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『転生したら最弱ダンジョンマスターになったので、サーカスを始めたいと思います!』  作者: フミンチュ
4章 獣帝国―ヴォル・ガイウス

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15.守るための盾

 黒い近衛兵たちが、舞台へ迫る。


 揃った足音。

 揃った歩幅。


 フランの歌が響いていても、その列は乱れなかった。


「……止まらねぇな」


 ジュラルが拳を握る。


「全員が戦いたくないわけじゃない」


 大地は答えた。


 歌は、心を引き出す。

 そこにない気持ちを、作るものじゃない。


 バルコニーでグリードが笑った。


「見世物は終わりだ」


 近衛兵の一人が剣を上げる。


 だが。

 その切っ先が向いたのは、舞台ではなかった。


 剣を捨てた兵士。


 弟が捕まったと話していた、あの男だった。


「裏切り者から処分しろ」


 男が後ずさる。


 足元には、自分で置いた剣。

 拾おうとした手が、恐怖で止まった。


「ジレンツ!」


 大地が右手を突き出す。


 黒銀の光。


「ジャンヌ、盾だ!」


 指輪が盾へ変わる。

 ジャンヌが受け取り、兵士の前へ滑り込んだ。


 激突。


 重い音が中庭を揺らす。


「ぐっ……!」


 ジャンヌの靴が石畳を擦った。


 止めた。

 だが、近衛兵はすぐに剣を引く。


 その横から、別の一人が槍を構えた。


「マルディ!」


「了解っす!」


 眷属たちが飛び出す。


 槍の柄へしがみつき、足元へ絡む。

 近衛兵が蹴り払う間に、ジャンヌは兵士を背後へ押した。


「下がれ!」


 男はよろめきながら舞台の脇へ逃れた。


 大地が声を張る。


「武器を置いた奴は、こっちへ!」


 兵士たちが動く。


 だが。

 近衛兵も、それを追った。


「ジュラル、左を止めろ! ラステリは右!」


「おう!」


『はい!』


 ジュラルが近衛兵の槍を横から押し退ける。

 分裂したラステリたちは、右側へ回り込んだ。


 小さな身体が跳ねる。


 顔の前。

 足元。

 肩の上。


「邪魔だ!」


 振られた剣を避け、また跳ぶ。


 倒すためじゃない。

 追わせないために。


 その間にも、盾へ剣が叩きつけられる。


「大地!」


 ジャンヌが叫んだ。


「このままでは押される!」


 大地は周囲を見る。


 舞台。

 逃れてきた兵士たち。

 仲間の位置。


 そして、回廊へ続く通路。


「……守る場所が広すぎる」


 小さく呟く。


 全員を囲めば、こちらが身動きできなくなる。


「マルディ、舞台の左側へ集めろ! 眷属で前を固める!」


「分かったっす!」


「フラン、ジャンヌたちを支えてくれ!」


「うん、とと!」


 歌が変わる。


 柔らかな旋律に、力強い響きが重なった。

 ジャンヌが盾を押し返す。


 ほんの一歩。


 それでも、近衛兵の足が止まった。


 大地は、その隙を逃さなかった。


「ジュラル、ジャンヌの横へ!」


「任せろ!」


 ジュラルが飛び込み、近衛兵の剣を持つ腕へ拳を叩き込む。


 剣先が逸れる。


「今だ、下がれ!」


 ジャンヌが盾を構えたまま後退する。


 眷属の列が、二人の前へ入った。


 ようやく。

 守る場所が、一つになる。


 大地が息を吐いた。


「……よし」


「何が、よしだ」


 グリードの声。


「逃げ場が減っただけではないか」


 大地は見上げなかった。


 城の外から、戦いの音が聞こえる。

 本隊は動いている。


 だが。

 まだ、中庭まで来ていない。


「門は……」


 さっきの兵士が、震える声で言った。


 大地が振り返る。


「正門は、内側から閉ざされている」


「開けられるか?」


 男が息を呑む。


 大地は続けた。


「戦えとは言わない。道だけ教えてくれ」


 男は回廊を見た。


 近衛兵の列。

 その向こう。


「……左の回廊を抜ければ、門の内側へ出られる」


 ジャンヌが頷く。


「合っている」


「なら、そこを開ける」


 大地はジュラルを見る。


「本隊を迎えに行ってくれ」


「ああ!」


 ジュラルが笑った。


「待たせすぎだしな!」


 その前に、黒い鎧が立ちはだかる。


 長槍を持った近衛兵。

 回廊への道を塞いでいる。


 大地はジャンヌへ手を伸ばした。


「ジレンツを」


 ジャンヌが盾を見る。

 そして、眷属たちの列を確かめた。


「……分かった」


 黒銀の盾が、光へ変わる。


 ジュラルの手に渡った瞬間。

 長い槍になった。


 ジレンツは何も言わない。


 ただ。

 ジュラルの手に合わせ、その柄を形作った。


「ラステリ、足元!」


『はい!』


 分裂体が近衛兵の脇を跳ねる。


 敵の視線が落ちた。


 ジュラルが踏み込む。


 槍の柄同士がぶつかる。

 フランの歌に背中を押され、ジュラルが敵の槍を外へ弾いた。


「どけぇっ!」


 肩から体当たり。


 黒い鎧が傾く。

 回廊への道が開いた。


「今だ!」


 大地が叫ぶ。


 ジュラルが走る。


 その背中へ、兵士が一人続いた。


 弟のことを話していた、あの男だった。


「俺が案内する!」


 大地は、一瞬だけ目を見開いた。


 男の手に剣はない。


 それでも。

 その足は、もう止まっていなかった。


 ジャンヌが自分の剣を構える。


「ここを守ればいいんだな」


「ああ」


 大地が頷く。


「道は開いた」


 近衛兵たちが隊列を組み直す。


 舞台の前へ。

 黒い壁が迫る。


 大地は仲間を見る。


「次は、あいつらが戻る場所を守るぞ」


 フランが歌う。

 ラステリが跳ぶ。

 マルディの眷属が踏みとどまる。


 城を取り戻すための道。


 その入口には、まだ。


 ソル・フロールの舞台があった。

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