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『転生したら最弱ダンジョンマスターになったので、サーカスを始めたいと思います!』  作者: フミンチュ
4章 獣帝国―ヴォル・ガイウス

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8.足りないもの……それは――

大地は指輪に意識を集中させた。


 目の前に半透明の画面が浮かぶ。


 召喚可能モンスター一覧。


 その中にある、ひとつの名前。


【オールウェポン】


 必要DPは決して安くない。


 だが。


「……今、必要なのはこいつだ」


 大地は迷わず選択した。


【オールウェポンを召喚しますか?】


 ――YES。


 瞬間。


 指輪から光が溢れた。


「うわっ!」


 ジュラルが思わず腕で目を覆う。


 フランは大地の服を掴んだ。


「とと、まぶしい!」


『召喚が始まります!』


 ラステリの声が響く。


 光は大地の前へ集まり、ゆっくりと人の形を作っていく。


 やがて。


 そこに一人の男が立っていた。


 年齢は四十代ほどに見える。


 背は高く、肩幅も広い。


 短く整えられた黒髪。


 顎にはわずかに無精髭。


 鋭い目つきではあるが、不思議と威圧感はなかった。


 むしろ。


 長い年月を戦場で過ごしてきたような。


 そんな落ち着きがある。


「……」


 男は何も言わない。


「え?」


 マルディが首を傾げる。


「終わりっすか?」


「……たぶんな」


 大地も男を見る。


 男も大地を見る。


 しばらく無言。


「……よろしく」


 大地が先に声をかけた。


「……ああ」


 低い声。


 それだけだった。


「めちゃくちゃ喋らない人っすね!?」


 マルディが驚く。


 男はちらりとマルディを見る。


「うるさい」


「喋った!」


 ジュラルが吹き出した。


「面白い奴だな」


「俺っすか!?」


 大地は苦笑しながら、召喚した魔物の情報を開いた。


【種族:オールウェポン】


【特性:武装変形】


【技能:全武装適応】


【技能:装備共有】


【技能:意思共鳴】


「……なるほど」


「何が分かった?」


 ジャンヌが聞く。


「こいつは武器になる」


「武器?」


「ああ」


 大地は表示を読み進める。


 武装変形。


 使用者が求める武器を読み取り、その形へ変化する能力。


 剣。


 槍。


 斧。


 弓。


 盾。


 それだけではない。


 使用者が明確に形を思い描けば、ある程度複雑な武器にも変化できる。


「便利すぎないっすか?」


 マルディが画面を覗き込む。


「制限はある」


 大地が答える。


「形は変えられる。でも使う側が扱えなければ意味がない」


「そりゃそうっすね」


「それと、同時に複数の武器にはなれない」


 ラステリが男を見る。


『つまり、一人を強化するための存在……でしょうか?』


「いや」


 大地は首を振る。


「装備共有って技能がある」


 オールウェポンは一度契約した仲間であれば、使用者を切り替えられる。


 戦況によって。


 剣が必要な者へ。


 盾が必要な者へ。


 遠距離武器が必要な者へ。


 移動できる。


「……まさに足りなかった枠だな」


 大地が呟いた。


 男は腕を組んだまま動かない。


「お前」


 大地が声をかける。


「名前は?」


「ない」


 即答だった。


「じゃあ付けるか」


「好きにしろ」


 マルディが大地の耳元に寄る。


「アニキ、めちゃくちゃ渋いっすね」


「聞こえてるぞ」


「すんません!」


 大地は少し考えた。


 武器。


 変化。


 戦況に応じて形を変える存在。


 だが、男自身は揺らがない。


 静かで。


 重い。


 一本芯が通っている。


「……ジレンツ」


 男が大地を見る。


「今日からお前の名前はジレンツだ」


「ジレンツ……」


 男は一度だけ自分の名前を口にした。


 そして。


「悪くない」


「決まりだな」


「ああ」


 その瞬間。


 ジレンツの身体が光に包まれる。


「えっ?」


 フランが目を丸くする。


 男の姿が光の粒となり、急速に小さくなっていく。


 最後に残ったのは。


 一つの指輪だった。


「……指輪?」


 ジュラルが覗き込む。


 黒銀色。


 装飾はほとんどない。


 ただ、中央に細い赤い線が一本だけ走っている。


「これが基本形態か」


 大地が指輪を手に取る。


 すると。


『そうだ』


 低い声が頭の中に響いた。


「念話もできるのか」


『この姿の時だけな』


 大地は指輪を右手にはめる。


 ぴたりと収まった。


『坊主』


「……坊主?」


『俺を使うなら覚えろ』


 ジレンツの声は淡々としていた。


『武器は持つだけじゃ意味がない』


 大地は黙って聞く。


『何を守る』


『何を斬る』


『何を貫く』


『それを決めるのは、使う側だ』


「……分かってる」


『ならいい』


 ジレンツはそれ以上何も言わなかった。


「とと!」


 フランが指輪を見る。


「ジレンツ、いる?」


『いる』


「いた!」


 フランが嬉しそうに笑う。


 大地も小さく笑った。


 新しい仲間。


 新しい役割。


 そして。


 今までになかった力。


 大地は右手を握る。


「ジレンツ」


『なんだ、坊主』


「試してみるか」


 一瞬の沈黙。


『……望むところだ』


 指輪が鈍く光る。


 次の瞬間。


 その形が。


 ゆっくりと変わり始めた。

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