11.奪還への一歩
ダンジョンを攻略した翌日。
大地たちは再び帝都へ戻っていた。
「……相変わらずだな」
大地は街を歩きながら、小さく呟く。
通りを行き交う人々の表情は暗い。
以前、公演と食料の配布を行ったことで多少の活気は戻った。
それでも。
街全体を覆う重苦しい空気までは消えていない。
「ゾル・グリードがいる限り、根本は変わらない」
ジャンヌが言った。
「ああ」
大地は帝城を見上げる。
帝都の中央。
巨大な城壁に囲まれた、獣帝国の城。
「だから、まず調べる」
「乗り込まないのか?」
ジュラルが不満そうに聞く。
「乗り込んで勝てるなら、とっくに終わってる」
「うっ」
大地の言葉にジュラルが黙る。
マルディが肩をすくめた。
「アニキの言う通りっす。敵の数も分からない状態で突っ込むのは、ただの自殺っすよ」
「じゃあ、どうする?」
「偵察だ」
大地は短く答えた。
その日の夜。
大地、ジャンヌ、マルディの三人は帝城近くへ向かった。
ラステリ、フラン、ジュラルはレジスタンスの拠点で待機。
ジレンツは大地の指輪となっている。
「どうして私なんだ?」
ジャンヌが小声で聞いた。
「この街を一番知ってるからだ」
「ジュラルでもいいだろう」
「あいつは見つかったら殴る」
「……否定できないな」
ジャンヌがわずかに笑う。
大地もつられて口元を緩めた。
「それに」
「それに?」
「お前なら冷静に動ける」
ジャンヌが一瞬だけ黙った。
「……そうか」
それ以上は何も言わなかった。
三人は建物の影を使いながら帝城の周囲を進む。
「兵士、多いっすね」
マルディが囁く。
「ああ」
正門。
東側の通用門。
城壁上。
至るところに兵がいる。
「以前より増えている」
ジャンヌが眉をひそめた。
「私たちの動きを警戒してるんだろう」
「それだけじゃない」
大地は城壁を見る。
一定間隔で設置された巨大な鐘。
「警報装置か?」
「おそらくな」
さらに。
正門付近には大型の獣人兵。
弓兵。
魔法を使えそうな者までいる。
「正面突破は厳しいな」
「最初からそのつもりはない」
大地は周囲を見る。
舞台と同じだ。
どこから登場するか。
どう動くか。
どこへ観客の視線を向けるか。
全部。
演出次第。
「戻ろう」
「もういいのか?」
「ああ」
大地は笑った。
「材料は集まった」
数時間後。
レジスタンスの拠点。
机の上には、ジャンヌが描いた帝城周辺の地図が広げられていた。
「正門は無理だ」
大地が言う。
「兵が多すぎる」
「じゃあ裏から?」
ジュラルが尋ねる。
「それも難しい」
ジャンヌが地図を指す。
「裏門も警備が強化されてる」
「ならどうすんだよ」
大地は黙って地図を見る。
その横でフランが首を傾げた。
「とと、ここは?」
小さな指が地図の端を示す。
「そこは……」
ジャンヌが目を細めた。
「旧水路だ」
「水路?」
「昔、城へ水を引くために使われていた。今は使われていないはずだ」
「城まで続いてるのか?」
「ああ」
ジャンヌは少し考える。
「ただし、入口は封鎖されている」
大地の目が光った。
「封鎖されているだけなら、道はあるってことだ」
「なるほど!」
ジュラルが笑う。
「そこから入ればいいんだな!」
「まだ決めない」
「えぇ!?」
「確認が先だ」
大地は地図へ指を置く。
「それと、城へ入るだけじゃ意味がない」
「グリードを倒す必要がある」
ジャンヌが続けた。
「ああ」
大地は彼女を見る。
「だから中の構造も知りたい」
「……私が知っている」
全員の視線がジャンヌへ向く。
「昔は、あそこに住んでいたからな」
その声が少しだけ沈む。
父。
奪われた王座。
奪われた国。
大地は何も聞かなかった。
ただ。
「頼めるか?」
そう言った。
ジャンヌが大地を見る。
一瞬。
驚いたような表情。
やがて。
「ああ」
小さく頷いた。
「任せろ」
大地は地図へ向き直る。
「よし」
敵の配置。
侵入経路。
城の構造。
少しずつ。
攻略の糸口が見えてきた。
「次は旧水路を調べる」
「了解!」
ジュラルが拳を握る。
「いよいよっすね、アニキ」
「ああ」
大地は帝城の方向を見る。
ゾル・グリード。
奪われた国。
奪われた笑顔。
全部。
取り戻す。
その隣で。
ジャンヌも同じ場所を見ていた。
大地は気づかない。
ほんの一瞬だけ。
彼女が自分の横顔を見ていたことに。
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