8.足りないもの……それは――
大地は指輪に意識を集中させた。
目の前に半透明の画面が浮かぶ。
召喚可能モンスター一覧。
その中にある、ひとつの名前。
【オールウェポン】
必要DPは決して安くない。
だが。
「……今、必要なのはこいつだ」
大地は迷わず選択した。
【オールウェポンを召喚しますか?】
――YES。
瞬間。
指輪から光が溢れた。
「うわっ!」
ジュラルが思わず腕で目を覆う。
フランは大地の服を掴んだ。
「とと、まぶしい!」
『召喚が始まります!』
ラステリの声が響く。
光は大地の前へ集まり、ゆっくりと人の形を作っていく。
やがて。
そこに一人の男が立っていた。
年齢は四十代ほどに見える。
背は高く、肩幅も広い。
短く整えられた黒髪。
顎にはわずかに無精髭。
鋭い目つきではあるが、不思議と威圧感はなかった。
むしろ。
長い年月を戦場で過ごしてきたような。
そんな落ち着きがある。
「……」
男は何も言わない。
「え?」
マルディが首を傾げる。
「終わりっすか?」
「……たぶんな」
大地も男を見る。
男も大地を見る。
しばらく無言。
「……よろしく」
大地が先に声をかけた。
「……ああ」
低い声。
それだけだった。
「めちゃくちゃ喋らない人っすね!?」
マルディが驚く。
男はちらりとマルディを見る。
「うるさい」
「喋った!」
ジュラルが吹き出した。
「面白い奴だな」
「俺っすか!?」
大地は苦笑しながら、召喚した魔物の情報を開いた。
【種族:オールウェポン】
【特性:武装変形】
【技能:全武装適応】
【技能:装備共有】
【技能:意思共鳴】
「……なるほど」
「何が分かった?」
ジャンヌが聞く。
「こいつは武器になる」
「武器?」
「ああ」
大地は表示を読み進める。
武装変形。
使用者が求める武器を読み取り、その形へ変化する能力。
剣。
槍。
斧。
弓。
盾。
それだけではない。
使用者が明確に形を思い描けば、ある程度複雑な武器にも変化できる。
「便利すぎないっすか?」
マルディが画面を覗き込む。
「制限はある」
大地が答える。
「形は変えられる。でも使う側が扱えなければ意味がない」
「そりゃそうっすね」
「それと、同時に複数の武器にはなれない」
ラステリが男を見る。
『つまり、一人を強化するための存在……でしょうか?』
「いや」
大地は首を振る。
「装備共有って技能がある」
オールウェポンは一度契約した仲間であれば、使用者を切り替えられる。
戦況によって。
剣が必要な者へ。
盾が必要な者へ。
遠距離武器が必要な者へ。
移動できる。
「……まさに足りなかった枠だな」
大地が呟いた。
男は腕を組んだまま動かない。
「お前」
大地が声をかける。
「名前は?」
「ない」
即答だった。
「じゃあ付けるか」
「好きにしろ」
マルディが大地の耳元に寄る。
「アニキ、めちゃくちゃ渋いっすね」
「聞こえてるぞ」
「すんません!」
大地は少し考えた。
武器。
変化。
戦況に応じて形を変える存在。
だが、男自身は揺らがない。
静かで。
重い。
一本芯が通っている。
「……ジレンツ」
男が大地を見る。
「今日からお前の名前はジレンツだ」
「ジレンツ……」
男は一度だけ自分の名前を口にした。
そして。
「悪くない」
「決まりだな」
「ああ」
その瞬間。
ジレンツの身体が光に包まれる。
「えっ?」
フランが目を丸くする。
男の姿が光の粒となり、急速に小さくなっていく。
最後に残ったのは。
一つの指輪だった。
「……指輪?」
ジュラルが覗き込む。
黒銀色。
装飾はほとんどない。
ただ、中央に細い赤い線が一本だけ走っている。
「これが基本形態か」
大地が指輪を手に取る。
すると。
『そうだ』
低い声が頭の中に響いた。
「念話もできるのか」
『この姿の時だけな』
大地は指輪を右手にはめる。
ぴたりと収まった。
『坊主』
「……坊主?」
『俺を使うなら覚えろ』
ジレンツの声は淡々としていた。
『武器は持つだけじゃ意味がない』
大地は黙って聞く。
『何を守る』
『何を斬る』
『何を貫く』
『それを決めるのは、使う側だ』
「……分かってる」
『ならいい』
ジレンツはそれ以上何も言わなかった。
「とと!」
フランが指輪を見る。
「ジレンツ、いる?」
『いる』
「いた!」
フランが嬉しそうに笑う。
大地も小さく笑った。
新しい仲間。
新しい役割。
そして。
今までになかった力。
大地は右手を握る。
「ジレンツ」
『なんだ、坊主』
「試してみるか」
一瞬の沈黙。
『……望むところだ』
指輪が鈍く光る。
次の瞬間。
その形が。
ゆっくりと変わり始めた。
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