7.足りないもの……
ダンジョンの奥で、鈍い衝撃音が響いた。
「せいっ!」
ジュラルの拳が魔物の腹部に突き刺さる。
巨体が大きく揺らぎ、その隙を逃さずラステリが飛び込んだ。
『マスター! いきます!』
「ああ!」
ラステリの身体が三つに分裂する。
三方向から同時に飛び込み、魔物の足元を崩した。
その瞬間。
「フラン!」
「うんっ! とと!」
フランの歌声が洞窟内へ響き渡る。
柔らかな声。
だが、その歌には確かな力が宿っていた。
ジュラルの動きがさらに速くなる。
「おおおおっ!」
最後の一撃。
拳が魔物の顎を跳ね上げた。
巨体が仰向けに倒れ、地面が震える。
「よし!」
ジュラルが拳を握った。
少し離れたところでは、ジャンヌが剣についた汚れを払いながら息を整えている。
「……悪くない」
ジャンヌが呟いた。
「前より動きやすい」
「そりゃそうっすよ!」
後方からマルディが声を上げる。
「姉さんたち、今まで好き勝手戦いすぎっす! ちゃんと役割決めれば、もっと強くなるっすよ!」
「誰が姉さんだ」
「怖っ!」
マルディが大地の後ろへ隠れる。
「アニキ! 助けて!」
「自業自得だ」
「そんなぁ!」
いつものやり取り。
だが、大地は笑わなかった。
倒れた魔物。
仲間たち。
それぞれの立ち位置。
戦い方。
大地は静かに全体を見ていた。
「……とと?」
フランが首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや」
大地は短く答えた。
「まだ足りない」
「またっすか?」
マルディが困った顔をする。
「結構いい感じになってると思うっすけど」
「確かにな」
以前とは違う。
ジュラルたちは周囲を見るようになった。
ラステリも自分一人で突っ込まず、仲間の動きを意識するようになった。
フランの支援。
マルディの指揮。
ジャンヌの剣。
ジュラルの拳。
連携は確実に形になっている。
だが。
「……決め手が足りない」
大地が言った。
「決め手?」
ジャンヌが眉を寄せる。
「ああ」
大地は自分の手を見る。
武器はない。
ラステリも。
フランも。
マルディも基本的には魔法と眷属だ。
ジュラルは拳。
まともに武器を使っているのはジャンヌくらいだった。
「俺たちは今まで、持ってるものだけで戦ってきた」
「それの何が悪い?」
「悪くはない」
大地は首を振る。
「ただ、選択肢が少ない」
ジャンヌの剣を見る。
「相手が速ければ?」
「追う」
「硬ければ?」
「斬る」
「遠ければ?」
ジャンヌが黙る。
大地は続けた。
「相手によって戦い方を変えられる奴が必要だ」
「戦い方……」
ジュラルが呟く。
「例えば、剣」
大地が指を一本立てる。
「槍」
二本。
「斧」
三本。
「弓」
四本。
「盾」
五本。
「……武器?」
ラステリが念話で尋ねた。
『武器を増やす、ということですか?』
「ああ」
『でもマスター。武器を揃えるだけでも、かなりのお金が必要になります』
「そうだな」
大地は小さく笑った。
「普通ならな」
その言葉に、マルディが反応した。
「……アニキ」
「ああ」
「また何か考えてる顔っすね」
「失礼だな」
「いや絶対そうっすよ」
大地は指輪を見る。
ダンジョンコア。
そこに表示されるDP。
王都での公演。
帝都での公演。
無料配布。
民衆の笑顔。
そして、今日までの戦闘。
少しずつ。
確実に。
DPは増えている。
「武器を買う必要はない」
「じゃあどうする?」
ジュラルが尋ねる。
大地は答えなかった。
代わりに、指輪を操作する。
半透明の画面が目の前に現れる。
召喚可能モンスター。
今まで何度も見てきた一覧。
スライム。
ハーピー。
アンデッド。
獣型。
植物型。
そして。
大地の指が止まった。
「……あった」
「何がっすか?」
マルディが覗き込もうとする。
大地は画面を消した。
「秘密だ」
「えぇ!?」
フランが楽しそうに笑う。
「とと、また仲間?」
その言葉に。
大地は少しだけ考えた。
仲間。
武器。
その両方。
「……そうなるかもな」
大地は指輪を見つめる。
今までいなかった役割。
誰かを守るための盾。
敵を貫くための槍。
切り裂くための剣。
遠くへ届く弓。
状況に応じて。
必要な形へ。
「次の舞台に必要なのは――」
大地の口元がわずかに上がる。
「新しい演者だ」
指輪が淡く光った。
召喚画面が再び開く。
大地の指が、一つの名前の上で止まる。
そして。
「さぁ――」
大地は静かに呟いた。
「次の開演準備だ」
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