↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『転生したら最弱ダンジョンマスターになったので、サーカスを始めたいと思います!』  作者: フミンチュ
4章 獣帝国―ヴォル・ガイウス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/64

13.決行の日

 夜。


 帝都の空には雲がかかり、月明かりは弱い。


 大地たちは旧水路の入口に集まっていた。


 大地。


 ラステリ。


 フラン。


 マルディ。


 ジュラル。


 ジャンヌ。


 そして。


 大地の指には、ジレンツ。


「最後に確認する」


 大地が全員を見る。


「旧水路から城内へ入る。中庭を確保したら、そこで舞台を展開する」


「その後、俺たちレジスタンスの本隊が動く」


 ジュラルが続ける。


「ああ」


「城内の兵の目を全部、中庭へ向けるんだな」


「そうだ」


 マルディが笑う。


「相変わらずアニキらしい作戦っすね」


「褒めてる?」


「半分くらいは」


「半分かよ」


 フランが大地の袖を引っ張る。


「とと」


「ん?」


「いっぱい歌っていい?」


「ああ」


 大地は笑った。


「今日は思いっきりやれ」


「うん!」


 ラステリも身体を揺らす。


『僕も頑張ります!』


「頼むぞ」


 ジャンヌは黙って帝城の方を見る。


 その表情には、いつもより少しだけ緊張があった。


「大丈夫か?」


 大地が聞く。


「誰に言っている」


「じゃあいい」


「……お前こそ」


「ん?」


「前に出すぎるな」


 大地が少し驚く。


「俺は戦わないよ」


「そういう意味じゃない」


 ジャンヌはそれ以上何も言わなかった。


「行くぞ」


 一行は水路へ入った。


 一度偵察しているだけあって、迷いはない。


 鉄格子もすでに外してある。


 暗い水路を進み。


 分かれ道を抜け。


 やがて。


 中庭へ続く排水口に到着した。


「ここから先は敵地だ」


 大地が小声で言う。


 全員が頷く。


 ジャンヌが先に外を確認する。


「……誰もいない」


「よし」


 蓋を外す。


 一人ずつ外へ出た。


 静かな中庭。


 噴水。


 石畳。


 回廊。


 以前見たままの景色。


 だが。


 大地は眉をひそめた。


「……静かすぎる」


 ジャンヌも剣へ手を伸ばす。


「私もそう思う」


 次の瞬間。


 ヒュッ。


 夜の空気を切る音。


「大地!」


 ジャンヌが大地を突き飛ばした。


「うわっ!」


 直後。


 ジャンヌの剣が何かを弾く。


 甲高い金属音。


 地面へ落ちたのは。


 一本の黒い短剣だった。


「……暗殺者」


 ジャンヌが低く呟く。


 回廊の影。


 黒装束の男たちが姿を現す。


 一人。


 二人。


 三人。


「待たれてたか」


 大地が立ち上がる。


「アニキ!」


 マルディが前へ出ようとする。


「待て」


 ジャンヌが制した。


「大地」


「ん?」


「お前は舞台を作れ」


 ジャンヌが剣を構える。


「ここは私たちが止める」


「でも」


「お前がやるべきことは、戦うことじゃないだろう」


 その言葉に。


 大地は一瞬だけ黙った。


 ジャンヌの横顔を見る。


 迷いはない。


「……頼んだ」


「ああ」


 短い返事。


 それだけで十分だった。


「ジュラル!」


「おう!」


「マルディ!」


「了解っす!」


 ジュラルが前へ。


 マルディが眷属を呼び出す。


 ラステリも分裂した。


 暗殺者たちが一斉に動く。


 ジャンヌが迎え撃つ。


「行け!」


 大地は中庭の中央へ走った。


 噴水の前。


 城の中心。


 大地は立ち止まる。


 兵士たちの声が聞こえてくる。


 足音。


 警報。


 鐘。


 次々と城内から兵士が集まり始める。


「囲まれるぞ!」


 ジュラルが叫ぶ。


「それでいい!」


 大地は答えた。


