻の光が灯った。

隠れていた輪郭が浮かび上がる。


「ラステリ、右! ジャンヌは左!」


『はい!』


分裂体が、右の暗殺者へ跳ぶ。


男は刃を振るった。

一体を避けても、その後ろにもう一体。


顔の前へ。

足元へ。


視線が下がった瞬間、眷属たちが腕へ取りついた。


左では、ジャンヌが盾を前に出していた。


短剣が黒銀の表面を滑る。

彼女は剣で敵の手首を狙い、武器を落とさせた。


レジスタンスの二人が、背後から押さえ込む。


影は、もう隠れる場所を失っていた。


グリードの笑みが消える。


「何をしている! 私を守れ!」


残った近衛兵が動こうとする。

だが、その前には本隊の盾。


眷属。

ラステリ。


崩された列は、戻らなかった。


「金なら出す!」


グリードが叫んだ。


「そこの兵士ども! 反逆者を斬れば、望むだけくれてやる!」


武器を置いた兵士たちは動かない。

一人が、傷ついた仲間を背に庇った。


「……もう、いらない」


声は小さかった。

それでも、中庭に届いた。


グリードが歯を剥く。


「ならば家族も、牢の者も――」


「言わせるか!」


ジュラルが駆けた。


グリードの剣が振り下ろされる。


装飾の多い刃でも、当たればただでは済まない。

ジュラルは横へ避け、腕を掴みにいく。


だが、グリードは剣を引き戻した。

切っ先が白い腕をかすめる。


「くっ……!」


赤い線が走った。


ジャンヌが間に入る。

盾が、次の斬撃を止めた。


「焦るな!」


「分かってる!」


ジュラルは息を吐いた。


分かっている。

けれど、目の前にいる。

父と母を奪った男が。


大地の声が飛ぶ。


「ジュラル、後ろを見ろ!」


振り返る。


負傷した仲間。

震えながら立つ兵士。

歌い続けるフラン。


自分が開けた門から来た者たちが、ここにいる。


「……ああ」


ジュラルが前へ向き直った。


父の背中を追いかけて、五年。

でも、今ここで守るのは。


生きている、この国の人々だ。


「姉さん、ジレンツを貸してくれ」


ジャンヌが敵の剣を盾で外へ押す。


その間へ、マルディの眷属が入った。


「今っす!」


盾が指輪へ戻る。

ジャンヌの手から、ジュラルの手へ。


黒銀の光が、両腕を覆う籠手になった。


ジレンツは、何も言わない。


何を守るか。

それはもう、使う者が決めていた。


「小僧が!」


グリードが眷属を斬り払い、剣を上げる。


大地は、敵の足を見る。

後ろへ逃げるための一歩。


「フラン、あと一度だけ!」


フランが頷く。


息を吸う。

震えた声を、つなぐ。


強い旋律が中庭へ響いた。


ラステリの分裂体が、グリードの顔の前を横切る。


剣先が、そちらへ向いた。


大地が残ったDPで、舞台の端をわずかにせり上げる。


逃げようとした踵が、低い段に当たった。


たった一瞬。

その一瞬へ、ジャンヌが踏み込む。


剣を打ち合わせる。

敵の刃を、上へ弾く。


「ジュラル!」


白い獣人が、空いた懐へ入った。


「この国を――」


踏み込み。


黒銀の拳が、金色の胸当てへ叩き込まれる。


「返せ!」


鈍い音。


グリードの身体が後ろへ飛び、階段の下へ崩れた。

剣が、石畳を滑っていく。


ラステリがその剣を遠ざけた。

眷属と本隊が、倒れた男を囲む。


「……まだ」


グリードが顔を上げる。

息が続かず、言葉が途切れた。


ジャンヌの剣先が、目の前で止まる。


五年分の怒り。

悲しみ。

握る手が、震えていた。


彼女は長く息を吐く。


「お前が奪ったものを、すべて調べる」


刃を引いた。


「私たちだけの恨みで、終わらせはしない」


ジュラルが仲間を見る。


「縛れ。武器も、持ち物も確かめろ」


レジスタンスがグリードを拘束する。

残った近衛兵たちも、一人ずつ武器を下ろしていった。


戦う音が、途切れる。


フランの歌が、静かな余韻になった。


『……勝ちました?』


ラステリが大地の足元へ戻る。


大地は中庭を見渡した。

倒れた者がいる。

痛みに顔をしかめる者がいる。


だから、まだ。


「まずは、手当てだ」


ジュラルが頷いた。


「ああ。それと、牢を開ける」


門を案内した兵士が、顔を上げる。


「弟も……?」


「一緒に探そう」


ジュラルが、その肩へ手を置いた。


大地はようやく、息を吐く。


奪われた城は、取り戻した。


次は。

この城から、帰れなかった人々を迎える番だった。

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