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『転生したら最弱ダンジョンマスターになったので、サーカスを始めたいと思います!』  作者: フミンチュ
4章 獣帝国―ヴォル・ガイウス

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7.足りないもの……

ダンジョンの奥で、鈍い衝撃音が響いた。


「せいっ!」


 ジュラルの拳が魔物の腹部に突き刺さる。


 巨体が大きく揺らぎ、その隙を逃さずラステリが飛び込んだ。


『マスター! いきます!』


「ああ!」


 ラステリの身体が三つに分裂する。


 三方向から同時に飛び込み、魔物の足元を崩した。


 その瞬間。


「フラン!」


「うんっ! とと!」


 フランの歌声が洞窟内へ響き渡る。


 柔らかな声。


 だが、その歌には確かな力が宿っていた。


 ジュラルの動きがさらに速くなる。


「おおおおっ!」


 最後の一撃。


 拳が魔物の顎を跳ね上げた。


 巨体が仰向けに倒れ、地面が震える。


「よし!」


 ジュラルが拳を握った。


 少し離れたところでは、ジャンヌが剣についた汚れを払いながら息を整えている。


「……悪くない」


 ジャンヌが呟いた。


「前より動きやすい」


「そりゃそうっすよ!」


 後方からマルディが声を上げる。


「姉さんたち、今まで好き勝手戦いすぎっす! ちゃんと役割決めれば、もっと強くなるっすよ!」


「誰が姉さんだ」


「怖っ!」


 マルディが大地の後ろへ隠れる。


「アニキ! 助けて!」


「自業自得だ」


「そんなぁ!」


 いつものやり取り。


 だが、大地は笑わなかった。


 倒れた魔物。


 仲間たち。


 それぞれの立ち位置。


 戦い方。


 大地は静かに全体を見ていた。


「……とと?」


 フランが首を傾げる。


「どうしたの?」


「いや」


 大地は短く答えた。


「まだ足りない」


「またっすか?」


 マルディが困った顔をする。


「結構いい感じになってると思うっすけど」


「確かにな」


 以前とは違う。


 ジュラルたちは周囲を見るようになった。


 ラステリも自分一人で突っ込まず、仲間の動きを意識するようになった。


 フランの支援。


 マルディの指揮。


 ジャンヌの剣。


 ジュラルの拳。


 連携は確実に形になっている。


 だが。


「……決め手が足りない」


 大地が言った。


「決め手?」


 ジャンヌが眉を寄せる。


「ああ」


 大地は自分の手を見る。


 武器はない。


 ラステリも。


 フランも。


 マルディも基本的には魔法と眷属だ。


 ジュラルは拳。


 まともに武器を使っているのはジャンヌくらいだった。


「俺たちは今まで、持ってるものだけで戦ってきた」


「それの何が悪い?」


「悪くはない」


 大地は首を振る。


「ただ、選択肢が少ない」


 ジャンヌの剣を見る。


「相手が速ければ?」


「追う」


「硬ければ?」


「斬る」


「遠ければ?」


 ジャンヌが黙る。


 大地は続けた。


「相手によって戦い方を変えられる奴が必要だ」


「戦い方……」


 ジュラルが呟く。


「例えば、剣」


 大地が指を一本立てる。


「槍」


 二本。


「斧」


 三本。


「弓」


 四本。


「盾」


 五本。


「……武器?」


 ラステリが念話で尋ねた。


『武器を増やす、ということですか?』


「ああ」


『でもマスター。武器を揃えるだけでも、かなりのお金が必要になります』


「そうだな」


 大地は小さく笑った。


「普通ならな」


 その言葉に、マルディが反応した。


「……アニキ」


「ああ」


「また何か考えてる顔っすね」


「失礼だな」


「いや絶対そうっすよ」


 大地は指輪を見る。


 ダンジョンコア。


 そこに表示されるDP。


 王都での公演。


 帝都での公演。


 無料配布。


 民衆の笑顔。


 そして、今日までの戦闘。


 少しずつ。


 確実に。


 DPは増えている。


「武器を買う必要はない」


「じゃあどうする?」


 ジュラルが尋ねる。


 大地は答えなかった。


 代わりに、指輪を操作する。


 半透明の画面が目の前に現れる。


 召喚可能モンスター。


 今まで何度も見てきた一覧。


 スライム。


 ハーピー。


 アンデッド。


 獣型。


 植物型。


 そして。


 大地の指が止まった。


「……あった」


「何がっすか?」


 マルディが覗き込もうとする。


 大地は画面を消した。


「秘密だ」


「えぇ!?」


 フランが楽しそうに笑う。


「とと、また仲間?」


 その言葉に。


 大地は少しだけ考えた。


 仲間。


 武器。


 その両方。


「……そうなるかもな」


 大地は指輪を見つめる。


 今までいなかった役割。


 誰かを守るための盾。


 敵を貫くための槍。


 切り裂くための剣。


 遠くへ届く弓。


 状況に応じて。


 必要な形へ。


「次の舞台に必要なのは――」


 大地の口元がわずかに上がる。


「新しい演者だ」


 指輪が淡く光った。


 召喚画面が再び開く。


 大地の指が、一つの名前の上で止まる。


 そして。


「さぁ――」


 大地は静かに呟いた。


「次の開演準備だ」

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