「は!?」


「最初からそのつもりだ!」


 大地が指輪に意識を集中させる。


 空間が揺らぐ。


 石畳の上を。


 赤と金の光が走る。


「な、なんだ!?」


 兵士たちが立ち止まる。


 旗。


 照明。


 装飾。


 何もなかった中庭が。


 一瞬で。


 舞台へ変わっていく。


「敵城のど真ん中で……」


 ジュラルが笑う。


「本当にやるのかよ!」


「やる!」


 大地が声を張る。


「フラン!」


「うん!」


 白銀の翼が広がる。


 フランが舞台中央へ。


「ラステリ!」


『はい!』


 分裂したラステリたちが舞台を跳び回る。


「マルディ!」


「派手にいくっすよ!」


 眷属たちが隊列を組み。


 幻術の光が夜空へ広がった。


 兵士たちは。


 完全に足を止めていた。


「な……なんなんだ、こいつら」


「サーカス……?」


「こんな時に?」


「違う」


 大地が前へ出る。


 兵士たちを見る。


 怯えている者。


 戸惑っている者。


 剣を握りながら。


 それでも。


 こちらへ踏み込んでこない者。


 大地は息を吸った。


「さぁ――」


 フランが笑う。


 ラステリが跳ねる。


 マルディが腕を広げる。


 ジュラルが拳を構える。


 ジャンヌも。


 大地のすぐ横へ戻ってきた。


 暗殺者の一人が倒れている。


 ジャンヌの頬には小さな傷。


「大丈夫か?」


「余計な心配をするな」


「血、出てるぞ」


「かすり傷だ」


「そっか」


 ジャンヌが呆れたように息を吐く。


「早く始めろ」


「ああ」


 大地は笑った。


 そして。


「開演だ!」


 瞬間。


 フランの歌声が中庭へ響いた。


 柔らかく。


 強く。


 城全体を包むように。


 兵士たちの表情が変わる。


「……なんだ」


 一人の兵士が呟く。


「この歌……」


 剣を握っていた手が少し緩む。


 別の兵士が俯く。


「俺たちは……」


「何やってるんだ?」


「黙れ!」


 隊長らしき獣人が怒鳴った。


「敵だぞ! 斬れ!」


 だが。


 動かない。


 フランの歌は。


 命令しない。


 操らない。


 ただ。


 心の奥にある感情を。


 少しだけ。


 強くする。


 恐怖。


 迷い。


 怒り。


 そして。


 本当は。


 戦いたくないという気持ち。


「……俺の家族も」


 一人の兵士が小さく言った。


「税で食うものがなくなった」


 別の兵士が続ける。


「俺だってそうだ」


「グリード様に逆らえば……」


「でも……」


 ざわめきが広がる。


 ジャンヌが驚いたように兵士たちを見る。


「大地」


「ん?」


「これも、狙っていたのか?」


「半分くらい」


「半分?」


「人の心までは読めない」


 大地は兵士たちを見る。


「でも」


 一歩。


 前へ出る。


「敵かどうかは、自分で決めてもらう」


 兵士たちの視線が大地へ集まる。


「俺たちが倒しに来たのは」


 大地は城を見上げた。


「この国じゃない」


 一拍。


「この国から笑顔を奪った奴だ」


 静寂。


 その時。


 城の上階で。


 ゆっくりと扉が開いた。


 大地が顔を上げる。


 バルコニー。


 そこに。


 一人の男が立っていた。


 豪奢な服。


 獣人とは思えないほど整えられた身なり。


 そして。


 こちらを見下ろす冷たい目。


 ジャンヌの表情が変わる。


「……ゾル」


 ジュラルが拳を握る。


「グリード……!」


 男は中庭を見渡した。


 舞台。


 兵士。


 レジスタンス。


 そして。


 大地。


 やがて。


 ゆっくりと口元を歪めた。


「随分と」


 低い声が響く。


「騒がしい客が来たものだな」


 大地は黙って見上げる。


 ついに。


 舞台へ。


 主役が現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。